アメリカ海軍は2021年8月8日(現地時間)、最新の空母ジェラルド・R・フォードが水中爆発に対する耐久性を確認する3回目にして最終の試験を大西洋上で実施し、無事に成功したと発表しました。これは魚雷や機雷による攻撃を想定したもので、試験では約18トンもの爆薬が使用されています。

 軍艦にとって、魚雷や機雷といった水中からの攻撃による損傷は、沈没に直結するため非常に危険。特に爆発で発生する水中衝撃波は、爆薬の爆発力だけでなく、爆発によって押しのけられる水の重量がプラスされるので、船体への被害を大きくします。

 当然、軍艦としての耐久性を十分確保できるよう、設計段階で考慮して建造しているのですが、それはあくまでも想定値に過ぎません。海は場所や天候などによって海水の密度(重さ)が異なり、水中爆発にともなう衝撃波の強さも違ってくるので、計算通りの耐久性を有しているかどうかは、実際に水中で爆発を起こし、その衝撃を与えてみないと分からないのです。

岸壁を離れる空母フォード(Image:U.S.Navy)

 空母フォードは、アメリカ海軍で初めてコンピュータ・モデリングを全面的に採用して設計された艦船。これまでと違った設計手法が用いられているため、実際に至近距離で水中爆発を起こし、船体が衝撃に耐えられるか試験することになりました。

試験海域へと航行する空母フォード(Image:U.S.Navy)

 空母の水中爆発試験は、1987年に実施されたニミッツ級の4番艦、セオドア・ルーズベルト以来のこと。ニミッツ級は建造期間短縮のため、ルーズベルト以降は船体をモジュール化して組み立てる新しい方式を採用しているので、従来の建造法と船体強度に違いがないか確認する必要があったのでした。

 空母フォードに対する最初の水中爆発試験は、2021年6月18日に実施されています。7月16日に2回目の試験が行われ、最終となる3回目の試験が8月8日に実施されました。

駆逐艦ポール・イグナティウスと空母フォード(Image:U.S.Navy)

 駆逐艦ポール・イグナティウスをともない、空母フォードはフロリダ州ジャクソンビル沖の大西洋に進出。海軍の調査船NAWC 38が4万ポンド(約18トン)の爆薬を曳航し、フォードと並走します。

爆薬を曳航する海軍調査船NAWC 38(Image:U.S.Navy)

 爆薬は、空母フォードの右舷で爆発。爆発の瞬間は青い円ができ、次いで衝撃波が白い波となって広がります。

爆発の瞬間(Image:U.S.Navy)

 一瞬ののち、水柱はフォードの高さ約76mあるマストより2倍以上もの高さにまで達し、爆発の大きさを感じさせます。空母フォードは爆発により、地震のような揺れが襲いましたが、船体構造に問題はないことが確認されました。

水柱はフォードのマストの2倍以上の高さまで(Image:U.S.Navy)

 この試験を統括したジェームス・P・ダウニー少将は「この試験はフォード級空母の開発において、非常に重要なものです。船とその乗組員たちは、この試験という困難な状況下においても能力を発揮し、船が戦闘に耐えられることを証明しました。我々海軍は世界の安全保障上、最も懸念のある環境でも空母を運用しています。したがって、機雷などによる間接的な爆発による危険を考えた時、この試験は大きな意味を持っているのです」との談話を試験終了後に発表しています。

空母フォードと駆逐艦ポール・イグナティウス(Image:U.S.Navy)

 この試験では、水中で大きな爆発を起こすため、海洋生物や環境に大きな影響を与えます。アメリカ海軍では試験に先立ち、試験エリアへの立ち入りを制限したほか、試験に際しても自然環境保護に関する政府の要件を遵守。このほか、海洋生物学者などの科学者チームに立ち会ってもらい、試験が海洋生物にどのような影響を与えたかについても調査をしています。

<出典・引用>
アメリカ海軍 ニュースリリース
Image:U.S.Navy

(咲村珠樹)