ゲームやアニメを下敷きにした舞台公演、通称「2.5次元」ミュージカルや演劇には、多くの若手俳優が出演しファンを魅了しています。今でこそ注目の的ですが、かつてはメディアへの露出が少なく、ファンにとって情報不足だったことも。そんな若手俳優にいち早く注目し、多くのインタビュー記事を執筆してきたライターのおーちようこさんに、そのお仕事についてうかがいました。

※本稿はおたくま経済新聞のプレゼント企画「あなたのことを記事にします #PR」の個人枠当選者の記事です。(本稿はPR記事です)

■インタビュー「舞台男子」誕生のきっかけ

 そもそものきっかけは2014年、講談社のWEBサイトに連載する企画として提案したものだった、とおーちさん。以前から演劇好きだったこともあり、当時盛り上がりを見せていたミュージカル「テニスの王子様」や、舞台「弱虫ペダル」などの注目作に出演している若手俳優を取り上げ、インタビューをしたい、と声をかけてくれた担当者にお願いしたといいます。

 テレビや映画で活躍する人と違い、舞台俳優はメディアに露出する機会が少ないのが現実。しかも、演劇雑誌などにインタビューや特集記事が掲載されるのは、著名な作品のメインキャストが中心となり、たとえ人気の舞台に出演していても、若手俳優に多くのページを割かれることはありませんでした。

 しかしWEBであれば、雑誌と違ってページ数に縛られることなく、注目株の若手俳優を取り上げることが可能です。なにより舞台を見て「この俳優さん素敵!」「どんな人なのか、もっと知りたい!」と思ったファンに対し、欲しいと思っていた情報を届けられる。その意義は大きいとおーちさんは考え、企画を提案したのでした。

 インタビューという形式をとったのは、おーちさんが従来の演劇記事に歯がゆさを感じていた、という面もありました。通常、俳優がメディアに露出するのは、これから公演が始まる、という告知の機会がメインです。

 もちろん、公演のチケットが売れるためには、事前に記事が出ることが重要なポイントです。しかし、すでに完成したものをお披露目する映画やテレビドラマと違い、舞台公演は初日の幕が開いた時、初めてこの世に生まれます。そこから観客の反応とともに成長していくため、公演期間中でも同じ舞台は2つとないといっても過言ではありません。

 俳優の気持ちも、公演前と公演終了後では違いが生まれてくるでしょう。ファンとしては、そういった心境の変化も気になるところですが、それまでの公演前記事では、どうしてもフォローできていないところでもありました。

 だからこそ、おーちさんは公演の告知的なインタビューではなく、終わった公演について振り返ってもらったり、これまでの道のりについて語ってもらったり、という「俳優そのもの」の姿を中心に据えたかったといいます。これまでの雑誌メディアでは難しく、でも間違いなくファンが求めているであろうもの。ページ数にとらわれず、少なくても確実にあるニーズに対応できる、まさにWEBならではの企画だといえるでしょう。

 企画が始まった2014年当時、まだ「2.5次元」という言葉はファンの間で使われるくらいで一般的ではなく、その年の3月に「一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会」が設立されたばかり、という状態でした。そこで将来、広く活躍する俳優になるだろうことを信じて、企画のタイトルは2.5次元作品の俳優に特化する、ということではなく、2.5次元舞台「にも」出演している若手注目株の俳優インタビュー、という意味も込めて「舞台男子」とした、とおーちさん。

■「舞台男子」スタートから初の書籍化まで

 記念すべき第1回でインタビューしたのは、ミュージカル「テニスの王子様」2ndシーズンで日吉若(氷帝学園テニス部)を演じていた、伊勢大貴さん。ファンの間では「イセダイ」の愛称で知られている伊勢さんですが、おーちさんは第1回のインタビューはこの人、と決めていたそうで、伊勢さんにインタビューを受けてもらえたことに、今も感謝しているといいます。

