航空機の操縦操作にコンピュータを介在させる「フライ・バイ・ワイヤ」。戦闘機だけでなく、旅客機にも広く採用されているシステムですが、このシステムを潜水艦の操縦にも応用すると2021年4月1日(現地時間)、イギリス海軍が発表されました。2030年代に就役予定のドレッドノート級弾道ミサイル原潜に採用されます。

 イギリスの核攻撃力で中核を担う弾道ミサイル原潜。現在就役中のヴァンガード級4隻に代わり、2030年代から就役を予定しているのがドレッドノート級です。

イギリス海軍の弾道ミサイル原潜ヴァンガード(Image:Crown Copyright)
ヴァンガードから発射されるトライデントSLBM(Image:Crown Copyright)

 イギリス海軍において「ドレッドノート(「恐れ知らず」の意)」という名前は由緒あるもの。16世紀に建造された砲艦を初代とし、最も有名なのは1906年に就役した戦艦ドレッドノートで、それまでとは一線を画した近代的な性能から、各国で「ド級」と技術基準にされました。

ドレッドノートのインシグニア(Image:Crown Copyright)

 第二次世界大戦後は、イギリス海軍初の原子力潜水艦に命名された「ドレッドノート」。潜水艦として2代目となるドレッドノート級弾道ミサイル原潜も、革命的な技術が取り入れられることになりました。

ドレッドノート旧原潜の概要(Image:BAE Systems)

 航空機における「フライ・バイ・ワイヤ」は、パイロットが操作する操縦装置と実際に動く舵面とが機械的につながっておらず、操縦操作をコンピュータが電気信号で受け取り、それに基づいてコンピュータが意図した動きになるよう舵面を操作するというシステム。コンピュータが調整することにより、手動操縦では難しい複雑な姿勢制御が可能になると同時に、自動操縦との親和性も高まりました。

 3次元の空間を自在に動くという面では、航空機も潜水艦も同じ。このため潜水艦の運動性を高めると同時に、複雑な潮流・海流の中でも正確な自動操縦を可能にし、乗員の負担軽減や省力化につなげようというのが、潜水艦用フライ・バイ・ワイヤの「AVCM(アクティブ・ビークル・コントロール・マネジメント)」システムです。

海中でのドレッドノート(Image:Crown Copyright)

 ドレッドノート級原潜を建造している、BAEシステムズのジョン・タッカー氏は「50年以上にもわたる航空分野における経験のおかげで、私たちはこのハイテクプロットフォーム用の複雑な制御システム開発方法を熟知しています。私たちのテクノロジーを潜水艦に導入するのはワクワクするような新しい挑戦ですし、ドレッドノート計画をサポートしていること、そして我が国の安全保障で重要な役割を果たしていることに誇りを感じます」とのコメントを発表しています。

ドレッドノートの胴体セクション(Image:BAE Systems)

 すでに1番艦ドレッドノートの建造は始まっており、130名以上の技術者たちがロチェスターでシステム開発に取り組んでいます。ドレッドノート級の建造は、この地域にとって1984年に海軍のチャタム工廠が閉鎖されて以来の大きなプロジェクトとなっており、ロチェスターが属するケント州の経済にも大きな雇用を生み出すものです。

<出典・引用>
イギリス海軍 ニュースリリース
Image:Crown Copyright/BAE Systems

(咲村珠樹)