ライターとしてだけでなく、イラストレーターとしても細々と活動している筆者。描いた作品が一覧で見やすいInstagramにも投稿をしているのですが、そんな私宛に先日、海外の方から「イラストを描いてほしい」という依頼が届きました。

 これはとてもうれしい出来事!……と、嬉々として返信をすると、なんと「2000ドルから5000ドル」という破格すぎる依頼料の提示が。こ……これは受けて大丈夫なやつなのか……?

■ 依頼内容は犬と馬の絵を描くこと

 依頼主は、海外在住と思われるAさん。フォロワー数は750名ほどで、おそらく自身のものと思われるアイコンに、投稿は家族の写真が中心。「一見すると捨て垢ではない」感じがします。

AさんのInstagramトップ画面

 DMも当然英語で送られてきたため、Google翻訳の力を借りてなんとか訳してみると、なんでも「アローとアリという名前の犬と馬の絵を描いて、データを送って欲しい」そうで、期限は2週間程度を希望しているとのこと。

送られてきたメッセージ

 その後、アローとアリの写真も送られてきましたが、なんとまあどちらもかわいらしいこと。出来るものなら引き受けたいところなのですが……やはりどうしても高額の依頼料に怪しさを感じずにはいられません。

かわいい犬と馬の写真

 だって、6月8日時点の1ドルは139円。仮に2000ドルならば約27万8000円、5000ドルなら約69万5000円です。普段の依頼料の100倍近い価格ですから、これは何も思わない方が不思議でしょう。

■ PayPalで送金したいからメールアドレスを教えて欲しい

 これが本当であれば、絵描き冥利に尽きるというもの。警戒をしつつも、2000ドルで引き受ける旨を伝えると、続けて支払い方法の話に。AさんはPayPalでの支払いを希望するため、メールアドレスを教えて欲しい、という旨のメッセージが送られてきました。

メールアドレスに拘るAさん

 PayPalは確かに、送金をする場合にメールアドレスを知らせる必要がありますが、実はその他にも「PayPal.Me」という、メールアドレスなしでも金銭の受け取りが可能なサービスがあります。

 筆者はすでにこれに登録済であったため、PayPal.Meのリンクを送ると……Aさんは「あなたのメールアドレスだけが必要です」「アプリ内で支払いをしたい」と主張。

こちらの主張は聞き入れてもらえません

 こちらが何度「PayPal.Meのリンクから送金して欲しい」と伝えても、「必要なのはメールだけ」の一点張りで会話が嚙み合いません。うーむ……これはもしや……。

 これまで柔軟に会話出来ていたのに、急に歯切れが悪くなったため、「詐欺が横行しているので慎重に取引している」「もしも送金できなければ依頼は断る」と、心の内を伝えると……その直後なんと相手からビデオ通話のコールが。

詐欺が横行しているため慎重になっていると伝えると……

まさかのビデオ通話

 しかも3回連続。もはや鬼電です。怖い……。

 いやいや、これはさすがに怖い。そもそも英語しゃべれないし!そこで「もう依頼はキャンセルで良いか?」尋ねると、「Yes」と一言。

 最後に「これって詐欺目的?」と尋ねると、既読にはなったものの、相手から返事は返って来ませんでした。

詐欺だったのか尋ねると、さすがに返答なし

■ 実はイラストレーターを狙った詐欺は頻発している

 これにてAさんとのやり取りは終わったわけですが、……実はこの手口、イラストレーター界隈ではよく耳にする話だったのです。

 その手口は、PayPal送金のためにメールアドレスを伝えると、PayPal運営を装ったアドレスから、金銭の受け取りにPayPalアカウントをビジネスアカウントにアップグレードする必要があり、そのために200ドルの支払いを求められるというもの。

 ここでうっかり支払ってしまうと、金銭をだまし取られるほか、クレジットカード情報を盗まれたり、PayPalアカウントの乗っ取りといった被害拡大の可能性もあるわけです。もしかしたら本当の依頼だったのかも……という可能性も、もちろんありますが。

 目先のお金に釣られて、相手の言うことを安易に信用したり、信頼できないサイトでクレジットカード番号の入力など、絶対にしてはいけません。ちなみにPayPalにビジネスアカウントは実際に存在しますが、一般アカウントからの切り替えは無料で行えます。これを知っておくと、より安心でしょう。

 それから今回接触してきたアカウントは「一見すると捨て垢ではない」と紹介しましたが、理由は「乗っ取られた可能性」を考えてのことです。場合によっては「捨て垢ではない風」に見せるため、あちこちから集めた画像で構成されている可能性すらあります。

 インターネットの詐欺師とは過去何度もやりとりしてきましたが、まーあの手この手でこちらを騙そうとします。知らない人からくる「うまい話」には「まず警戒してかかる」のが今の時代必要。

 今回はあくまで、イラストレーターを狙った手口、ということでご紹介しましたが、今後形を変えて全ての方を対象に連絡してくる可能性も考えられます。

 特に日本国内においても、海外通販の利用等でPayPalの利用者が徐々に増えつつあるので、詐欺師にとって格好の標的になり得ます。取引などで使用する際は、慎重に判断しましょう。

(山口弘剛)