日本の働き方において、近年大きなトピックとなっているのが「副業」の解禁。コロナ禍でその動きが加速していく中で、人気の職種のひとつに挙げられているのが「ライター」です。

 100パーセント近い識字率を誇る国ということもあり、一見すると「とっかかりやすいもの」と思われがち。しかしながらその実態は、「人を選ぶ」要素を多分に含んでいます。

■ 「タスク管理」と様々な「テクニック」が必要

 筆者は、2020年より本稿を配信するWebメディア「おたくま経済新聞」にてライター業を始めました。活動歴はそろそろ3年。書いてきた記事数も800を超えました。思えば遠くまで来たもんだ。

 ところで「ライター」という職業には、様々な“枕詞”が存在します。「コピーライター」「ブックライター」「シナリオライター」「ルポライター」「インタビューライター」「Webライター」などなど……。他にも「グルメライター」「ミリタリーライター」など特定のジャンルを絶対の強みとする「専門ライター」もいます。

 その中で私は、Webを中心に活動するため大枠の位置づけとしては「Webライター」、ただしWebメディアに所属しているので仕事上の肩書きは「記者」。まとめると「Webメディア・ライター(記者)」といったところ。

 また、おたくま経済新聞は「総合ニュースサイト」なので、特定ジャンルに縛られることなく、それこそ何でも書けます。よって上記に挙げた「○○ライター」とは一部重複する部分があります。

 ただし「記者」とはいうものの、新聞や週刊誌などの「紙媒体」ほど深掘りした内容は書けていません。嘘や誤情報がないよう務めるのはもちろんですが、深掘り度でいえば差し詰め「カジュアル記者」とでも言えるでしょうか。

 そんなライターの仕事ですが、日常の業務において、「書く」という作業が全体に占める割合は実はそう多くなかったりします。もちろん「根幹」をなすので、重要であることは確かですが、それに匹敵するものも他にいくつかあるからです。ここで私がとある記事を1本書くまでの工程をご紹介しましょう。

1:ネタを探す。
2:編集部に記事化申請をかける。
3:(情報元がいる場合)SNSのDMや公表されている問い合わせ窓口等に連絡し、記事化の了承を得る。
4:記事の構成を考える。
5:情報提供者に質問事項を送付。(オンラインや電話、時に対面で実行する場合もあり)
6:記事執筆。
7:編集・校正。
8:先方へ掲載内容の事実確認。
9:記事配信。

 このうち、7と9は別担当が行います。また、食レポやコラムといった記事テーマになると3と5は不要の場合もあります。他には特定の場所への取材になると、スケジュール調整も欠かせません。

 一方、「記事執筆」とまとめた6ですが、ただ「下書き」するだけではありません。まず、担当ライター自身で誤字脱字チェックを行う「セルフ校正」を行います。その後、編集や校正が入ったとしても、「誰かが手直ししてくれる」前提での中途半端な原稿は入れません。そもそも「お金を取る文」である以上、どんな記事においても持てる最大のパフォーマンスを出すことは至極当然の話です。

 そしてWebの場合はその後に専用ツールへ「入稿」をします。弊社の場合は「WordPress」です。

 ここからは人それぞれの手順があるかと思いますが、文章を挿入したのち段落や構成などを整え直します。画像を用いるならば、見出しを含めてどこにどう振り分けるかも重大なミッションです。ちなみにこの時、予め書いた“草案”と大きく変わることはザラです。取材記事など、“大作”になればなるほどそうです。しかし予め言っておきますが、この作業は極力簡略に済ませるように心がけています。

 そこから、細かい編集・校正を別担当に委ねます。

 以上が私にとっての「ルーティーン」なわけですが、日頃から馴染みのない方にとってはビックリ仰天かもしれません。「無理だよこんなの」「ライターの仕事の範囲外もある」と思う方も多くいるでしょう。ですが、これらは「媒体に所属するWebライター」という仕事においての「最低限」です。

