無人航空機のテクノロジーは日々進化していますが、最大で1年間飛び続けることが可能だという無人機「PHASA-35」が初飛行に成功しました。2020年2月17日(現地時間)、開発したBAEシステムズが発表しています。

 無人航空機の利点は、大きく分けて2つ。人が乗る必要がないので、その分機体規模を小型化できることと、長時間飛行を続けられることです。とはいえ、いくら長時間の飛行ができるといっても、エンジンを動かす燃料や、モーターを動かすバッテリー容量がなくなれば、飛び続けることはできません。

 その弱点を克服する有力なシステムが、ソーラー発電です。機体に太陽電池を取り付け、そこで作り出された電力でモーターを動かせば、理論上はずっと飛び続けることが可能。問題は、太陽電池の発電量と、モーターや飛行を制御する機器が消費する電力とのバランスです。

 BAEシステムズが、イギリスの防衛科学技術研究所(DSTL)とオーストラリアの防衛科学技術グループ(DSTG)からの助成を受け、イギリスの航空宇宙ベンチャー企業プリズマティック(2019年10月にBAEシステムズが子会社化)と共同開発した「PHASA-35」は、全幅35mという非常に細長い(アスペクト比の大きい)主翼を持つグライダーのようなソーラー無人機。

 胴体は尾翼を支える棒のような形状で、主翼の上面にはびっしりと太陽電池が取り付けられています。ここで発電した電力は、両主翼に取り付けられた2つのモーターを動かし、プロペラを回転させて飛行します。

 重量のある制御機器などは、構造上丈夫になっている主翼下に集中配置。人が乗ることを前提としていない無人機だからこそ、これほどまでに極端な機体設計が可能になりました。

 作られたのは予備も含めて2機。このうちの1機が、オーストラリア南部のウーメラ空軍試験場(小惑星探査機はやぶさのサンプルカプセルが着地した場所)での初飛行に臨みました。あまりに主翼が細長いので、先端が接地しないよう支えられながら滑走を始めたPHASA-35は、離陸すると重量と空気抵抗の元となる主翼モーター下の車輪を切り離し、上昇していきます。

 今回は飛行状態の確認のため、短時間のフライトで着陸しましたが、誘導抵抗が少なく滑空しやすい主翼形状と機体重量、太陽電池の発電量からすると、高度1万m以上の高さを最大1年間は飛行を続けられる設計になっているといいます。

 BAEシステムズのエンジニアリング・ディレクタ、イアン・マルドネイ氏は「今回の初飛行は予想以上の成功で、イギリス最高の能力を見せることができたと思っています。初飛行までの2年弱という設計期間で、我々はイギリス政府が出した課題に対し、工業界が2030年代に将来型航空戦闘システム(FCAS)を提供可能だと証明することができました」と、今回の初飛行が持つ意義について語っています。

 長時間高高度にとどまれる(HALE=High Altitude Long Endurance)無人航空機は、地上や海上の偵察や観測調査のほか、5Gなどの移動体通信ソリューションを提供する上でも有力な手段となります。

 日本のソフトバンクも子会社のHAPS(High Altitude Platform Station)モバイルを通じ、高高度の成層圏で長時間滞空する携帯電話の基地局として、この種の無人航空機を有力な候補にしています。試作機のHAWK30が2019年9月11日、NASAのアームストロング飛行研究センターで初飛行に成功し、2020年3月にも高高度飛行試験をハワイで予定しているといいます。

 BAEシステムズでは、次の飛行試験も2020年中に予定しており、試験を重ねて問題点を洗い出し、開発を進める予定。飛行試験が完了して12か月後には、商用利用を始められるようにするとのことです。

<出典・引用>
BAEシステムズ ニュースリリース
プリズマティック ニュースリリース
Image:BAE Systems
HAWK30画像:NASA/Carla Thomas

(咲村珠樹)