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シングルセルRNAシークエンスを用いたPOEMS症候群における腫瘍細胞の同定および腫瘍細胞特異的表面抗原パターンの発見

update:
国立大学法人千葉大学
千葉大学医学部附属病院血液内科、東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター幹細胞分子医学分野、東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻などから成る研究グループは、シングルセルRNAシークエンス(注1)を用いてPOEMS症候群患者由来の骨髄形質細胞の遺伝子発現を1細胞ごとに解析することで、患者骨髄中のPOEMSクローンの同定に成功しました。
さらにPOEMSクローンの特徴を詳細に解析することで、POEMSクローンでは、細胞表面のCD19およびMHCクラスII(注2)の発現が有意に低下していることが明らかとなり、これらを用いて全形質細胞からPOEMSクローンだけを分離する方法を確立しました。



POEMS症候群は、多発性骨髄腫などと同様に形質細胞性腫瘍に分類される稀な腫瘍性疾患ですが、末梢神経障害、肝脾腫、内分泌異常、皮膚病変など多彩な症状を引き起こすことが特徴であり、その病態については不明な点が多く、治療法も限られています。POEMS症候群では、他の形質細胞性腫瘍と比較して、腫瘍性形質細胞数が極めて少ないと考えられており(図1)、形質細胞性腫瘍の研究で一般的に用いられている実験手法では、POEMS症候群における腫瘍性形質細胞(POEMSクローン)の性質を十分に評価できないことが、病態解明が進まない一因となっていました。
今回の細胞表面マーカーを用いたPOEMSクローン同定法の確立により、臨床の場において治療効果判定に応用されることが期待されるほか、POEMSクローン特異的な研究が可能になることから、さらなる病態解明につながることが期待されます。本研究成果は、2022年9月21日、国際科学雑誌「JCI Insight」オンライン版に公開されました。


発表者:

一色 佑介(米国コーネル大学医学部血液腫瘍内科 博士研究員 千葉大学医学部附属病院 血液内科より留学中)
大島 基彦(東京大学医科学研究所 附属幹細胞治療研究センター 幹細胞分子医学分野 助教)
三村 尚也(千葉大学医学部附属病院 輸血・細胞療法部 講師 血液内科兼任)
岩間 厚志(東京大学医科学研究所 附属幹細胞治療研究センター 幹細胞分子医学分野 教授)


発表のポイント:

◆形質細胞(注3)由来の稀少な腫瘍性疾患であるPOEMS症候群における、腫瘍性形質細胞(POEMSクローン)を、世界で初めて同定しました。
◆POEMSクローンは、正常形質細胞と比較して細胞表面のCD19およびMHCクラスIIの発現が有意に低下しており、この特徴を用いて全形質細胞からPOEMSクローンを分離する方法を確立しました。
◆POEMSクローンの同定法の確立により、治療効果判定への応用や、病態解明を目的としたさらなる研究の発展が期待されます。

発表内容:

