ゲームアプリ「ウマ娘 プリティーダービー」の人気に後押しされ、近年、競馬界や競走馬への注目が非常に高まっています。5月の連休を目前に控え、競走馬や引退馬を一目見ようと牧場見学を計画している方もいるかもしれませんが、そんな方たちへ向けた「牧場見学をする際に注意したいこと」をまとめたツイートが話題になっています。

 今回、投稿を行ったのは往年の名馬を愛してやまない九条写楽さん(@syaraku0711)。10代のころから競馬に興味を持ち、三冠馬ミスターシービーの同期生で名マイラーのニホンピロウイナーや、橋本聖子さんの実家で生産された「外車」マルゼンスキーといった名馬たちがお気に入り。いまは、主にVTuberとして活躍されており、クリスマスに児童養護施設に寄付を行っていたり、今年はカンボジアに井戸を建設することを目標としているなど精力的に活動されています。

■ 競走馬をあつかう牧場は「観光牧場」ではない

 「牧場見学をする際に注意したいこと」で九条さんが最初に挙げたのは、競走馬を扱う牧場は外部からの来客で経営が成り立つ「観光牧場」ではない、ということ。このため、見学が可能な牧場と不可能な牧場、見学可能でも時期によっては見学者をお断りしている場合があります。

ウマ娘フィーバーで牧場見学を考えている方は必見!牧場を訪問する際に注意したいこと

 牧場見学を希望する場合は、自身で調べた牧場に直接連絡するのではなく、全国6か所(北海道3か所、青森県、千葉県、鹿児島県)に設置された「競走馬のふるさと案内所・連絡センター」のうち、お住まいの場所に近いセンターへ問い合わせをし、行きたい時期に見学受け入れ可能な牧場の中から訪問する牧場を決めましょう。

生産牧場の一例(ライスシャワーの生まれ故郷:登別市ユートピア牧場)

■ 見学が許可された場合の注意点

 続いての注意点は、実際に牧場に行った際、気をつけるべきこと。競走馬を扱う牧場には、母馬(繁殖牝馬)がいて仔馬を産ませる生産牧場、種牡馬のみを繋養している牧場、生まれた仔馬や現役の競走馬を預かりトレーニングする育成牧場といった種類がありますが、どれも観光牧場のように外部からの来客を歓迎しているわけではありません。必ず事前に連絡をし、見学許可をとりましょう。

ウマ娘フィーバーで牧場見学を考えている方は必見!牧場を訪問する際に注意したいこと2

 また、毎年2月~4月は馬の出産シーズンで、母馬のいる生産牧場では24時間体制で出産に備える繁忙期。そこから1か月ほど経った4月~6月頃にかけては、今度は種付けシーズンとなり、種牡馬のいる牧場を含めて衛生面など非常に神経を使う時期です。見学はこういった時期を避け、7月~9月頃でスケジュールを考えた方が無難です。

 競走馬の牧場訪問はいわば職場見学ですので、絶対にアポなしで牧場を訪れてはいけません。また、見学許可が取れたからと言って、何でもしていいわけではありません。牧場や厩舎では従業員さんの指示に従い、その都度確認を取ったうえで慎重に行動しましょう。

競走馬厩舎の一例

 競走馬はデリケートで、1頭あたり数百万~数億という高価な動物のため、牧場は外部からの感染症対策に神経を使っています。立ち入る際に消毒を求められることもありますので、従業員の方の指示は必ず守るようにしましょう。

■ 馬は臆病な動物

 次に九条さんが言及しているのは、馬という動物の特性に基づく注意点。馬は臆病な動物で、音や匂いに敏感な上、真後ろ以外は全て見えるという特徴があります。シャッター音や大きな声、フラッシュや急激な動きで驚き、事故(場合によっては馬の死亡につながる)につながる恐れもあるので、記念撮影にとスマホで写真を撮ったり、自撮り棒の持ち込みも禁止されている場合も多くなっています。

ウマ娘フィーバーで牧場見学を考えている方は必見!牧場を訪問する際に注意したいこと5

 見学の際は持ち物や服装も事前に確認し、音が出るものや食べ物、香水など匂いの強いもの、光るものの持ち込みは原則避けましょう。また、馬に近づくときは驚かせないよう、前の方からゆっくりと、日傘などを急に広げたりしないようにしてください。急に着信音が鳴って馬を驚かせないよう、スマホはマナーモードにしておいた方が無難です。