 所属先によっては、「入稿はワードデータのみ」「画像準備はしない」「WordPressへの入稿なんて論外」という人もいることでしょう。実際耳にします。しかし、それは任される範囲の話。1回ぽっきりの契約や、完全に単発での依頼としてうけている場合にはそこまで任されないことが多いでしょう。ただし、継続して仕事をしたいならば避けて通れない道。ただ書くだけでは務まらない(いつか限界がくる)のがWebライターです。

 そして、上記がこなせたとしても、記事が「読まれる=PV(ページビュー)数が取れる記事」でなければなりません。ここがダメなら水泡に帰します。とはいえ、安易に炎上ネタに走るのは危険。事実と大幅に異なるタイトルをつけて読者を釣る「釣り記事」も読者の信用を失います。

 ちなみにおたくま経済新聞は、基本的に記者陣が各々で書きたい記事テーマを見つけ、それを編集部へ申請にかけます。私も含め、様々な出自のメンバー構成なので、その内容は実に多彩。それを見るだけでも学びです。

 その上で、承認が降りるようなテーマを見つけ出さないといけませんし、当たり前の話ですが、競合媒体を出し抜くことも当然意識しなければなりません。社内外での競争に勝ち抜く「眼」を鍛えることもまた重要なテクニックです。

 ところで、近年ライター界隈では「SEOライター」と呼ばれる職種が台頭し、一大勢力となっていますが、この「SEO」についても、当然のことながら意識して書いています。しかし「絶対視」はしていません。

 そもそもこれは「検索エンジン最適化」の略称で、Googleなどで検索をした際に、上位表示される文章にしようということですが、Webメディア・ライターの視点からすればごく当たり前の話です。

 ただし「100点満点」になるようにはしません。それをすると機械的な文面になり“崩れる”からです。似たような大量生産型の記事を見たことはないでしょうか。テンプレ文・テンプレ構成の記事。一時さわがれた「いかがでしたでしょうか構文」もそうですね。あれです。内容が面白かったとしても、テンプレになった時点で記事としての魅力は半減してしまいます。

 よってSEOに関しては意識しても精々「75点」といったところ。しかもこのSEOのやっかいなところが、「小まめに仕様が変わる」という点。SEOだけおさえていても、記事としての基本を崩してしまうと「いつかその記事はただのゴミ」になる可能性が高いのです。

 なお、Webメディア・ライターは「記事1本」だけを見て仕事をしていません。常に数多くの記事の進捗管理を行う中で、その日の「1本」を書いていきます。これを毎日毎週毎年続けていきます。この仕事って、「タスク管理」と様々な「テクニック」を駆使して、薄氷の上で成り立っているのです。

■ 「副業では人気」という意味

 
 筆者はことあるごとに受ける質問があります。それは「ライターって儲かるの?」

 先に結論から申し上げますと……儲かりません。ただし、「普通にやれば」という注意書きを付け加えておきます。

 記事を書けば書くほど収入も増えていく「積み上げ式」の仕事がライターです。なので、寝る間も惜しんで書き続けていけば稼ぎは“青天井”です。またヒット記事を連発すれば+して原稿料が支払われる場合もあります。

 しかしながら、人間が行うものには、個人差があれどいずれは「限界」が訪れます。このやり方で伸ばせるのは「一時的」です。

 とはいえ、“ホワイト”な就業環境でやっていっても、中々収益が伸びません。そもそもこの仕事の、「基本の報酬体系」はバラバラ。記事1本の原稿料には、大きく2種類あり「記事単価」「文字単価」があります。

 読んで字のごとく、記事1本につき定額で支給されるのが「記事単価」。媒体によりますが、Webの場合はここにPVインセンティブやヒットボーナスがのる場合が少なくありません。

 反対に、記事に要した文字数により報酬が変動していくのが「文字単価」です。一見するとより多くの収入が見込めそうなのですが、実際のところは必ずしもそうでもなかったりします。

 記事単価で1本10000円を得られる仕事があるとしましょう。これを文字単価で同額を稼ぐなら「1000文字:10円」「2000文字:5円」「5000文字:2円」と置き換えられます。これらの業務量としては、1000文字なら「サクッと」、2000文字なら「そこそこ」、5000文字なら「しっかり」な感じです。(筆者の肌感覚です)

