日本古来の機械仕掛けである「からくり」。

 糸や歯車などを活用し、それに伴う摩訶不思議な動きをする人形やからくり細工は、どれも思わず目を引く日本が世界に誇る機巧品。とはいえ、様々な技術が発達した現代では、「過去の遺物」としてとらえられがちな一面も。

 そんな「からくり」に魅せられ、「現代アート」として作品に昇華させた学生クリエイターがいます。

 「4角形になったり、8角形になったり、角の位置が変わったりする。」

 「タイムマシン型日時計 開発日記」というハンドルネームで、Twitter運用を行っている株式会社山城機巧公式Twitterが投稿したとある木工作品。山城機巧は、代表取締役社長である山城佑太さん(以下、山城さん)が、佐賀大学理工学部在籍中に起業した学生ベンチャー企業です。

 山城さんは、社名に「機巧」という名称を入れているとおり、江戸からくりや機械式時計、さらに西洋からくりともいわれる「オートマタ」に魅了され、先述のアカウントを「山城機巧の“裏垢”として、『アート作品』として成立する機械の可能性を探りながら、自分が好きな機械的面白さがある作品の制作記録と、完成品の投稿を行っています」という人物。

 山城さんが今回投稿した木工アートは、歯車とカムを備えた8つのパーツで構成された作品。基本形態は6面サイコロ状の四角形となっており、各パーツを連結するボルトと歯車の噛合(噛み合わせ)で繋がっています。

山城さんが投稿したのは、横四方に歯車が組み込まれた木工アート。

 これだけですと、何てことない木工作品。ですが、先述の歯車を回すと、四角だった形状が、六角や八角に連続的に変形。咬合する8つの歯車が交互に「反時計回り」「時計回り」と回って力を伝えていき、それを実現しています。

歯車を動かすと、その形状は様々な「角」へ。

 「面白い動きだなあ。でもどういう仕組みで動いているんだろう?」と山城さんの投稿動画に、ただただ見入るばかりの筆者。仕組みを山城さんに聞いてみたところ、実は人間のある動きを機械的に再現したそう。

 「これは元々『四足歩行からくり』を考える上で誕生したものなんです。ただ、人間の脚の関節は複数あり、それを機械的に再現するためには、まず複数の歯車で同期する必要があります。同時に、その歯車を『関節』として稼働するために、カムという『機械要素』を取り付ける必要もあります。そういったことを考慮した上で、さらにパーツ自体の魅力も伝わるように、環状に組んだものがこの作品なんですよ」

 人間の歩行動作において、膝の角度は決まった「周期」で動きますが、しかしこの動きを「機械」として再現する場合、持続的に動くための「装置」として、まず歯車が必要となります。

 同時に、人間の関節部分は単一ではないというのも留意すべき点。プラモデルなどの模型などでもそうですが、よくよく見てみると、実は可動面に様々な「カム」状の形態が隠れています。例えばガンプラにしても、それを無視して無茶な組み立てをすると、正しく可動部は動いてくれないものです。

 この作品の歯車を動かすと、それぞれに備えられた「カム」により、一定回転ごとに形態を変化させるような動きが加わります。これにより、各パーツを連結している「関節」が一定の角度で動き、形態が変化するというわけ。連結部の角度が変わっても歯車が安定して噛合するように、歯車はある程度角度のずれを許容するよう、わずかに傘歯歯車の形態をとっており、さらに歯の間隔と幅が設けられています。

 この計算が狂っていると、形態を変化させたら歯車が噛み合わなくなったり、逆に噛合がタイトすぎて動かなくなったりすることも。複雑な動きを実現するために、その最適な「遊び」を設定するのも、からくり(機巧)師の腕の見せ所といえますね。

 普段の生活のさり気ない単純動作ひとつでも、機械的に再現させるためには、動作を施す様々な装置が必要というのは興味深い話。ちなみに「からくり」というのは、平安時代の文献にはその記述があります。1000年以上もの歴史の詰まった知的探求心の結晶とも考えると、なかなかにロマンあふれるものですね。

現役のからくり人形師に師事して、その技巧を研究中という山城さん。今後も様々なからくりアートを投稿していくとのこと。

 山城さんは今後も今回投稿した「からくりアート」のような手作りの技術を向上させたいと考えているそう。そのため、職業からくり技師に師事して、日々研究中とのことです。

 最先端技術に触れることは技術革新には不可欠ですが、歴史との邂逅もまた重要な噛み合わせを生む「機械要素」と言えるのではないでしょうか。

<記事化協力>
タイムマシン型日時計 開発日記さん(@yamashirokikou)

(向山純平)