道順など調べ物をするだけでなく、ただ見ているだけでも楽しめる地図。地図好きの間では、珍しい地名や施設名を見つけるという楽しみ方をしている方もいます。

 全国の住宅地図で有名な株式会社ゼンリンでは、地図で見つけた珍しい地名などを公式Twitterで紹介しています。2023年3月には「大中小学校」と「上下中学校」という、ウソみたいなおもしろ校名を紹介しました。

 地図に興味を持ってもらうため、珍しい地名や地図にまつわるエピソードなどを発信している株式会社ゼンリンの公式Twitter。2023年3月27日に「奇跡のような名前の学校」として、岐阜県郡上市にある「大中小学校」と、広島県府中市にある「上下中学校」を紹介しました。

 株式会社ゼンリンのTwitter担当者さんにうかがうと、この2つの校名は社内からの情報で知ったとのこと。普段から全国にいる社員の有志から情報を募集しているそうで「おもしろい地名などを日々提供してもらっており助かっています」と話してくれました。

 これらの校名を地図上で確認したときの心境について、Twitter担当者さんは次のように語ってくれました。

 「当社の地図の場合、一定の縮尺となると小学校や中学校を『小』『中』と略して記載しています。地図上に『大中小』『上下中』と記載されているインパクトといったらないですね!当該地域に馴染みのある方以外の皆さんなら驚いてくださるのではないか……と思いツイートいたしました」

■ 大中小学校(岐阜県郡上市)

 郡上市立大中(おおなか)小学校は、岐阜県郡上市中津屋にあります。公式サイトの「学校沿革」によると、明治6(1873)年3月に大島尋常小学校として創設されたという、大変歴史のある学校です。

岐阜県郡上市にある「大中小学校」(株式会社ゼンリン提供)

 合併や分離独立を繰り返し、現在の校名になったのは昭和26(1951)年4月。岐阜県郡上郡白鳥町(当時)立白鳥小学校から分離独立しました。

 校名に「大中」が登場するのは、これが初めてではありません。明治時代の末には上之保高等小学校の分教場になっていた時期があり、大正8(1919)年に「大中尋常高等小学校」として独立した時が初出となります。

▼ 大中の由来は?

 ところで、郡上市には「大中」という地名は存在しません。校名のヒントとなるのが、すぐ近くにある長良川鉄道(旧国鉄越美南線)の「大中(おおなか)」駅。

 大中駅の立地を見ると、白鳥町「大島(おおしま)」と「中津屋(なかつや)」のほぼ境目。どうやら双方の地名から1字ずつとって「大中」としたようです。

▼ フィクションの世界にもある「大中小学校」

 それにしても「大中小学校」という校名は、まるでフィクションのよう……と思ったら、フィクションの世界でも「大中小学校」がありました。それが、はやみねかおるさん作の児童文学(ジュニアノベル)作品「大中小(だいちゅうしょう)探偵クラブ」シリーズ(講談社青い鳥文庫)。

 こちらも校名は「おおなか」小学校で、通称として「だいちゅうしょう」が使われています。作者のはやみねさんが実在の「大中小学校」をご存知かは分かりませんが、読者層である小学生が知ったら驚くでしょうね。

■ 上下中学校(広島県府中市)

 もうひとつの「上下(じょうげ)中学校」は、広島県府中市上下町(旧甲奴郡上下町)上下にある中学校。公式サイトによると昭和22(1947)年、甲奴郡上下町立上下中学校として開校しました。

広島県府中市にある「上下中学校」(株式会社ゼンリン提供)

 上下は明治の文豪である田山花袋の代表作「蒲団」に登場するヒロイン、横山芳子のモデルとされる女流文学者・岡田美知代が生まれ育った地。江戸時代には天領(幕府直轄領)で代官所が置かれ、地域の中心として栄えたといいます。

 また、市街地の中に分水嶺(江の川水系と芦田川水系)があるという、日本でも珍しい土地なんだとか。地名の通り、分水嶺(峠)を境に土地が上下しています。

■ ほかにもある「おもしろ地名」や「おもしろ地形」

 ゼンリンのTwitter担当者さんによると、基本的に毎日同社の地図を見るようにしており、当日のトレンドや記念日から関連するような地名などを調べてツイートしているのだとか。これまでに紹介した中で興味深いものをいくつか教えてもらいました。

 徳島県南部にある那賀町の竹ヶ谷地区には、小字(こあざ)に「長門」「薩摩」「豊後」「近江」「加賀」「越後」「出羽」と、律令制に基づいて設置された令制国の名が7つも集中しています。隣接する臼ヶ谷、西納の各地区を見てみると、特に令制国名が地名になっていることはなく、なぜ竹ヶ谷地区だけなのか気になりますね。

徳島県那賀郡那賀町竹ヶ谷にある旧国名の地名(株式会社ゼンリン提供)

 愛知県の北東部、北設楽郡設楽町の豊邦地区には「ヒロシ」という小字が。周りにも「アラヤ」「ヒラマツ」「モリシタ」と、人名のようなカタカナ地名が点在しています。山間地なので、住んでいる人の名前がもとになったのでしょうか……?

愛知県北設楽郡設楽町豊邦字ヒロシ(株式会社ゼンリン提供)

 地図でなくては分からない遊び心というものも。埼玉県越谷市にある「大吉(おおよし)調節池」は、越谷市の形をしています。越谷市のホームページによると、縮尺は50分の1で、同じ方位で作られているんだとか。池の中には、越谷市の鳥であるシラコバト(国の天然記念物)をかたどった島が配置されています。

埼玉県越谷市の大吉調節池は越谷市の形(株式会社ゼンリン提供)

 住宅地図のゼンリンならでは、というこだわりも紹介してもらいました。広島市安佐北区安佐町大字動物園(!)にある「安佐動物公園」では、動物たちのお家まで細かく書かれていて、まさに「住宅地図」といった感じ。

安佐動物公園の地図では動物たちのお家もしっかり記載(株式会社ゼンリン提供)

 思わず本来の目的を忘れて見入ってしまいそうな、地図の面白い地名や地形。どうしてそうなったのか、由来を考えて調べてみるのも楽しいですよ。

<記事化協力>
株式会社ゼンリン(@ZENRIN_official)

<参考>
岐阜県郡上市立大中小学校 公式サイト
広島県府中市立上下中学校 公式サイト
府中市観光協会「FUN!FAN!FUCHU!!
越谷市公式ホームページ 大吉調節池

(咲村珠樹)