 ところで、文字単価というものには「相場」が存在しますが、筆者の見ている限り現状では2円前後が平均値な気がします。つまり、“標準的”なライターだと、しっかり作業を行えば10000円をゲットできるということになりますが、文字単価の場合は+のインセンティブがない場合がほとんど。もしヒット記事を出したとしても、+1円も入らない、ということは良くある話。

 よって「読まれる記事」を意識していないライターが多いように感じます。反響を意識する必要がないからです。とりあえず「マニュアル通りに記事を書いて」、入稿すればそこで責任は終わり。意識するとすれば直接担当している「編集さん(ディレクターさん)」もしくは「クライアントさん」。このため、ライターによっては記事を入れることを「入稿」ではなく「納品」と呼ぶ人もいます。

 なので、同じライター同士で話しをしていても「読者の存在」にまで言及している人はまれ。している人は、やはりどこかの媒体に属している、媒体と長期契約をしている人がほとんどな気がします。

 さて、相場というものには当然ながら「上限」「下限」があります。上限についてはこの業界、大きな差があります。ライターと一括りでいっても中には「本」を出すレベルの人もいるからです。著名な方であれば1原稿10万、20万、それ以上だってあることでしょう。夢のある話です。

 そして「下限」ですが……なんと「底なし」。クラウドソーシングサイトでは定期的にライター案件が紹介されていますが、「駆け出し案件」だと1円を切ることなんてザラにあります。私が見た中では「0.01円」なんてのもありました。仮にこの条件で請け負うと、2000文字の記事を書いたとしても報酬はたったの「20円」。うまい棒2本すら買えません。

 念のためいっておきますがネタではありません。寧ろネタであってほしいですマジで。

 となると、「記事単価しかありえない!」という結論にいたる……とも言い切れないのが難しいところ。不安定要素をはらんでいます。

 メディアというのは広告料収入が主だった収益ですが、これが実はかなり不安定。ここ最近は特にそれが顕著で、Googleも広告収入が大きく下がり、YouTubeチャンネルで活動する著名なユーチューバーが、全盛期より10分の1の広告収入になったと告白したことも話題となっています。

 つまるところ、安定した土台のもとに成り立っていない産業なのです。そのためベース単価も低く、年収も400万円未満が半数以上を占める調査結果も出ています。だからといって、大手の原稿料が高いかというと、それも違ったりします。大手よりも中小の方が、ライターとの距離が近い分柔軟に対応している、というケースもよく聞く話です。

 そしてこれは古くからの悪しき“慣習”でもあります。「この業界ってそういうもんだよ」なんて声が古参界隈から飛び込んで来たりもするのですが、はっきり言ってそれは「ブラック企業」の思想と大差ありません。遠慮なく申し上げると「老害」です。

 「人気の副業」として、アンケート調査ではランキング上位になることもあるのがライターです。なぜ「人気」なのかというと、「すき間時間にできる」が大きな理由になります。

 「副業」をしている方には、週5日1日8時間計40時間を費やす「主業」が存在します。そして、それ以外の「余暇」で行うのが副業です。こう考えると意外と時間というものはなかったりします。

 ただし、先述述べたように様々なスキルも必要なのがライターという仕事。先のランキングなどで他に挙げられがちなのは、「プログラミング」「デザイン」「動画編集」「翻訳」といったところですが、それら同程度の技量が伴うものなのです。

 以上のことから、ライターという仕事は「副業では人気」であっても、「人気職種」では決してありません。それは現状の業界構造を根本的に見直さない限り、決して変わることは無いでしょう。

■ 本当に「儲からない仕事」なのか?

