レーダー誘導ミサイルの攻撃から身を守るデコイ(おとり)。アメリカ海軍は次世代デコイの開発を総額3670万ドル(約39億8900万円)でBAEシステムズに発注しました。2019年10月28日(現地時間)、BAEシステムズが明らかにしています。

 視程外(BVR)から攻撃可能なレーダー誘導ミサイルは代を経るごとに高性能化し、有効射程距離も伸びています。攻撃される側としては、相手の存在を確認する余裕もなく、ミサイルからのレーダー波を感知した時には避けるのが難しくなっていることも。

 このようなレーダー誘導ミサイルから回避する手段として、一般的に使用されているのが、ミサイルや発射母機の火器管制レーダー波の波長に対応し、レーダー波を乱反射させて追尾を妨害する「チャフ」と呼ばれるアルミホイルのような金属の薄片。そして自機とは別の物体からレーダー波を発し、ミサイルの誘導を妨害する「デコイ(おとり)」です。

 現在、アメリカ海軍で使用されている対レーダー誘導ミサイル用曳航デコイは、BAEシステムズが開発したAN/ALE-55。元々はC-130用に開発されましたが、格納容器がコンパクトなため、戦闘機などにも広く使われています。

 主翼下のパイロンに装着した格納容器から展開されたALE-55は、光ファイバーで曳航する母機からレーダー波のデータを受け取り、その周波数の電波を内蔵されたアンテナから発します。飛んでくるミサイルは、複数の方向から目標を示すレーダー反射波を感知することになり、正しい方向へ誘導できなくなってしまう、という仕組み。

 アメリカ海軍が構想している次世代型のデコイは、複数の周波数帯に対応し、幅広い種類のミサイル脅威から航空機を守るもの。これまでに3000ユニット以上が生産されているALE-55の能力をさらに高めたものといえます。

 BAEシステムズのプログラム・ディレクター、トム・マッカーシー氏は「私たちの曳航型デコイは、非常に厳しい状況において、パイロットの任務遂行を可能にしてました。ALE-55光ファイバー曳航デコイ(FOTD)は信頼ある、高出力のジャミング(電波妨害)システムであり、長年F/A-18E/Fや、そのほか数々の航空機で任務成功を助けてきました。今回のデュアルバンド・デコイの開発契約では、信頼あるALE-55の技術を基本に、将来の脅威に対応できる製品にしていきます」と、今回の開発契約についてコメントしています。

 空中戦においてステルス機からの攻撃が現実味を帯びる中、レーダー波を感知した時にはミサイルが命中する寸前、ということもあり得ます。転ばぬ先の杖となる電子戦で、デコイが果たす役割はこれから大きくなっていくことでしょう。

<出典・引用>
BAEシステムズ プレスリリース
Image:BAE Systems

(咲村珠樹)