小さい頃、線路の横で通過する列車を眺めていた記憶のある方は少なくないでしょう。長じて鉄道ファンになるかは別として、鉄道に興味を持つのは小さい子あるあるです。SNSに投稿された線路横のフェンスにかじりつき、列車の通過を見ている女の子の写真。添えられているのは少々風変わりな「その沼はとても深うございます」という言葉でした。

 遊んでいた女の子が3人、通過するディーゼル機関車をフェンスに登って見ている写真を撮影したのは、鯖茶漬さん。この写真は十数年前に遭遇した光景だそうで、鉄道を題材としたとても微笑ましい作品です。

貨物列車を見る女の子たち(鯖茶漬さん提供)

 撮影当時について、鯖茶漬さんは女の子たちが「『何か来たー』とかはしゃぎながら、車両通行止めの道で乗っていた三輪車を乗り捨て、柵によじ登って見ていたと記憶しています」と話してくれました。

 それにしても、写真に添えられた「お嬢様方、その沼はとても深うございます」という言葉とは?疑問に思う方も多いかと思いますが、これは女の子たちが見ている列車に秘密があるのです。

 列車の先頭に立っているのは、汎用中型ディーゼル機関車のDE10形。その前面左右には、信号旗を手にした係員が1名ずつ乗っています。撮影した鯖茶漬さんによると、ここは「変圧器製造メーカーから延びている専用線の沿線です」とのこと。

 専用線および専用鉄道とは一般の旅客線とは違い、規模の大きな工場や鉱山、港湾などの倉庫地帯に敷設され、工場へ原材料を運び込んだり、完成した製品を出荷したりする際に用いられる路線のこと。工場の操業状況に左右されるので、列車は不定期に運転されています。

 毎日決まった時間に列車がやってくるわけでなく、ごくたまに列車が行き交う専用線。「専用線ですと年に1〜2回ぐらいしか走らないこともありますので、列車が来ること自体がお嬢さんにとってはイベントのような感じなのでしょう」と、鯖茶漬さんは女の子たちの心境を想像しています。

 珍しいといえば、鉄道ファンの間でも貨物、特に不定期に運転される変圧器などの特大貨物や、専用線を好むファンも、どちらかといえば少数派。しかも特大貨物列車が運転されることは稀で、運ぶ貨物によって使用する貨車(大物車といいます)の仕様が異なることもあり、深く楽しもうとするといくらでも深く掘り下げることのできる、まさに底なしの「沼」なのです。

大物車シキ802B2と積荷(鯖茶漬さん提供)

 今回の写真に写っている特大貨物列車について、鯖茶漬さんにうかがうと「シキ1000D1(55トン積大物車)を1車使用した、東京電力向け変圧器輸送でした。写真だと電信柱でちょっと隠れていますが、灰色の貨物がそれに当たります」と当時のことを語ってくれました。女の子たちにしてみると、見たこともないような大きな変圧器、レールへの重量分散のため数多くの車輪を備えた大物車と、とても珍しい貨物列車だったに違いありません。

 もちろん、この写真の女の子がその後、特大貨物列車好きに育ったかは分かりません。しかし、非常に珍しい列車を見る女の子たちを通じて、鯖茶漬さんは特大貨物の面白さを感じてほしい様子。

シキ1002D1の大物貨物列車(鯖茶漬さん提供)

 毎日のように列車が運転されるわけではないけれど、人々の生活に必要なものを運んでいる専用線や特大貨物列車。ひょっとしたら、大人の方が目撃したら興奮するかもしれませんよ。

<記事化協力>
鯖茶漬さん(@saba_chazuke)

(咲村珠樹)