東京都神田にある「神田近江屋洋菓子店」は、毎朝市場で直接買い付ける新鮮なフルーツを使いながらも、「リーズナブルだけどチープでない」スイーツ提供をこだわりとする洋菓子店。2022年で創業138年目を迎えます。

 さらに信条にしているのが、いつ何時も「お客様目線」であること。その精神を「シャインマスカットのタルト」のカット工程でみせた動画が、Twitterで大きな反響となっています。

 「近江屋のシャインマスカットのタルトはたっぷりと載せているため作る人、切る人、良い包丁の3つが揃わないと綺麗に切れません。今日も綺麗にお菓子を作るため日々精進します」

 つぶやきとともに1分弱の動画を投稿したのは、神田近江屋洋菓子店公式Twitterを運用する吉田由史明さん。店の五代目店主を務めます。

 動画内では、タルト状のホールケーキを、独特の丸みのある刃先が目を引くケーキナイフでカットする様子が映し出されています。二段重ねで、所狭しにトッピングされたシャインマスカットのゴロっと感が目を引きますね。

 これだけボリューミーなケーキですと、正確にカットをするのに難儀するものですが、そこは東京を代表する老舗洋菓子店。まずはナイフを持たない手でタルトを軽く押さえながら、ハーフカットのポジション調整をし、斜めから切れ目を入れ、そこから小刻みにカットしていきます。

たっぷりのマスカットが敷き詰められたタルト。これはカット難易度が高そう。

 タルト部分に到達すると、ナイフの先端に手を置き、グッと力を入れて押すようにカットします。時間にして、この間たったの5秒。余分な力は皆無で、作業に一切の無駄がありません。ただただ、手際の良さが目を引く作業風景となります。

タルト部分は両手でグッと押して切ります。

わずか5秒のスゴ技。

 しかしカット作業はここからが「本番」。先ほどハーフカットしたタルトを、今度はさらに五等分していきます。

ハーフカットした部分をさらに五等分していきます。

 ナイフの真ん中部分のマスカットに当て、そこから同じく斜めで小刻みにカットしていきます。タルトに到達すると、今回も反対の手で刃先を押さえて、グッと押し出すようにカット。ナイフとまな板が触れる「トン」という小気味よい音が、BGM代わりに四度キッチンに鳴り響きます。定規等で寸法をはかるわけでもなく、熟練の手さばきで寸分の狂いもない五等分サイズになっています。

静かなキッチン内で包丁がまな板にあたる「トン」が4度響きます。

 気づけばあっという間に1分が経過。あまりにものスムーズさに思わず見とれてしまいましたが、どうやら多くのTwitterユーザーも同様に釘付けになったようです。投稿は13万を超すいいねに加え、なんと400万近い動画再生回数を記録しています。

思わず見入ってしまう動画には、13万近いいいねに400万回近い動画再生回数を記録。

 しかしながら、吉田さんをはじめとした神田近江屋洋菓子店にとっては、一連の作業はごくごく普通のこと。きれいなお菓子を提供し続けるため、「作る人」「切る人」「包丁」の3つを常に意識していると言います。

 「『作る人』目線では、お客様に満足いただけることを考えながら、ケーキのフチまでフルーツをのせることを意識して作っています」

 「『切る人』目線では、お客様が食べる直前まで形が崩れないよう、垂直に綺麗な断面になることを意識して切っています」

 「『包丁』目線では、日頃のメンテナンスを欠かさず、毎日『良い包丁』を使うことを意識しています」

 いずれについても共通するのは、「お客様目線」に集約すること。そんな古き良きスタイルを守り抜くため、神田近江屋洋菓子店スタッフは今日も精進し続けます。

<記事化協力>
吉田由史明さん(Twitter/Instagram:@omiyayogashiten)
神田近江屋洋菓子店(東京都千代田区神田淡路町2ー4)

(向山純平)