「うちの本棚」第三十六回は、変身ブームの中描かれた知られざるヒーロー『ネオマスク』です。

天才科学者といわれた伊吹雄作は第二次大戦中、軍によって作られた私的な研究所で超人的な能力を発揮できる「ネオマスク」の研究を続けていた。そのマスクのテストに孫の志郎を使いデータを収集していたが、ある日志郎は気象をコントロールし街を混乱させる「超人1号」と出会い、「超人兵団」と名乗る一団が世界征服を企んでいることを知る。


前半は「超人兵団」と戦うネオマスクが殺人犯にまちがわれるなど、孤独なヒーローとしての展開を見せるが、いつのまにかそれもうやむやになってしまうのはちょっと残念。また世界的な組織である「超人兵団」に対しネオマスクひとりの戦いでは分が悪いと感じたのか後半では唐突に「ネオアトラス」なる組織が登場する。とはいってもその正体は謎のまま終わってしまったが…。
 
作品が連載された72年は前年に『仮面ライダー』が放映開始され、いわゆる「変身ブーム」真っ只中。原作にアニメ作品の脚本を多く手がけた辻 真先が起用されたのもそれら変身ヒーローのひとつとして企画されたという印象がある。

テンポもよく読みやすい作品という印象ではあるが、対する敵が超能力を持っているとは言うものの、地味なコスチュームやいわゆるエスパー的な能力とはちょっと違っている点でインパクトが弱く、ひいてはネオマスク自体が引き立たないということになってしまったような気がする。ネオマスク自体のスタイル、デザインがシンプルではあるが悪くないだけに惜しいところだろう。

作画を担当した小畑しゅんじは『キャプテンウルトラ』のコミカライズを担当したこともありSF作品やホラー作品も多い。とはいえ安心して読める反面こじんまりとまとまってしまうという印象も否めないところがあり、結果的に『ネオマスク』を「知られざるヒーロー」の位置にしてしまった感もある。

小畑は作品数も多く一時期は相当な連載作品も抱えていたようだが、単行本化される機会に恵まれず、代表作である『ガッツジュン』も単行本としてはそれほど目立った形では刊行されていない。ほかに思い出されるのは講談社コミックスで出された『ゲタバキ甲子園』、秋田サンデーコミックスの『マスクマン0』といったところか。『キャプテンウルトラ』は曙書房で単行本化されていたが、テレビドラマのコミカライズにしてはその存在自体がほとんど知られていなかった印象すらある。近年「マンガショップシリーズ」で短編作品などもまとめられているので小畑の評価が改められる機会もあるだろう。

初出/秋田書店・週刊少年チャンピオン(1972年7号~29号)
書誌/永岡書店・ナガオカコミックス(全2巻)
   パンローリング・マンガショップシリーズ(全1巻)

■ライター紹介
【猫目ユウ】

ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。