鉛筆の芯を削り出し、それを素材とする「鉛筆彫刻」というアート。文字を削り出した作品を多く見かけるのですが、新潟県の方が作った、地元新潟は燕三条の名産品であるナイフ、フォーク、スプーン(カトラリー)を鉛筆芯で再現した作品が、Twitterで大きな反響を呼んでいます。

 生まれも育ちも新潟、という新潟鉛筆彫刻人シロイさん(@shiroi003)が、8月中旬から相次いでTwitterに投稿したスプーン、フォーク、ナイフのカトラリー(洋食器)3点セット。地元新潟を代表する産品の1つ、燕三条の洋食器職人に敬意を表して作ったという作品は、精密な形状だけでなく、金属光沢まで再現したリアルさで大きな話題となりました。


 作者の鉛筆彫刻人シロイさんにお話をうかがうと、偶然テレビで見た鉛筆彫刻に感動し、およそ5年前から独学で取り組んでいるそうです。これほどまでの作品を作るんだから、学校でも美術の成績が良かったんだろうな……と思ったのですが、意外にも学生時代にもっとも嫌いな教科だったとか。

 それでも、テレビで見たような鉛筆彫刻を自分でもモノにしたい!と、試行錯誤を続けて徐々に腕を上げてきたシロイさん。文字だけでなく、立体モチーフを鉛筆の芯から彫っていけるまでになりました。

 鉛筆彫刻の基本となるのが、素材となる芯を長く残すため、木の部分だけを削ぎ落とす作業。シロイさんによると特別なことはせず、カッターで木の部分を丹念に削ぎ落としていくだけだそうですが、これだけでも根気が必要ですね。

 鉛筆彫刻で使用している道具は、デザインナイフ、カッター、ヤスリ、針など。大まかな形を削り出してから、細かなディティールを彫り込んでいくのは通常の彫刻と同じですが、なにしろ鉛筆の芯は細い上、力をかけすぎると簡単に折れてしまいます。

 特に今回のカトラリーは、形状をリアルに再現するため、板状に薄く削り出していきました。フォークは立体的な曲面が存在し、さらに先端に切れ込みを入れる必要があります。「とにかくパキッと折れないよう慎重に成形しました」とシロイさん。

 形が出来上がると、今度は仕上げの作業。金属でできた本物のカトラリーの光沢を表現するため、表面を滑らかに磨き上げていきます。シロイさんも「最も神経を使う」と語ってくれたように、かなり薄くなって折れやすい状態の表面を磨くんですから、力加減は本当に難しそうです。

 完成したナイフ、フォーク、スプーンは、これが鉛筆の芯とは思えないほどの仕上がり。磨き出した跡もヘアライン加工のような質感が出ています。幅が数ミリしかないんですから、まさに驚異の再現度。



 今回のカトラリーについて「燕三条の洋食器といえば世界的にも有名です。ですがそこに至るまでの道のりには様々な壁があったと思われます。その壁を1つずつ乗り越え、そして今なお世界に通用するものを作り続けているその職人魂をリスペクトして作りました」とシロイさん。

 このカトラリーシリーズ以外にも、チェーンを削り出したりエッフェル塔を作ったりと多彩な作品をSNSで発表しているシロイさん。今後挑戦してみたいモチーフをうかがうと「もっと精密な彫刻にチャレンジしてみたいですね。これは私の苦手分野なのですが、だからこそ習得したいと思っています」と、さらなる技量向上への取り組みを口にしていました。



 もちろん、シロイさんといえども作品制作の途中で芯が折れてしまうこともあります。

 それでも「折れることは誰にだってある。問題は折れた後にどうするかだ」とツイートし、制作中に鉛筆芯が折れて気持ちも折れながらも、諦めず進み続ける芯の強さを見せるシロイさんが、次にどんな作品を生み出すのか注目です。

<記事化協力>
鉛筆彫刻人シロイさん(@shiroi003)

(咲村珠樹)