 それというのも、この年2月から放送が始まったスーパー戦隊シリーズ「烈車戦隊トッキュウジャー」のOP主題歌でCDデビューしていたから。それまでにも2013年の映画「劇場版 獣電戦隊キョウリュウジャー ガブリンチョ・オブ・ミュージック」などの挿入歌を歌っていたりはしましたが、突然の俳優から歌手という幅広い活動に興味を持ち、「ぜひこの機会に話を聞いてみたかった。でも、どんな連載かわからないところで登場してもらえるか不安だった」とか。それだけに取材の実現は「本当に嬉しかったです」とおーちさんは語ってくれました。

 伊勢さんのインタビュー記事を読んでくれた、講談社の方が「いい連載じゃない。ここに登場してくれる若い俳優さんたちに、いつかうち(講談社)がお世話になるかもしれない。大きなメディアを扱う場所は、そういった文化貢献も義務のうちだと思うから、頑張って続けてね」とかけてくれた言葉を、おーちさんは今も忘れられないといいます。

 連載第1回で伊勢さんがインタビューに応じてくれ、それがサイトに掲載されたことで、その後はインタビューのオファーに対し、俳優さんの事務所側も企画の内容に理解を示し、比較的スムーズに連載が進んでいった「舞台男子」。しかし2015年11月、掲載していたサイトが都合により閉鎖されることに。

 WEB媒体のつらいところは、サイトが閉鎖されると、それまで提供されてきたコンテンツが無くなり、後で楽しめなくなってしまう点。このまま「舞台男子」も、ファンの記憶の中に残るだけになってしまうのか……というところで、ちょっとした奇跡が起こります。

 それはサイトが閉鎖される1週間ほど前のこと。「舞台男子」を楽しみに読んでいた、という一迅社の編集者が、おーちさんに「この連載は本にならないんですか?」と問い合わせてきたのです。現状ではちょっと難しい……という返事をしたところ、その編集者は「講談社さんがOKしてくれれば、ウチで書籍化したい」と、願ってもない話をしてくれたのでした。

 早速確認したところ、権利関係をきちんと整えたならば他社での書籍化は構わない、との回答が。そこで、再度インタビューした俳優さんたちの事務所に対し、書籍化についての許諾を改めて申請したところ、全事務所が快諾。そうして12人分のインタビューをまとめた「舞台男子」が2016年1月、一迅社から世に出たのでした。

 最初は、話題になっていて、実際に観劇したらおもしろくて「2.5次元」の舞台作品に通っていた、というおーちさん。しかし取材を続けるに従い、商業演劇の世界で日に日に存在感を増していく姿に、いつしか「2.5次元」という作品群が日本の演劇史で後世に残るジャンルを築くかもしれない、そうあってほしいと願うようになったといいます。

■「舞台男子」の継続と新書「2.5次元舞台へようこそ」上梓

 一度は終了してしまったインタビュー企画「舞台男子」でしたが、嬉しいことにKADOKAWAのWEBマガジン「小説屋sari-sari(サリサリ)」への移籍が実現。2016年5月号から、いわば第2期がスタートしました。

 それと並行して、おーちさんが「2.5次元舞台を世の中に説明する新書を書く」という機会が訪れます。それは、ミステリ好きでもあるおーちさんの旧知の編集者であり、講談社の文芸誌「ファウスト」編集長を務め、現在は星海社の社長でもある太田克史さんの発した一言がきっかけでした。

 当時2.5次元舞台が注目されはじめ、大学の先生が学術的に考察するなどの動きが見られていたこともあり、この演劇ジャンルについて「いつか誰かにまとめて欲しい」と話すおーちさんに、太田さんは「自分で書いたらいいじゃない」と提案したといいます。

 しかし、自分のような無名のライターが新書を出すなんておこがましい……とおーちさんが尻込みしていたところ、周囲からの「多分、おーちさんが誰よりも(舞台を)観ているし、俳優さんのインタビューもしてるから適任だと思うよ」との言葉と、太田さんからの後押しもあり、2017年11月「2.5次元舞台へようこそ ミュージカル『テニスの王子様』から『刀剣乱舞』へ」が、星海社新書としてリリースされました。

