ハサミやカッターで紙を切って表現する切り絵。技術が上がると、とても繊細な表現まで可能になります。細かな模様まで、絹糸のような細さで切り出された鳳凰の切り絵。まるでペンによる細密画のようです。この作品を手がけた福田理代さんに、作品について話をうかがいました。

 切り絵作家の福田理代さんが、切り絵の世界に足を踏み入れたのは高校生の頃。「友達への誕生日カードを、ただの四角い紙に『お誕生日おめでとう』じゃ味気ないなと思い、ハート形に切り抜いたことがきっかけです」と福田さんは語ってくれました。

福田さんの代表作「海蛸子」(福田理代さん提供)
ノーチラス(福田理代さん提供)

 「なんとなく次の友達のカードも切り抜こうと思い、女の子の横顔、小鳥、花束……と、どんどんモチーフが複雑になり、サイズも大きくなって今に至ります」という福田さん。30年近く続けるうちに100~120点ほど、5~7cmくらいの小さな作品を含めると、もっと多くの作品が生み出されました。

リュウグウノツカイ(福田理代さん提供)
リュウグウノツカイを手に取ったところ(福田理代さん提供)

 今作の「鳳凰」は、2021年4月に下書きを始め、完成したのは10月の末。「途中で違う作品も何枚か手がけていたので、実質4か月くらいです。会社員で本業があるので、1日あたりの作業時間は3時間くらいです」とのことです。

切り絵作品「鳳凰」(福田理代さん提供)
「鳳凰」の下絵ラフ(福田理代さん提供)

 下絵は0.3mmのシャープペンシルで、切る紙の裏側に直接書いているとのこと。「切る時に何も考えずに切れるように、しっかり模様や一本一本の線まで書き込みます。まるっきりのアナログです」と福田さん。

細かく模様を描き込む(福田理代さん提供)

 作品に使用しているのは、タントというアート用紙。福田さんは「薄すぎず厚すぎず、切り心地の良い紙です。カラーバリエーションがたくさんあるので、その中のオフホワイト系のものを好んで使っています」と語ります。

完成した「鳳凰」下絵(福田理代さん提供)

 切り出すのに使っているのはデザインカッター。細かい切り出しができる刃角30度の替刃を愛用しているそうです。

細かく描線を切り出していく(福田理代さん提供)

 下絵の描線に沿って、糸のように細く細く紙を切っていきます。カッターマットは切り抜いた部分が分かりやすいよう、暗い色のものを使っています。

鳳凰を切り出していく(福田理代さん提供)
「鳳凰」の途中経過(福田理代さん提供)

 手前に曲がっていく尾羽など、重なった部分は非常に立体的ですが、切って折り曲げているわけではなく、あくまでも平面として切られています。手前になる部分の描線を太く、奥になる方は細く切り分けることで、一枚の紙で奥行きを表現しているのです。

重なりの手前を太く奥を細く切ることで立体感を表現(福田理代さん提供)

 まるで白いインクの細密画のように、繊細に切られた福田さんの切り絵。2020年2月には国書刊行会より、作品集「切り剣 福田理代切り絵作品集」が刊行されているほか、ご自身のサイト「Kiriken Masayo」では作品のほか、作品展の告知なども掲載されています。

<記事化協力>
切り剣 福田理代さん(Twitter:@kiriken16/Instagram:kiriesousakukamasayo)

(咲村珠樹)