新型コロナウイルスの感染拡大が続くヨーロッパ。中には医療従事者用の物資が不足する国もあります。NATOでは医療物資が不足している加盟国に対し、輸送機で運ぶ任務を続けています。3月25日にはスロバキア、26日(いずれも現地時間)にはルーマニアに物資を空輸しました。

 NATOには、加盟国が共同で運用する2種類の空輸プログラムが存在します。ひとつは「SAC(Strategic Airlift Capability)」と呼ばれる戦略空輸能力、もうひとつは「SALIS(Strategic AirLift International Solution)」と呼ばれる加盟国間の国際協力プログラムです。

 これらの空輸プログラムは加盟国が定期的に担当し、NATOの作戦区域への物資輸送のほか、災害時の人道支援などにも活用されます。今回はルーマニアとスロバキアの両政府が調達した医療従事者用の防護服や手袋、マスクなどを2020年3月25日から3月26日にかけて空輸しました。

 まず、SALISプログラムによりチャーターされたAn-124貨物機が、中国の天津から防護服や手袋、医療用マスクに医薬品、計74トンを積んで3月25日の14時30分(現地時間)に、スロバキアの首都ブラチスラヴァ空港に到着。スロバキア軍の兵士が荷下ろし作業を行います。



 これらの医療用物資はスロバキア軍のトラックに積み替えられ、各地の医療機関に運ばれます。医療用手袋の箱には、中国からの「協力して、この世界的な困難に打ち克ちましょう」というメッセージも添えられています。



 また3月26日朝(現地時間)、ルーマニアの首都ブカレストの空港には、NATOのSACプログラムが運用するC-17輸送機が韓国から到着。10万着の防護服をはじめ、ルーマニア政府が調達した45トン分の医療用物資が運び込まれました。


 NATOは、一義的には軍事同盟だといえます。しかし長年の運用により、加盟国間が連帯して軍事的な装備や組織を使い、様々な物事に対処する仕組みも作り上げました。特にこれは、互いに国境を接するヨーロッパの加盟国で大きな役割を果たしています。


 ほかの国と陸続きになっていない日本では、なかなか想像するのは難しいのですが、隣国と陸続きになっている国の場合、隣国に起きた事態が自国に波及しやすい環境です。個人的な好き嫌いはもちろん存在しますが、政治的には20世紀に発生した2度の大戦を通じ、ヨーロッパでは互いに連携する重要性を認識しているといえるでしょう。

<出典・引用>
NATO ニュースリリース
スロバキア国防省 ニュースリリース
Image:NATO/スロバキア国防省

(咲村珠樹)