■ 牧場にいる馬たちは牧場や馬主さんの財産

 さらに、牧場にいる馬たちは自分のペットではなく、牧場や馬主さんの財産であることを忘れないように、という注意が書かれています。勝手にエサをやる行為は、馬たちの栄養管理の面、そして感染症など疾病対策・健康管理の面から絶対にNG。馬は腸が長いこともあり、疝痛(せんつう。胃や腸の痛み)や腸捻転、腸閉塞で死亡する危険があるため、食べ物の管理に神経を使っています。

ウマ娘フィーバーで牧場見学を考えている方は必見!牧場を訪問する際に注意したいこと8

 例を挙げると、ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」にも登場しているナリタブライアンは、疝痛から腸閉塞を起こし、緊急手術には成功したものの再度疝痛を起こしてしまい、最終的に食べたものから発生したガス(おならのもと)によって胃が破裂して死亡しています。

 飼養(栄養)管理のもとに与えられているものと違うものを食べさせれば、より疝痛や別の病気の危険性が高まります。牧場の従業員さんから認められた場合を除き、勝手にエサをやらないようにしましょう。

 最後に九条さんが言及したのは、牧場で働く従業員さんの事情について。牧場の従業員さんは早朝4時ごろから業務が始まり、馬の健康チェックや飼い葉(エサ)つけ、馬を放牧地に誘導したら厩舎の清掃や寝ワラの入れ替えといった作業を次々こなします。午前11時から午後1時半ごろまでは昼休みとなり、ようやく一服して仮眠をとる従業員さんもいらっしゃるので、この時間帯の訪問や電話は控えましょう。

 誰も忙しい時に来客の応対をしたくないように、これら全ては難しいことではなく、当然守るべきマナー。見学者は馬を購入予定の「お客さん(顧客)」ではなく、あくまでも「お邪魔する」という立場であることを忘れないようにしたいものです。

競走馬厩舎の一例

 このツイートに列挙された注意点を見た方からは「たくさんの注意事項をありがとう」「非常にタメになる」と多くの共感を呼び、3千件を超えるリツイートと4千件のいいねが集まっています。

■ ブームで盛り上がった競馬界に水を差したくない……けどマナーは知って欲しい

 九条写楽さんに話をうかがうと、投稿を行ったのは九条さんのご友人とのエピソードがきっかけになったとのこと。九条さんのご友人も「ウマ娘」にハマり、牧場見学をしようとしていた際に、アポイントを取らずに訪れようとしていたり、馬に乗れると思っていたりと、危うく牧場の従業員さんや馬に迷惑を掛けそうになっていたそうです。

「トレセン学園」のモデルJRA美浦トレーニングセンター

 長年競馬を愛してきた九条さんはこの「ウマ娘」ブームで盛り上がった競馬界に水を差したくなく、これまで個人的に牧場を訪れた際にうかがった馬の特性や牧場、厩舎でのマナーなどを周知しておくべきなのではと思い、投稿にいたったのだそう。

 決して牧場見学をしてほしくない、というわけでなくむしろ「ウマ娘」の人気で競馬界に興味を持つ方が増えるのは本来ありがたいもの。セイウンスカイ号やニシノフラワー号のお墓がある西山牧場の西山茂行オーナーも「墓参はいつでもウェルカム」とおっしゃられています。このようなご厚意あふれる牧場主さんに、ウマ娘のファンはマナーが良くないと失望させてしまっては絶対にいけません。

トレーニングセンターでの調教の様子

 ウマ娘に限らず、いわゆる好きな作品の聖地巡礼を行うのであれば、きちんとルールを守り、作品やその舞台への敬意を持ったうえで楽しみたいものです。訪問先の人々が「この作品のファンはいい人ばかりだね」と言ってくれるようになれば、作品を作ったスタッフの皆さんも喜ぶに違いありません。

 <記事化協力>
九条写楽さん(@syaraku0711)

 <参考>
公益社団法人 日本軽種馬協会 「競走馬のふるさと案内所」公式サイト

(山口弘剛)