高齢化社会が進行する日本。高齢者に向けたサービスは既にさまざまありますが、世代が入れ替わることにより、これまでのような「お年寄り」像が変化しています。特に「オタク第一世代」と呼ばれる層の高齢化により、オタクに特化した高齢者施設はそろそろ必要かもしれません。漫画家がTwitterでその必要性を訴えています。

■ オタクの高齢化にともない発生する「高齢者オタク」問題

 現在、日本では戦後の第一次ベビーブームで誕生した「団塊の世代」が、75歳以上の後期高齢者となってきていますが、それに続くのが高度経済成長期に生まれ、趣味に没頭できるようになった1960年前後生まれの「オタク第一世代」と呼ばれる層。上の世代では、既に60代に突入しています。

 これから増えてくる「高齢者オタク」のために、専門の老人ホームや葬祭業者が必要ではないか?とTwitterで訴えたのは、漫画家のNさん。その思いはスレッドにまとめられています。

■ もし「オタク専門老人ホーム」があったなら

 高齢者施設では脳の活性化やフレイル(体の不活性化による衰弱状態)予防のため、さまざまな運動や文化活動のプログラムが実施されています。これには続けていくモチベーションの維持が大切なので、脳の活性化には薄い本(同人誌)を作って施設内で即売会を開催し、コスプレもOKにするのはどうか、というアイデアをNさんは披露。

 年をとったなら、年をとったなりの「オタ活」のあり方があるはず。逆にそれを封じられることで精神的に健康でなくなり、認知症やフレイル、寝たきりという症状につながることも予測されるので、オタク向けの高齢者福祉というのはアリかもしれません。

 このツイートのきっかけについて、Nさんは50代のオタ友が周りにいて、老後の話題になることも多いので、従来からある意見を改めてツイートしたまで、としながら、次のように語ってくれました。

 「一番怖いのは、認知症になってしまったら、なにを口走るか分からないということです。オタバレしないように気をつけていた相手、例えば孫などに自カプのプレゼンをしてしまったらどうしよう……という。自分の描いた本を見せながら熱弁をふるってしまったら、築きあげてきた優しいおばあちゃんのイメージが崩れてしまいます」

 認知症にはさまざまな症状があるので一概には言えないのですが、自分の中にある強いこだわりやクセが意図せず表に出る、ということも。この時、いままで周りに伏せていた「オタクの本性」が強く出てしまったら……確かに怖い話です。

 また、施設での生活について、Nさんは「好きなアニメが見られず、絵を描いても発表の場が無くて、自分がなにを口走るかに怯えながら普通の老人ホームで過ごすのは辛いと思います」とも語ってくれました。

 こういう心配なく、入所者全員がオタクの施設であれば、周りへのオタバレを気にすることもなく、何を口走っても問題はなさそう。

 さらにNさんは「介護士さんもオタク」や「定期的コスプレOKの即売会を開催」、「食事の時は逆カプの人と隣り合わせにならないよう配慮」するサービスなどがあれば良いのでは、とも語ってくれました。

 現在の高齢者施設では、レクリエーションで童謡や唱歌を歌うケースが多いのですが、これも馴染みのあるアニソンや特撮、ゲームの曲を選ぶとよさそうですね。リプライには体操代わりに「オタ芸」を打つことや、痛車椅子や痛杖が一般化する、といった構想も寄せられています。

■ オタクの終活を担当する「オタク専門葬祭業社」の必要性

 また、高齢化して介護が必要になってくると、今度は「終活」という問題も出てきます。特にオタクはコレクターであることも多く、コレクションの散逸や、逆に知られて困るものの処分を気にかける方も多いはず。

 こういった悩みに対応できる「オタク専門葬祭業者」の必要性も、Nさんは訴えています。遺族には話しにくい「知られたくないデータファイルや薄い本の在庫(お察し)」の処分にグッズの形見分け、SNSでの告知とアカウント消去といったことの代行は、オタクなら誰もが希望しているかも。

 告別式についてもアイデアが。「お宝と一緒に納棺」や「生前に指定したBGMでの出棺」、また遠隔地やネットのみの付き合いだった方向けに「遺影をTwitterアカウントのアイコン(プロフィール画像)にしたネット葬」といった構想についても話してくれました。

■ オタク向け高齢者サービスはビジネスチャンスかも?

 Nさんは語ります。

 「まだ20代の頃、40代といえば『立派な大人』で、もうオタク趣味は卒業しているものと思っていました。でも実際には結婚して出産して40代になっても、必死に新刊を作り、来季のアニメをチェックし、SNSで大喜利をしています。体力の衰えは感じるものの、オタク趣味への興味は尽きません。このままあと30年経ったら……?と思うと怖くなりました」

 筆者の世代でもそうなのですが、かつてオタク趣味というものは「いつか卒業するもの」であり、年をとってまで続けることはない、という考えが支配的でした。しかし大人になった現在、予想していた「卒業」をしないままオタ活を続ける人が思った以上に多いのです。おそらく、この傾向は高齢化しても変わらないでしょう。

 オタクは一時のことではなく、まさに「オタクの魂百まで」と、その人自身と不可分であること。同人誌を扱う書店やコスプレショップをはじめとして、これまでさまざまなオタク向けサービスが誕生してきましたが、いずれ「オタク専門老人ホーム」や「オタク専門葬祭業者」も生まれるかも。

 もし高齢者福祉施設を作りたいと考えている方がいれば、今後増加する「高齢者オタク」は大きなビジネスチャンスになるかもしれません。もちろん、オタクはクオリティを見抜く力が人一倍あるので、付け焼き刃ではなく、オタクを知り抜いた施設でなければいけませんが……実現する日が来ることを期待したいですね。

<記事化協力>
漫画家のNさん

(咲村珠樹)