皆様こんにちは。今回の『新作アニメ捜査網』では、TBS系列で放送中のテレビアニメ『アマガミSS』をご紹介致します。
この番組はエンターブレインから発売された恋愛シミュレーションゲームをアニメ化したものです。


本稿では、『アマガミSS』の特徴を探るために、まず、
(1)恋愛シミュレーションゲーム・恋愛アドベンチャーゲーム・美少女ゲーム(以下、本文では便宜上、恋愛ゲームと総称)をアニメ化する上での問題点
(2)その問題点を乗り越えるために先達はどのような工夫を施したか
の2点を眺め、その上で『アマガミSS』の特徴を眺めたいと思います。どうかお付き合いのほどを宜しくお願いします。

恋愛ゲームの基本的な構成は、プレイヤーが操作する主人公が女の子と仲良くするというプロットです。恋愛ゲームにおいて主人公はプレイヤーの分身であることから、ゲーム画面には主人公の顔が映らないことが少なくありません。ロールプレイングゲームに登場する、喋らない主人公と同じパターンであると言えます。

恋愛ゲームには多くの女性キャラクターが登場し、主人公と交流を重ねますが、その中でも主人公は、プレイヤーが特に好むヒロインと仲良くすることになります。つまり恋愛ゲームは、数多くのヒロインのうち、プレイヤーが好むヒロインをメインヒロインとし、その他のヒロインを脇役とすることができるのです。恋愛ゲームの劇中世界には、プレイヤーの操作によって、ヒロインAがメインヒロインとなる世界、ヒロインBがメインヒロインとなる世界、ヒロインCがメインヒロインとなる世界という具合に、無数のパラレルワールド(並行世界)が出現します。攻略可能キャラであれば、全てのヒロインがメインヒロインになり得るのです。

では、恋愛ゲームをアニメ化しようとした場合、どのような作品となるのでしょうか?
 
☆パターン1
数多くのヒロインの魅力を描こうとした場合、メインヒロインを特に定めることなく、群像劇にするという手法があります。

まずは1999年のOVA『ときめきメモリアル』。

この作品には主人公となる男子生徒が登場せず、ただひたすらヒロイン達の高校生活を描いています(ヒロインの1人・早乙女優美の兄である好雄も登場。尚、ライトノベル版とドラマCDには主人公の男子生徒が登場し、ライトノベル版の挿絵では顔が描かれないがドラマCDのライナーノーツでは顔が描かれている)。10人以上いるヒロイン達の様子を無理矢理詰め込んだため、ダイジェスト状態となっており、ヒロインによっては殆どストーリーらしいストーリーが存在しない有り様となっています。また、原作ゲームではヒロイン同士の絡みがないのに対してOVAではヒロイン同士の絡みが多いのも特徴であり、例えば清川望、片桐彩子、虹野沙希の3人はいつもつるんでいます(一方、ライトノベル版やドラマCDで2人1組扱いだった朝日奈夕子と古式ゆかりは絡みがない)。また主人公の男子生徒が登場しないことから、原作ゲームでヒロインが主人公に対してとっていた行動が、OVAでは女性キャラクターを相手にして行われています。虹野は原作ゲームにおいて主人公にお弁当を作ってきますが、OVAでは清川にお弁当を作っていますし、原作ゲームで主人公の家に間違い電話をかけてきた館林見晴は、OVAでは藤崎詩織の家に間違い電話をかけています。一方、原作ゲームを忠実に再現した場面もあり、原作ゲームで描かれた朝日奈が職員室で説教される場面や紐尾結奈が屋上で物思いに耽る場面は、画面の構図が原作ゲームと全く同じに描かれています。

次に1994年のOVA『卒業 ~Graduation~』。

正確に言うと恋愛ゲームではありませんが、美少女ゲーム(ギャルゲー)ということでご了承願いたい。OVA『卒業 ~Graduation~』も主人公の男性教師が登場せず、ヒロイン5人の友情や揺れ動く心情を描いています。第1巻では高校卒業を控えたヒロイン5人が卒業旅行に出掛けるのですが、そうした中で、高校を卒業したら5人の仲が疎遠になるのではないかという不安が頭をもたげ、新しい門出に向けた複雑な心境が、心温まるエピソードと共に描かれます。希望と悲しみが入り混じりつつも未来に向かって進んでいく高校生の青春の1頁を、しみじみと描きました。第2巻では、高校卒業後の進路に悩むヒロイン達の姿を描きます。或る者は父親の自営業を継ぐか否かの判断の岐路に立たされ、また或る者は見合い結婚をするか否かの判断の岐路に立たされます。そしてヒロイン達5人が、何を目標として今後の人生を歩もうとするのか、真剣に自分の将来を考え、悩み、歩みを進めていく様子が描かれました。

