「うちの本棚」、今回は横山光輝の代表作のひとつである『宇宙船レッドシャーク』を取り上げます。宇宙開発もまだまだ夢物語という時代に太陽系を飛び出して宇宙を駆けめぐるレッドシャークと隊長の健二。ロマンあふれる物語でありながらシビアな要素も含んだ秀作です。

本作は横山光輝の代表作としてプロフィールにもたびたび記載されていたにもかかわらず連載終了後、2005年2月の講談社文庫で刊行されるまで単行本化されなかった作品。


同じ時期に「少年マガジン」に連載されていた『コマンドJ』も同じように単行本化されていなかったことを考えると昭和40年(1965年)前後は連載=単行本化という出版の流れができる以前で、単行本化されないままになっている作品が多いのかもしれない。もちろん本作が横山の代表作として知られている点などを考えると、連載終了後にも単行本化のオファーはあったはずなので、何からかの事情で作者自身が単行本化を拒んでいたとも考えられる(『コマンドJ』などはそのあたりの事情がありそうだが)。
 
本作は「疫病神ジャック」「ガニメド」「マロー星探検隊」「反乱」「宇宙からの帰還者」の5話からなっている。主人公は一色健二という養成学校を卒業したばかりのパイロットの卵で、一流の宇宙パイロットに成長していく物語といえる。もっともそのような内容をストレートに描いているのは第1話であり、第2話以降は歳は若いが優秀なパイロットとして隊長という立場で活躍していく。

横山作品は時に非情な展開を見せることがあるのだが、本作ではそれが全般的に見られるように感じた。もちろんヒューマニズムに基づくギリギリの判断という展開であることが多いわけだが、連載当時の対象読者層を考えるとそうとうにシビアで、もしかするとトラウマになるような展開だったかもしれない。その代表的なエピソードが第1話であり、個人的にはこれが本作の中でももっともよくできていると思える。

また、単にロケットで宇宙を冒険するというだけでは読者に飽きられると考えたのか、第4話ではスパイ物的な要素が見られたり、第5話では宇宙怪獣が登場したりもしている。もっとも連載当時を考えてみるとスパイブーム、怪獣ブームという社会状況があったことも影響しているのだろう。

ちなみにタイトルでもある「レッドシャーク」は健二が乗るロケットの名前。さまざまなミッションを与えられる健二であり、そのつど要求される内容も違うので、本来であれば乗るロケットはミッションに合わせて変わってもよさそうなものだが、タイトルにしてしまったこともあり、常にレッドシャークに搭乗することになる。とはいえ、今であればロケットそのものに装備などで個性をもたせるだろうが、本作では単なる乗り物として扱われ、セリフの中でもあまり「レッドシャーク」という単語が出てこなかったりする。『鉄人28号』その他のロボット物で、主人公とメカとのつながりを描いていたことも考えると、レッドシャークに対する健二の愛着がほとんど描かれていないのはちょっと意外な気もする。

蛇足だが、連載当時本作はソノシートも発売されていた(アニメ化の企画もあったはず)。主題歌は『21世紀に遺したいアニメソング大全』でCD化された。

初出/集英社「少年ブック」(1965年4月号~1967年3月号)
書誌/講談社・講談社漫画文庫(上下巻)

(文:猫目ユウ)