アメリカの作家H・P・ラヴクラフトの小説作品を中心とした、まがまがしい異形の者たちが登場する「クトゥルー(クトゥルフ)神話」。日本ではテーブルトークRPGや、ライトノベルの題材としても広く知られています。

 作品に登場する異形の者の中で、中心的存在であるクトゥルー(クトゥルフ)をモチーフにしたダンボールアートがTwitterに投稿されました。人間がその姿を目にすると、恐怖でたちまち正気を失うとされていますが……こちらは大丈夫そうです。

 20世紀初頭のアメリカで、多くの怪奇的なホラー小説を発表したH・P・ラヴクラフト。この世のものとは思えない、異形の存在に接した人間が“宇宙的恐怖”をおぼえる……という作品世界は「クトゥルー(クトゥルフ)神話」と呼ばれ、今も数々の作家によって新作が発表され続けています。

 日本では、その作品世界をモチーフにしたテーブルトークRPG「クトゥルフの呼び声」で広く知られ、アニメ化されたライトノベル「這いよれ!ニャル子さん」で存在を知ったという人も多いでしょう。伝説的なオカルト書とされる「ネクロノミコン」も、クトゥルー神話が元ネタです。

 クトゥルー神話における「神」のような存在が、クトゥルー(クトゥルフ)。その名前は人間の発声器官では正確に発音できないとされ、姿はタコやイカのように多くの触腕を有した頭部と、羽の生えた姿で描かれます。

 そんなクトゥルーをダンボールアートで表現したのは、ダンボールアーティストのオダカマサキさん。お子さんのために段ボール工作をしたことをきっかけに、ダンボールや和紙を素材にして幻獣や生き物をリアルに表現する作家となったそうです。

 このクトゥルー像は、2020年8月に東京で開催された合同展「幻獣神話展VII」に向けて作られたものなんだそう。「会場の有楽町をルルイエ(「クトゥルフの呼び声」などのラヴクラフト作品に登場する架空の地名。海底に沈んでおり、クトゥルーが封印されているとされる)に見立てて『世界で最も邪悪なダンボールを作りたい!』と造形した作品です」とオダカさんは語ります。

頭部を切り抜いたところ(オダカマサキさん提供)

 作り始めるにあたって、1か月ほど頭の中でデザインを考えたというオダカさん。「僕はダンボールを『捏ねて』造形するため、ダンボールの声を聞きながら、曲げる部分、皺を入れる部分を相談しながら変更しつつ作っています」とのことで、作りながら形状が変化したりすることもあるそうです。

捏ねて柔らかくし形状を作る(オダカマサキさん提供)

 丈夫で固いダンボールですが、捏ねることで繊維がほぐれて柔らかくなり、繊細な表現も可能になります。頭部の触腕もまがまがしくうねり、それが重ねられて、より複雑な形状に。

数多くの触腕がうねる頭部(オダカマサキさん提供)

 胴体前面も、捏ねて柔らかくした段ボールを折りながら造形。筋肉のディティール表現も見事です。

筋肉表現が見事な胴体(オダカマサキさん提供)

 手足や体、羽などは太い針金を軸に作りつけていきます。体の割には細い手足が、躍動感のあるポーズになると迫力満点。

針金を芯にしてポージング(オダカマサキさん提供)

 最終的にウロコやヒレなどのディティールを追加し、実制作作業は2週間くらいで完成したというクトゥルー像。RPGなら間違いなく、正気度をガリガリ削られてゲームオーバーになってしまいそうです。

手足をつけたところ(オダカマサキさん提供)

 オダカさんは作品について「気持ち悪い!名状しがたい!と思っていただけたら成功です」と語っています。また、埼玉県小川町の小川和紙を使った骨格モデル「邪神骨」という作品も作られており、こちらは2月中旬から台湾で開催されているクトゥルー神話の展覧会に出展されているとのこと。

小川和紙を使った「邪神骨」(オダカマサキさん提供)

 ダンボールや和紙を捏ね、繊細でリアルな表現をするオダカさんの作品は、2022年2月18日~3月6日に東京・下目黒のmaruseにて開催される「自在展参」に出展予定。造形の巧みさを間近で見るチャンスになりそうです。

<記事化協力>
オダカマサキ【オドンガー大佐】さん(@odonger2)

(咲村珠樹)