3本目は2002年のアニメ映画『Pia♥キャロットへようこそ!! さやかの恋物語』。

この映画では、原作ゲームにおける主人公の青年は一応登場するもののチョイ役であり、基本的にはOVA『ときめきメモリアル』『卒業 ~Graduation~』と同様にヒロイン達の群像劇を描いた作品となっています。ファミリーレストランの店員の女性達を描く本作では、たとえ辛いことがあっても互いを思いやり支え合う仲間同士の友情が描かれました。

以上のようにパターン1の作品は、男性キャラクターを物語から抹消、或いは出番を大幅に削減することによって女性キャラクター主体の群像劇とし、ヒロイン1人1人が主人公であるかのように物語を構築しています。
 
☆パターン2
次に、同一の時系列上においてゲームと同様に男性キャラクターを主人公とし、且つ大勢のヒロインを全てフィーチャーする手法があります。パターン2は、1人の男性キャラクターを主人公としながらも、1話完結、或いはそれに近い形でエピソードごとに異なるヒロインをメインヒロインとしてフィーチャーするパターンです。「週替わりメインヒロイン体制」と呼ぶこともできます。1998年のテレビ東京アニメ『センチメンタルジャーニー』、1999年のUHFアニメ『To Heart』、2007年のUHFアニメ『シャッフル!memories』(2005年のWOWOWアニメの再編輯版)、同『この青空に約束を ようこそつぐみ寮へ』等がこのパターンです。余談ながら『To Heart』について一言指摘しておくと、2000年代のハーレムアニメは騒がしい作品が目立ちますが、『To Heart』はそのようなアニメに比べて非常に淡々としている点が特徴と言えるでしょう。
 
☆パターン3
パターン3は、ゲームと同様にパラレルワールドを持ち出す作品です。恋愛ゲームというのはシナリオが分岐し、無数のパラレルワールドが発生するのに対して、アニメというのは基本的に物語が一本道ですので、シナリオが分岐する訳にはいきません。しかし、アニメにもパラレルワールドを持ち込み、異なる複数の世界を描いた作品があります。それがUHFアニメ『下級生』やTBSアニメ『CLANNAD』です。
『下級生』の場合、まず1998年の『下級生 ~あなただけを見つめて~』では結城瑞穂をメインヒロインとし、続く1999年の『下級生』では南里愛をメインヒロインとしました
。その他、1999年の『下級生』ではパターン2の要素も見られます。
もう1つの例、TBSアニメ『CLANNAD』の場合、2007年の『CLANNAD』及びその続篇である2008年の『CLANNAD アフターストーリー』では古河渚をメインヒロインとしましたが、DVDにおいて、坂上智代をメインヒロインとするパラレルワールドを描いたエピソードと、藤林杏をメインヒロインとするパラレルワールドを描いたエピソードが収録されました。
UHFアニメ『下級生』にしても、TBSアニメ『CLANNAD』にしても、テレビゲーム的な発想をアニメに持ち込んだ作品であると言えます。
 
☆パターン4
パターン4は、複数のカップルを誕生させるストーリー展開です。
2007年のUHFアニメ『キミキス pure rouge』は、ゲーム版の主人公・相原光一の姓名を分けて真田光一と相原一輝という2人の主人公を据え、この2人及びその他の登場人物のエピソードを同時並行で描きました。そして最終的にはこの2人及び友人の柊明良がそれぞれヒロインと結ばれ、3組のカップルが誕生して物語の幕を閉じています。尚、『キミキス』の原作ゲームの発売元は『アマガミ』と同じくエンターブレインです。

