エアレースパイロットの室屋義秀選手らが、新たなエアレース「AIR RACE X」を企画、2023年3月28日に福島市のふくしまスカイパークにて、コンセプト発表会を開催しました。

 発表会には室屋選手のほか、レッドブル・エアレースで活躍したマット・ホール選手、ピート・マクロード選手もオンラインで参加。リアル空間でのレースだけでなく、ARを活用したデジタルでのレース開催構想も明らかにされました。

 2019年をもって、惜しまれつつシリーズが終了したレッドブル・エアレース。そのレガシーを受け継ぐ新しい「エアレース世界選手権」が2022年開幕を目指して準備が進められていましたが、新型コロナウイルス禍、そして世界の情勢不安により、開催の延期が発表されて現在に至ります。

発表会に出席した3人のパイロット(画像:(c) AIR RACE X)

 発表会に参加した3人は、同じ2009年にレッドブル・エアレースの世界に飛び込んだ「2009年組(Class of 2009)」の同期生。普段から密に連絡を取り合う仲ということもあり、話し合いを重ねてきたといいます。

■ AIR RACE X構想について

 今回発表された「AIR RACE X」は、誰かが用意してくれるレース開催を待つだけでなく、パイロットの側からアクションを起こしていきたい、というところからスタートしているとのこと。開幕の2年ほど前からレース参戦の準備を進めていた室屋選手は、開催キャンセルの知らせを受け「力が抜ける瞬間でした」と語りました。

室屋義秀選手(画像:(c) AIR RACE X)

 その気持ちはマット・ホール選手や、ピート・マクロード選手も同様。特に新しいエアレース世界選手権において、2010年以来となる地元オーストラリア開催に尽力してきたホール選手にとっては、とても落胆する出来事だったようです。

マット・ホール選手(画像:(c) AIR RACE X)

 しかし、自分のキャリアを振り返ると、レッドブル・エアレース参戦時に多くのレジェンドパイロットに導かれたことを思い出した、とホール選手。そこで、エアロバティックパイロットのピーター・ベゼネイさんらが「レッドブル・エアレース」を作り上げたように、新たなエアレースを立ち上げることにしたのだといいます。

 マクロード選手は「レッドブル・エアレースが終わってからの4年間、寂しい気持ちを抱えていた」といいます。「アスリートとして真剣勝負をしたいと欲していた」とも語り、今回の「AIR RACE X」に参画することを決めたのだそうです。

ピート・マクロード選手(画像:(c) AIR RACE X)

 3人の役割として、ホール選手は2010年のカナダ・ウィンザー大会で機体が水面に接触するアクシデントを経験したことに言及しながら、レースでの安全面整備に興味があると発言。また次世代パイロットの育成に力を入れている(女性や、オーストラリア空軍時代の後輩など)こともあり、選手育成も視野に入れていると語りました。

 マクロード選手は、まず競技者として「勝つ」ことと語り、次世代のパイロットが参戦してきた時に、目標になるような存在でありたい、と話しました。2009年組の中で最年少ということもあり、後進育成に触れたホール選手や室屋選手に対し「彼らが育てたパイロットとも勝負したいね」と語る場面も。

■ 「リアル」と「デジタル」2つのレースフォーマット

 まだ細部は決まっていないものの、レースフォーマットについては、基本的にレッドブル・エアレースを踏襲するとのこと。「AIR RACE X」で特徴的なのは、実際の目の前でレースが行われる「リアルラウンド」と、AR技術を活用してeスポーツ的に楽しめる「デジタルラウンド」という2形態のイベントが存在することです。

「AIR RACE X」2つの開催フォーマット(画像:(c) AIR RACE X)

「リアルラウンド」はレッドブル・エアレースのフォーマットを踏襲(画像:(c) AIR RACE X)

 デジタルラウンドは、まだ1か所の会場でレースイベントを開催するには難しい状況も考慮に入れた開催形態。それぞれ離れた場所にいるレース機が同じレイアウトのコースを飛び、その飛行データを集めて勝負を決するというもので、ARを用いて実際の風景にレース機の飛行を重ねて観戦することを可能にするとのこと。

実飛行データとARを組み合わせた「デジタルラウンド」(画像:(c) AIR RACE X)

 個々のパイロットは離れた場所で飛ぶため、気象条件がイーブンになるとは限りません。そこで、ある一定の期間を設定し、タイムトライアルを重ねたベストタイムをレースデータに使用するという構想で、最後の数日間はタイムのランキングを発表せず、より競技性を高める工夫もするといいます。

「デジタルラウンド」開催の仕組み(画像:(c) AIR RACE X)

 実際に飛行する姿も観戦できるようにするとのことなので、レースイベントが世界各国で同時多発的に展開されるようになるのかもしれません。その土地ごとに特色あるサイドイベントも開催されそうです。

ARを使った「デジタルラウンド」の観戦体験(画像:(c) AIR RACE X)

 ARを活用すれば、これまで飛行許可が下りなかった市街地を舞台に、建物の間を飛び回るレースも可能となります。室屋選手からは、この体験を「5次元のモータースポーツ」と位置付け、レースイベントを45分程度の番組にして、ネットを通じて多くの人が視聴できるようにしたいとの構想も語られました。