 この本でおーちさんが心がけたのは「2.5次元を語る決定版」ではなく、2.5次元舞台を語る上でまず「きっかけ」となる存在、ということ。「まだ誰も書いていないところで出た訳ですから、私の本に対する反論でもいい、2.5次元舞台というものを題材にした本が色々出てくれれば、この世界はもっと豊かなものになる」という思いで本を上梓したといいます。

 この新書、そしてKADOKAWAのWEBマガジン「小説屋sari-sari」でのインタビュー連載をまとめた、2017年の「舞台男子 the document」、2018年の「舞台男子 the real」と、着実に発表し続けるおーちさん。しかし残念ながら「小説屋sari-sari」は2017年12月号で終了してしまうことに。そこで、おーちさんら演劇好きの有志が運営する「最善席」というサイトに場所を移し、新たな連載を立ち上げます。このサイト名称は、誰もが観劇やコンサートの際、自分だけのお気に入りの席があるに違いない、という考えから、それぞれが最善と思う席という意味で「最善席」としているそうです。

 新たな仕切り直しと同時に、男子ということにとらわれず、幅広い俳優さんにインタビューしていきたい、という気持ちから「舞台俳優は語る」として再スタートした連載。その反響は大きく、縁あって7名のインタビューを収録した本が、最初の「舞台男子」を刊行した一迅社から2020年2月にリリースされました。

 おーちさんは「この企画は、本当に奇跡的な展開を見せてくれる」と語ってくれましたが、それは偶然の奇跡ではなく、おーちさんのこれまでの仕事ぶりと、若手俳優の皆さんの魅力的な話を引き出す力あってのものでしょう。以前はインタビューが苦手で、自分の思いを上手に言葉にできなかった俳優さんが、おーちさんの丹念な問いかけで、どのようなことをどう言葉にすればいいか気づき、取材中に大きな変化が起こったこともあったとか。

■企画を通じて見えてきたもの……そして継続のために

 インタビューを通じ、出会いの妙というものを感じているというおーちさん。なかなか続けていくのが難しい、とされる舞台俳優ですが、2014年からこれまでインタビューした30名以上にものぼる俳優さん全員が、今でも俳優活動を続けているそうです。「大げさかもしれませんが、この連載を通じて、ひとつの演劇史を編んでいるつもりなので、皆さんが頑張っている姿を見ることができて嬉しい」と語ってくれました。

 また、2.5次元舞台を学校の課題として研究する学生さんも増えてきているそうで、おーちさんの新書「2.5次元舞台へようこそ」が出発点になって、学生さんから質問を寄せられる機会もあるとのこと。舞台俳優の演技が見た人の心を打ち、人生を変えることがあるように、おーちさんが本に託した思いも、多くの人に種をまき、芽吹き始めているのかもしれません。

 若手の方々だけでなく、これまでにインタビューした俳優さんたちが大成し、当時を振り返る……という企画もできたら、と語るおーちさんの言葉には、2.5次元舞台を観劇し続け、俳優さんの成長を見守ってきた人ならではの思いが詰まっているような気がします。業界でも知られた存在になりつつあるおーちさんですが、ライターとしての本分を守り、これからも丁寧な取材を続けていきたいと語っていました。

 2014年から「舞台男子」の連載を始め、2020年2月に最新の「舞台俳優は語る」を上梓したおーちさんですが、まだまだインタビューしたい俳優さんは多く、企画が続けられるよう出版社(版元)を募集中です。

 2.5次元舞台の草創期から、俳優の素顔に注目してきた、おーちようこさん。おーちさんご本人のTwitterアカウントだけでなく、インタビュー企画「舞台俳優は語る」公式Twitterアカウント(@b_danshi)でも情報を発信していらっしゃるので、ぜひフォローの上、企画が続けられるよう、応援のメッセージを関係者に届けてください。

<記事化協力>
おーちようこさん(@yoko_oochi)
おーちようこさん書籍情報(amazon
観劇ファンポータルサイト「最善席
おーちようこさん似顔絵:雁須磨子さん

(咲村珠樹)