アニメではありませんが、ライトノベル版『ときめきメモリアル』(1997年)もこのパターンです。
ラノベ版『ときめきメモリアル』は、第1話と最終話で主人公(挿絵では顔が描かれない)とメインヒロイン藤崎詩織のエピソードを描き、他のエピソードでは他のヒロインと他の男子生徒とのエピソードを描いています。エピソードごとに主役が替わると考えてもよい。ゲームの『ときめきメモリアル』が、主人公とヒロインが恋人同士になるまでの過程を描いたのと同様に、ラノベ版でも男子生徒とヒロインが仲良くなるまでの過程を描いており、劇中では男子生徒とヒロインは恋人同士にまでは発展していないように思います。寧ろラノベ版『ときメモ』は部活動や文化祭といった活動に熱心に打ち込む若者達の青春の1頁を描いているのです。
またラノベ版『ときメモ』は、ラブストーリーだけを描いている訳ではないことも特徴です。第5巻では早乙女兄妹をフィーチャーしたエピソードと朝日奈夕子&古式ゆかりをフィーチャーしたエピソードの2本が収録されていますが、早乙女のエピソードは互いを思いやる兄妹の絆を描き、朝日奈&古式のエピソードは遠い昔に2人が交わした約束を中心に2人の友情を描いています。

ラノベ版『ときめきメモリアル』の最終話では卒業を控えた主人公、藤崎、好雄、美樹原愛、及び1学年下の優美が、思い出作りのために、3年生全員にインタビューし、下級生へのビデオレターとする企画を実行します。このエピソードは、最終話に全ヒロインを登場させて『ときメモ』のエピソードの集大成とする作劇上の効果もありました。卒業を控えて藤崎が行動を起こすという展開はOVA版『ときメモ』でも見られるもので、OVA版『ときメモ』で藤崎は卒業を控えた時期に同級生との交流を求めてクラシック音楽CDの鑑賞会を開いていました。

尚、第1話と最終話で主人公とメインヒロインのラブロマンスを描き、且つ最終回にヒロインを全員登場させるという構成は1999年のUHFアニメ『To Heart』と同じです。『To Heart』の場合は最終回にクリスマスパーティーを開催していました。これは恋愛ゲーム原作のアニメに限ったことではないでしょうが、最終回に登場人物を全員登場させる手法は物語の締め括りとして相応しい。

☆パターン5
パターン5は、原作に登場するヒロインのうちの1人をメインヒロインに据え、その他のヒロインは脇役にするか、或いは存在そのものを抹消してしまう作品です。劇場版『CLANNAD』(2007年)等がこのパターンです。
 
こうして見ると、恋愛ゲームの特徴を生かしてアニメ化するためには何らかの工夫が必要であることが分かります。その理由は、恋愛ゲームがプレイヤーの操作によって展開が変わるという、無数のパラレルワールドを生む作品であるのに対して、アニメはストーリーが一本道だからです。大勢いるヒロインのうち1人をフィーチャーし、その他のヒロインを脇役にするか存在を抹消すれば一本道のストーリーとして作れますが、視聴者の中にはその他のヒロインのファンもいるだろうし、売り上げを伸ばすためには、できれば各ヒロインのファンに訴求したいところでしょう。そこでアニメの作り手達は、工夫を重ねてパターン1~4のような手法で各ヒロインに見せ場を与え、視聴者を満足させようとしたと言えます。恋愛ゲームのアニメ化の歴史は、作劇方法の工夫の歴史であったと言っても過言ではないでしょう。

そして2010年第3クール、『アマガミSS』が放送されるに至ります。高校を舞台としたラブストーリーを描く『アマガミSS』は、第1話~第4話において森島はるか(声・伊藤静)をメインヒロインとしたエピソードが描かれました。そして第4話のラストでは10年後に主人公・橘純一(声・前野智昭)とはるかの結婚生活が描かれ大団円。翌週の第5話では、今までの話をリセットして高校生活をやり直し、今度は棚町薫(声・佐藤利奈)をメインヒロインとするエピソードが始まりました。2006年のUHFアニメ『ひぐらしのなく頃に』を彷彿とさせる展開とも言えますが、上記のパターンに当てはめると、パターン3に該当します。即ち、『アマガミSS』はゲームのようなシナリオ分岐をアニメで再現した訳です。このような作劇により、テレビアニメ版『アマガミSS』は、全方位外交的に各ヒロインのファンを満足させることでしょう。

■ライター紹介
【コートク】

戦前の映画から現在のアニメまで喰いつく、映像雑食性の一般市民です。本連載の目的は、現在放送中の深夜アニメを中心に、当該番組の優れた点を見つけ出して顕彰しようというものです。読者の皆さんと一緒に、アニメ界を盛り上げる一助となっていきたいと考えています。宜しくお願いします。