■ 第1戦は2023年10月にデジタルで開催

 今後の予定としては、第1戦をデジタルラウンドで10月15日に開催することが発表されました。イベントの詳細については、2023年8月に改めて発表するとのこと。この時にARレースの舞台となる都市についても明らかになるようです。

今後の展開構想(画像:(c) AIR RACE X)

 2024年にはリアルラウンドとデジタルラウンド双方の開催を目指し、2025年に世界選手権への昇格を目指すとのこと。それ以降も後進の育成を図りながら世代交代を重ね、長いタームで続けられるスポーツにしていきたいという構想が語られました。

■ 室屋義秀選手インタビュー

 発表会終了後、室屋選手に個別インタビューを実施。「AIR RACE X」について、より深くうかがいました。

-- 今回の「AIR RACE X」企画に至ったのは、エアレース世界選手権の開催が諸事情により停滞していることが要因としてある、とのことでした。その辺りをもう少し詳しくうかがえますか?

 「シリーズ開催がなくなってしまったので、その中で我々3人が集まって『どうしようか?』というところから始まって、自分たちで同じ形式でできないか、と検討が始まり、実際に場所を探したり、色々なことを検証したりしていく中で、今すぐパイロットの力だけでは無理だろうとの結論に至って。で、今回はデジタルで……という方向に徐々に移行していった感じです。今年の2月に『技術的にできる』ということが分かって、今回のコンセプト発表に至りました」

-- 3人の中での役割分担についてもうかがいます。ホール選手は育成面や安全面、マクロード選手は競技面などをマネジメントしたいとの希望を口にしていましたが……?

 「私は最初に声を上げたところもあり、日本側でかなり強力に推進してるところもありますので、全体のオーガナイズ担当になるのかなぁと。フライトデータのテクノロジーとかに関しては、うちのチームの技術を供与しますし、イベントとしてファンにどうやって楽しんでもらうか、という面も担当することになると思います」

-- エアレース世界選手権では、カーボンオフセットについても考慮したシリーズになるとアナウンスされていましたが、「AIR RACE X」ではいかがでしょうか?

 「デジタル開催になると、かなりの(CO2)削減になるのは間違いないので、リアルとデジタル、2つのフォーマットがあるということは、カーボンニュートラルにかなり有利に働くと思っています」

-- デジタルラウンドについてですが、ARのバックグラウンドになる開催地については、どういう場所を想定していらっしゃるのでしょうか?

 「具体的な場所はこれから検討なんですけれども、実機で飛べない場所、っていうのが良いかなと思っています。たとえば街中は実際に飛べないこともあるし、今まで飛行機に触れないような人がいっぱいいるし、ものすごく多くの方に楽しんでもらえると思うので、そういう場所であれば新たな世界というか、新たな展開になるんじゃないかなと思っています」

-- 街中をデジタルラウンドの舞台とする場合、忠実に街の形、建物の配置などを踏襲したトラックレイアウトになるんでしょうか?

 「街中でAR観戦することを想定すると、ビルの中に飛行機が突っ込んでいくような感じにもなってしまうので、街のレイアウトに合わせてトラックを作っていくのは大事だと思っています。まだ細かくは詰めきれていないんですけど、街のいたるところでレース機が飛んでいくのを見られると、上から見たり、下から見たりと色々な楽しみ方ができるよね、という話はしています」

「デジタルラウンド」AR観戦のイメージ(画像:(c) AIR RACE X)

-- デジタルラウンドについては、ライブ配信以外にも見逃し配信なども考えていらっしゃいますか?

 「まだ見逃し配信までは検討が進んでいないんですが、まずはライブ配信で楽しんでもらって、見逃し配信はいかようにもできると思うので、映像のスペシャリストが入ってきた時に詳細を詰めようと思っています」

-- レースは別々の場所で飛んだフライトデータを使って進んでいくとのことですが、どのような形式になりそうでしょうか?

 「レッドブル・エアレースの時のように対戦形式にするとか、フォーマットについては要検討なんですけど、45分の番組内に当てはめていくと、実際のレースっぽく……実際レースしてるんですけど、臨場感のある形で見られるのではないかと思っています」

-- レッドブル・エアレースで使われた「ゴーストプレーン(対戦相手の軌跡をライブ映像に合成する手法)」も、デジタルでは導入しやすいですね。

 「そうですね。たとえば福島で飛ぶという場合であれば、今度はリアルで飛んでいるところにARでパイロンやゴーストプレーンを合成することもできるので、レッドブル・エアレースの映像を見ているようなことは技術的に確立できるかな、と思っています」

-- 参戦チームについてですが、エアレース世界選手権では同じ2009年組のドルダラー選手が今度はチーム監督として参戦するという話がありました。「AIR RACE X」では、どれくらいのチームが参戦しそうな感じでしょうか?

 「ちゃんと声をかければ結構集まると思ってはいるんですけれど、色々な装備の関係もあって、8チームぐらい集まってくれるといいな、と思っています。これから声をかけて調整していきます。8月には、もっと詳しい情報をお知らせできるかと思います」

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 今回はコンセプト発表ということもあり、詳細については8月に改めて発表するとのこと。AR空間で展開されるレースもあり、今後の動きに注目です。

<取材協力>
株式会社パスファインダー
画像:(c) AIR RACE X

※初出時、一部に誤字がありました。訂正してお詫びいたします。(2023年3月31日15時29分更新)

(取材:咲村珠樹)