Hondaから新しい電気自動車「Honda e」が2020年10月30日に発売されます。街乗りの楽しさを重視したコンパクトボディが注目を集めていますが、実際の取り回しはどんな感じなんでしょう。横浜で開催された「迷路試乗会」で体験してきました。

 電気自動車「Honda e」は、Hondaが提案する都市型コミューター。これまでのクルマにない魅力を追及するとともに、EVならではの柔軟な発想で作られています。横浜の試乗会場には、屋外にも車両がありました。

 今回の「迷路試乗会」は、屋内に作られた迷路コースを走り、狭く入り組んだ道での運転性能を体験するというもの。段ボールで区切られたコースは想像以上に狭く、非常にコンパクトなレイアウトです。屋内で試乗会ができるというのも、排気ガスの出ないEVならではですね。

 運転席に座ると、目の前にあるのは室内幅いっぱいに広がった多機能ディスプレイ。5つのディスプレイが連続しており、速度など運転に必要な情報やナビなどを選択して表示可能です。

 左右一番外側のディスプレイは、ドアミラーの代わりに装着されたカメラからの映像が映し出されます。暗い夜間でも明るさが調整されて表示されるので、視認性も高そう。


 では、早速スタート。コースの幅は「Honda e」の全幅プラスアルファ程度、といった狭さ。そして、ちょっと進むとすぐ壁が迫って曲がらなくてはなりません。

 最初は車の特性とコースを見極めるため、ゆっくりと走行。慣れてきてからスピードを上げて走ってみました。いや、曲がる曲がる。サイズが同じくらいのコンパクトカーと比べても、4輪操舵かと思うくらい小回りが利きます。

 ステアリングの切り返しも軽く、そしてクイック。軽いタッチで小気味よく曲がってくれるので、ちょっとジムカーナをやっている気分になりました。これ、楽しい!

 試乗を終え、Honda eの開発責任者である一瀬智史さんに話をうかがうと、小回りが利く秘密は、駆動方式をRR(後部モーター・後輪駆動)にしたため、前輪の操舵角を大きく確保できたことだといいます。その角度は外輪で40度、内輪で50度。これにより最小回転半径は、車庫入れも楽々な4.3mを実現しています。

 コンパクトカーで標準的なFF(前部エンジン・前輪駆動)の場合、前輪の間にエンジンとトランスミッションが挟まり、ドライブシャフトも通っているため、前輪の操舵角を大きく取れません。「最初はFFレイアウトからスタートしたんですが、みんな内心ではRRがいいよね、と思っていて。そこでRRにしてみたら、思った通りの性能が実現できました」と一瀬さん。

 また、前後のオーバーハングが短いことも、曲がり角での見切りや回頭性の良さにつながっています。駆動システムを後ろにして、電池など重量のある部品を低い位置に配置したことで、前後・左右の重量配分は理想的な50:50を実現。

 一瀬さんによれば、クルマのバランスが理想的になったため、サスペンションもシンプルなストラット式で十分路面に追従させることが可能になったといいます。「理屈では、バランスが完全にとれていればタイヤの接地角も自然に一定になり、サスペンションもシンプルになることは分かっていたんです。実際に基本が良くなると、その通りになりました」と語ってくれました。

 バランスよく、安定したシャシーが実現したことで、いつでも一定の操縦安定性を獲得したHonda e。減速時は加速度センサーからの情報をもとに、モーターを使った回生ブレーキと、通常の油圧ブレーキをうまくブレンドして姿勢を安定させ、コーナーリングもスムーズにこなせるようになりました。

 このHonda eには、2010年にコンセプトモデルが発表され、2012年からリース販売された「フィットEV」から連綿と続くノウハウが反映されていると一瀬さん。「すぐに市販モデルに使えなくても、得られたノウハウは我々の財産として、未来の商品開発に役立てられます」と語っています。

 一瀬さんによると、Hondaの八郷社長がHonda eを試乗した際、運転が楽しかったらしく、なかなか帰ってこなかったとか。そして試乗後は「役員に「あれは面白いぞ」と話したらしく、次々と役員が試乗に来ました」というエピソードも紹介してくれました。

 街乗りを重視したことで、バッテリー容量は少々少な目、とのことですが、WLTCモードで283km、30分急速充電での走行距離は202kmと必要にして十分。車内のオーディオやネット装備を使いながら急速充電が可能なので、待ち時間も快適に過ごせそうです。

 小気味よいフットワークで運転する楽しさを感じるだけでなく、Honda SENSINGといった安全運転支援システム、コネクテッドカーとしての先進性を備えたHonda e。多くの人に試乗してもらいたいと感じるクルマでした。

取材協力:本田技研工業株式会社

(取材・撮影:咲村珠樹)