 ところで筆者は、ライター以外にも様々な仕事をしています。現状はフリーランスという立場なので、様々な複業をこなす「パラレルワーカー」というやつです。

 ちなみに、ライターにおいての専門資格は特に持ち合わせていません。いくつかの業界経験こそありますが、全くのゼロから始めました。

 そういった経歴だからかもしれませんが、この仕事で培った「スキル」には大きな可能性を秘めていると感じますし、実際に恩恵を受けています。

 例として挙げると「記事の構成」です。これは見方を変えれば、記事という「コンテンツ」を「企画」していることもあり、実は非常に汎用性があるものです。私はマーケティングを本業にしているのですが、ライターに従事した3年間で大きくスキルアップできたと実感しています。そしてそれは、実務にも反映させています。

 「撮影」も注目したい技量のひとつです。取材で「実務経験」を積み、そこで培ったスキルでカメラマン業もはじめるというのも可能性を秘めています。昨今はフリーランスカメラマンも増えているので、「二足の草鞋」としては有力候補ではないでしょうか。

 以上のことから私が何を言いたいかというと、「ライターで得たスキルはライターだけに活用する必要性はない」ということです。

 いちライターとしての経験則にはなりますが、この仕事は「様々な業務の実務経験値を高めてくれます」。そういった職業って実はそう多くありません。私が経験した中で、これに匹敵したのは店舗運営くらいです。

 そしてこれは、会社組織においても重宝される人材という意味も有しています。私は「組織人」だった頃も長くあったので実感していますが、会社というのは意外と「何でも屋」を求めます。特に「書く」が出来るととりわけ重宝されるのですが、そういった人材は実は希少種なのです。

 こう考えてみると、ライターって意外と「広がり」のある仕事とは感じられないでしょうか。いつの時代も「常識を疑う」ということは真理です。

■ 心の中の「傲慢」とどう付き合うかがヒケツ

 「誰にでも出来そう」という先入観から、ハードルが低く感じられがちなライター業ですが、筆者の場合は「絶対に出来ない仕事」と当初思っていました。私は子どもの頃から作文が大の苦手で、読書感想文の宿題はただただ苦痛。「書く」という行為がとにかく嫌だったのです。

 そんな私がライターをはじめたきっかけは、編集長からの「ユー、ライターになっちゃいなYO!」という一言。今振り返っても冗談みたいな誘い方ですが、これが事実というんだから困ったものです。ちなみにこんなケースはまずあり得ません。スーパーウルトラミラクルハイパーレアケースといっていいでしょう。

 当初私は少なからずの難色を示していました。しかし、加えての「君ならできるから」という“殺し文句”を信じてやってみることに。前職企業から事前通告なしで突然解雇された結果、「ニート」になってしまい背に腹は代えられない事情もありました。

 とはいえ、当初は苦労の連続。ネタを探すのも、1本記事を書き切るのも、それを毎日続けていくのもなかなか慣れませんでした。「やっぱり向いてないかなあ」なんて何度も何度も思いました。それでも、何とか続けられていくと、少しずつですが「実績」が出てきます。同時に「信頼」も積み上げてきました。

 そうなってくると、記事テーマの申請も通る確率が増えていきます。それは「自分が書きたいこと」を増やせるということであると同時に、話題の「目利き力」を高めていく必要があります。そうした積み重ねをすることで、ライターとしての「なりたい姿」を指向出来るようにもなりました。

 800回以上続けてきたため、ついつい“麻痺”しがちですが、このことは、自分の心の中の「傲慢さ」と上手に付き合わないといけないことでもあるなと思っています。

 「メディアに取り上げられる」というのは、人によっては一大事です。私も「一生ものの思い出です!」と言われ、感謝されたことは何度もあります。

 そのことを忘れてはならないでしょう。特にライターは「力」を行使できる立場。「ペンは剣よりも強し」という言葉があるように、大なり小なり影響を与える存在というのは、それだけ責任が重いものです。

 たかだか3年ほどの期間ですが、私はそのことを痛いほど実感しました。なのでライターは、常に俯瞰した立ち位置で、フラットに書くことが必要になってきます。これはどの“枕詞”が付いても同様です。

 長々と書かせてまいりましたが、私はライターという仕事をおススメもしないし、やめとけと忠告するつもりもありません。ただ、妙な「誤解」があったので、「一例」として紹介したまでです。実際にやってみるかはあなた次第。

【向山純平・著者プロフィール】
2020年より、おたくま経済新聞記者として活動開始。同時に公式Twitter運用担当も兼務。
得意ジャンルは「食」「ビジネス」「サブカル」。他も色々書くのはおたくまライターとしての定め。