全国各地に存在する「町工場」。日本のモノづくりを下支えする存在ですが、同時に知名度を上げるために、日々奮闘しています。

 山形県山形市にある機械加工メーカー・有限会社江口産業は、自社の持つノウハウを、QRコードが記された立体造形で表現しました。その様子を撮影した会社紹介動画が、Twitterで注目を集めています。

 10秒強の動画で紹介されているのは、工場内で治具に固定された四角い金属加工品。その表面には、加工によってQRコードが施され、真ん中には「江口産業」の文字も記された「QRコードキューブ」となっていました。

江口産業社長の江口さんがTwitterに投稿した動画。そこには四角い物体が。

 六面全てに同様の加工が施されており、まるでSF作品に登場する演算ユニット。実はこれ、江口産業が展示会に出展する際の「展示品」として製作されたものだそうです。

治具で固定され、六面全てにQRコードが切削されています。

 「弊社はこれまでに数回、大規模な展示会へ出展しましたが、そこでは各地の企業が様々なアイデアを造形にしたモノが展示されており、それを見るたびに『スゴイ!』と驚いていました。『うちも何か出来ないかな?』と考えたのがきっかけですね」

 そう語るのは、動画投稿者である江口健司さん(以下、江口さん)。江口産業で社長を務めています。

 元々は、父で現会長の健一郎氏が、山形県山形市で旋盤加工の町工場として起業したという「江口産業」。現在は、様々な最新機材を導入し、半導体製造関連部品や、医療機器に組み込まれるような精密切削部品、車載デバイスのヘッドアップディスプレイの生産に係る治工具の製造加工なども行っています。

 マシニングセンタやフライス盤加工技術者を経て、今から約10年前に社長に就任した江口さん。「時代に合わせた」企業経営をしていく中で、「発信」についても同様の考えになったといいます。Twitterアカウントは今年(2022年)2月に開設し、時には自身が顔出しもしつつ、朝の挨拶の様子など、社内の雰囲気を伝えています。

 「QRコードキューブ」は、江口さんが偶然思いついたものだそうです。提案に対して、「それならブロック状にしましょう」という工場長の追加提案もあり、実際に作ってみることにしました。

 「展示品」を意識していることもあり、QRコードは無料の作成サイトから丸みのあるものを選択。それを専用ソフトで変換し、真ん中に「江口産業」の自社ロゴを入れました。

真ん中には「江口産業」の自社ロゴ。

 もちろん、近くでかざすと読み取りが可能な仕様となっています。ただ、そうなるために何度も調整を実施したそうで、「工場長が、現場サイドと打ち合わせをしてくれました」と江口さんは振り返ります。

近くでかざすと読み取れるように何度も調整を施しました。

 立体感のある形状に、コードが埋め込まれたキューブとなっていますが、切削には、バリ取りも含めて一面あたり4時間ほどで加工。全六面を丸1日要して製造しています。さらに、作図やテスト切削や事前の表面処理を含めると、合計2日ほどの時間を要しています。

 もし展示会でお目にかかれたら、思わず立ち止まって携帯を手に取りコードをかざしたくなりそうな風貌ですが、これを動画で投稿したのにはちょっとした理由が。

 「展示会でもそうなんですが、モノだけを展示するより、完成までの『プロセス』も見せた方が、より面白さが伝わります。なので、今回の動画は、削り終えた瞬間のものをあえて映したんです。バイス(治具)から外さなかったのも、『ライブ感』を出すのが理由ですね」

 江口さんの狙いは見事にハマり、投稿動画は、2022年6月9日時点で3万を超える再生回数を記録しました。「うちはこういう会社です」というPRも込めた「SNS展示会」は見事に成功したのですが、社内での反応は意外なものだったそうです。

 「加工担当者に、『一晩で一万回も再生されたよ!』と伝えたら、『なんだか社長が興奮してるみたい』という反応でした。意外と皆さん冷静なようですね(笑)」

<取材協力>
有限会社 江口産業(@EguchiSangyou)

(向山純平)