今や様々な分野で活用されているAI(人工知能)。身近なところではスマートスピーカーや、スマホのカメラに使われている顔認識機能などがありますが、ミリタリーの世界でもAIが進出しています。長時間飛ぶ偵察機パイロットの負担を軽減するため、偵察機器の取り扱いをAIに担当させる実験が、アメリカ空軍で実施されています。

 偵察機の分野には、すでに遠隔操縦の無人機が投入され、長時間の監視任務を担当しています。しかし、きめ細かな偵察を実施するには、パイロットが乗り込んで操縦し、その場で状況判断が可能な有人機にまだまだ軍配が上がります。

 特に、敵性勢力からの攻撃があり、その場所を特定するという偵察任務では、周囲の状況をパイロットが直接見て判断できる有人機が有利ですが、同時に偵察機が撃墜される危険もあります。このため、パイロットは操縦に専念し、偵察機器の取り扱いをAIに任せて偵察飛行を実施できるようにしたい、というのがこの実験の狙いです。

 今回の実験に使用されたのは、第9偵察航空団(カリフォルニア州ビール空軍基地)のU-2高高度偵察機。第9偵察航空団では、2020年9月にGoogleが開発したアプリケーション自動管理システム「Kubernetes」を使い、U-2の訓練飛行中に任務システムのソフトウェアをリモートで更新する実験に成功しています。

 アメリカ空軍航空戦闘軍団(ACC)のU-2連邦研究所が開発したAIアルゴリズム「ARTUμ」を実装された単座(1人乗り)のU-2は、ビール空軍基地を離陸。離陸後パイロットは操縦を担当し、ARTUμが戦術ナビゲーションと偵察用のセンサーを担当して飛行しました。

 実験で設定されたシチュエーションは、ミサイル攻撃を受けた際に、相手がどこからミサイルを発射したのか、という場所の特定。上空には相手の航空機がいるかもしれないので、パイロットは自機が攻撃を受けないよう、周囲を警戒しながら飛行します。

 AIは実験開始前に50万回を超えるシミュレーションを重ねており、その学習結果に基づいて偵察機器を操作し、疑わしい物体を捜索しました。アメリカ空軍によれば、パイロットとの協調の結果、見事にミサイルランチャーを探し出すことに成功したといいます。

 第9偵察航空団司令官のヘザー・フォックス大佐は、今回の実験結果を受けて「これは第9偵察航空団が国防総省からの最も困難な課題に取り組むため、様々な技術革新をしている例の1つといえます。U-2は、開発された先進技術を他国の空軍やパートナーに対し、容易に転用できる完璧なプラットフォームですし、リーダーのティエニー大尉をはじめとする開発チームを誇りに思います。彼らは歴史を作ったのです」と最大級の賛辞を贈っています。

 アメリカ空軍制服組トップのCQ・ブラウン参謀総長は「私たちは将来、仲間とともに戦い、相手に勝利するためには、決定的なデジタル面のアドバンテージが必要であると考えています。AIは、まさにその分野で重要な役割を果たすことが予想され、今回開発チームが成し遂げたことを心から誇りに思います。私たちは歩みを加速させなければなりませんし、限界に挑戦した時、初めて成し遂げられるでしょう」との談話を発表し、AIの進歩が将来における鍵になると強調しています。

 U-2は1955年に原型機が初飛行し、アメリカ空軍では60年以上もの間運用している古い偵察機ですが、まだまだ最先端技術の適用で能力が向上していくのは驚きです。アメリカ空軍ではこのAIを他の作戦機にも応用し、人間とコンピュータが協力しあって任務を遂行する仕組みづくりに繋げていくこととしています。

<出典・引用>
アメリカ空軍 ニュースリリース
Image:USAF

(咲村珠樹)