本研究では、POEMS症候群における腫瘍性形質細胞(POEMSクローン)の同定と、その特徴を明らかにすることを目的として、シングルセルRNAシークエンスを用いて、POEMS症候群患者由来の骨髄形質細胞の遺伝子発現を1細胞ごとに解析しました。得られたシークエンスデータをもとに免疫グロブリンレパトア解析(注4)を行い、同一の免疫グロブリンレパトアを有する腫瘍性形質細胞の同定に世界で初めて成功しました。以前から想定されていたように、POEMSクローンは全形質細胞中のごく一部に限られており、この割合は他の形質細胞性腫瘍である多発性骨髄腫や、その前駆病変の意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)よりも有意に少ないことが確認されました(図1)。さらにPOEMSクローンの特徴を詳細に解析することで、POEMSクローンでは同一患者の正常形質細胞と比較して、蛋白合成経路の遺伝子発現が有意に亢進しており、より盛んに免疫グロブリンを産生していることが示唆されました。POEMS症候群ではクローン由来の免疫グロブリンが様々な症状の原因となっていることが想定されており、限られた腫瘍細胞数であっても、各腫瘍細胞が盛んに免疫グロブリンを産生することで、多彩な全身症状を引き起こしていると考えられました。
またPOEMSクローンでは、同一患者中の正常形質細胞と比較して、細胞表面のCD19およびMHCクラスIIの発現が有意に低下していることも明らかとなり、この発見をもとに、CD19陰性HLA-DR陰性形質細胞を患者骨髄から分離すると、POEMSクローンを純化することが可能となることを、RNAシークエンスを用いた免疫グロブリンレパトア解析で明らかにしました(図2)。すなわち、世界で初めて、細胞表面マーカーを用いてPOEMSクローンを同定する方法の確立に成功いたしました。
一方、POEMS症候群の腫瘍マーカーとして広く用いられている血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現レベルは、POEMSクローンと正常形質細胞ではほぼ同等であり、VEGFは形質細胞以外の細胞から産生されている可能性が高いことも明らかとなりました。VEGF産生細胞の同定、またPOEMSクローンがどのようにVEGF産生細胞を活性化するかに関しては、さらなる研究が必要です。
本研究成果はPOEMS症候群の病態解明の一助となるものであり、特に細胞表面マーカーを用いたPOEMSクローン同定法の確立は、今後POEMS症候群の臨床および研究において広く利用されることが期待されます。臨床面においては、POEMSクローンサイズを定期的に解析することで、治療効果判定および治療方針の決定などに応用できると考えられます。研究においても、POEMSクローン特異的な解析が可能となるため、病態解明や治療標的分子の検索に用いられることが期待されます。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(18K08338, 16H06279, 19H05653, 19H05746, 22K08471)研究助成により実施されました。

発表雑誌:

雑誌名:「JCI Insight」(2022年9月21日 オンライン版)
論文タイトル: Unraveling unique features of plasma cell clones in POEMS syndrome by single-cell analysis
著者: Yusuke Isshiki, Motohiko Oshima, Naoya Mimura, Kensuke Kayamori, Yurie Miyamoto-Nagai, Masahide Seki, Yaeko Nakajima-Takagi, Takashi Kanamori, Eisuke Iwamoto, Tomoya Muto, Shokichi Tsukamoto, Yusuke Takeda, Chikako Ohwada, Sonoko Misawa, Jun-ichiro Ikeda, Masashi Sanada, Satoshi Kuwabara, Yutaka Suzuki, Emiko Sakaida, Chiaki Nakaseko and Atsushi Iwama.
DOI : https://doi.org/10.1172/jci.insight.151482


用語解説:

(注1)シングルセルRNAシークエンス:
1細胞ごとのRNA発現解析を可能にする技術。従来のRNAシークエンスは数千から数十万個の細胞数を必要としていたが、本技術により1細胞ごとに詳細な遺伝子発現を行うことが可能となった。
(注2)MHCクラスII:
B細胞や抗原提示細胞表面に発現しており、ヘルパーT細胞による抗原認識に必須のタンパク複合体。ヒトでは、MHCクラスIIは、ヒト白血球型抗原遺伝子複合体(HLA)によってコードされている。MHCクラスIIに対応するHLAは、HLA-DP、HLA-DM、HLA-DOA、HLA-DOB、HLA-DQ、およびHLA-DRである。
(注3)形質細胞:
成熟したBリンパ球で、抗体産生に特化した細胞。主に骨髄中に存在する。
(注4)免疫グロブリンレパトア:
形質細胞が産生する免疫グロブリン(抗体)をコードする遺伝子の配列もしくはアミノ酸配列。1つの形質細胞は、特異的な抗原に反応する1種類の免疫グロブリンのみを産生しており、各形質細胞はそれぞれ別々の抗原に対応していることから、細胞ごとにこの配列は大きく異なる。一方で、腫瘍性形質細胞は同一の形質細胞を起源としていることから、同一の免疫グロブリンレパトアを有している。この点を利用することで、シングルセルRNAシークエンスデータから腫瘍性形質細胞と正常形質細胞を区別することが可能となる。

添付資料:



[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/627/resize/d15177-627-e49f7cfb751a2bb49e31-2.jpg ]

[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/627/resize/d15177-627-d615201c82cc72b557b3-3.jpg ]

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