「うちの本棚」、今回取り上げるのは横山光輝のハードボイルドバイオレンス劇画『野獣』です。他の横山作品にはない魅力をご堪能ください。

横山光輝のハードボイルド青年「劇画」といっていい作品。連載時の扉絵を見ると、さいとう・たかをなどの劇画作品に影響されたような「目」を意識的に取り入れているようにも見える。


もっとも本編そのものは主人公の年齢が少年漫画作品よりはるかに高いということもあってクリクリの目ではないものの、それほど他の横山作品からかけ離れた印象はない。

この作品はそれまでの横山作品に比べ、青年劇画というジャンルでもありバイオレンスものという新しいテーマにチャレンジしている感はあるわけだが、当時、大藪春彦などバイオレンスハードボイルド小説も人気となっていたので、主人公の性格設定などにはその影響も見受けられる。

ストーリーは主人公が恩赦により刑期より早く刑務所を出所するところから始まる。主人公は弟と友人の3人で、ある暴力団が密輸ダイヤの取引を行うことを知りそのダイヤを横取り。追求をかわすため傷害事件を起こし刑務所に入っていた。出所してみると弟はダイヤを横取りされた暴力団によって殺されてしまっていたが、友人は追求を逃れ密かに暮らしておりダイヤの隠し場所を知る唯一の人物となっていた。時を見計らってダイヤを金に換えようとするのだが、新たにそのダイヤの存在を知る組織に主人公は狙われることになる。友人の存在も知られ、ついには友人も殺されてダイヤの隠し場所も謎のままになったかに思われたのだが、死んだはずの友人が生きているらしいことがわかり、主人公の命まで狙い始めるのだった…。

と、まさにハードボイルドバイオレンス小説といっていい内容。もともと主人公が暴力組織に居たとも思えないのだが拳銃やライフルを撃ちまくり冷酷に人を殺していく。タイトルにもある「野獣」的な性格というわけである。

またこの作品には少年漫画ではほとんど登場してこない女性キャラクターが主人公と行動をともにするという形でほぼ全編に渡って登場している。表現はおとなしいが濡れ場も描かれているのは横山作品としては珍しいかもしれない。このあたりも青年劇画を意識したためだろう。

70年というと、小学館では「ゴールデンコミックス」などの単行本シリーズがあり、本作品もそこから刊行されてもよかったと思うが、残念なことに2008年刊行の講談社漫画文庫による単行本化までまとめられることがなかった。

初出/週刊プレイボーイ[小学館](1970年1月~7月)
書誌/講談社・講談社漫画文庫(刊行巻数)

(文:猫目ユウ)