「うちの本棚」第十九回はトラウマコミックとしても知られるジョージ秋山の『ザ・ムーン』を取り上げます。

人によっては、この『ザ・ムーン』という作品を「トラウマ・コミック」と呼ぶ。それだけインパクトの強い作品だということだろう。


ジョージ秋山はコメディやギャグ、ナンセンスといったジャンルの作品を多く描いていたが、『アシュラ』『銭ゲバ』といった社会派作品でより知られるようになり、作風も変わっていった。この『ザ・ムーン』はそれら社会派作品が発表されたあとに、再び少年向けを意識して描かれた作品ということになるのだが、そのテーマはいたって重い。

作品タイトルでもある「ザ・ムーン」は、巨大ロボットの名前である。魔魔男爵という人物が、巨額を投じて作ったこのロボットは、男爵によって選ばれた、普通の少年少女9人の脳波をキャッチして動く。

とここまでは通常のロボット作品と大差が無いように感じられるだろうが、少年たちが与えられたロボットを、男爵はこう説明する。
「正義とはなにか。力こそ正義だ」

少年たちのリーダー、サンスウ(少年たちの名前は、小学校の教科の名前にちなんでいる)は、男爵の言葉をすぐには理解できないが、同じように正義を目指しながらも、密かに水爆を所有し、それを日本のどこかに投下することで、恐怖によって人々を統一しようとする団体が現れることで、正義には力が必要だと悟り、水爆投下を阻止するべく、少年たちはザ・ムーンを動かす。
「正義と正義が戦って、血を流すこともあるのです」という男爵の言葉のとおり、ふたつの正義がぶつかり合う構図は、年少の読者には、あるいはわかりにくいかもしれない(もっとも、「連合正義軍」と名乗る団体の行動は明らかに冷酷ではある)。

テロリズムを扱った、この最初のエピソードのほか、高齢化社会を扱ったエピソードなど、現在にも通じるテーマが描かれたこの作品は、まだまだ色あせてはいない。まだ読んだことがないという方にはぜひ一読していただきたいと思う。特にそのラストはじっくりと読んでいただきたい。

初出 週刊少年サンデー 1972年14号~73年18号
書誌 サンコミックス(全6巻)
小学館文庫(全4巻)

■ライター紹介
【猫目ユウ】
ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。