カナダ空軍は2020年8月24日(現地時間)、2020年5月17日の墜落事故以来飛行停止となっていたアクロバットチーム「スノーバーズ」の使用機、CT-114チューターの運用再開を発表しました。事故原因についてはまだ調査中ですが、リスク低減措置のもと飛行が再開され、スノーバーズはようやく本拠地へ帰還することになります。

 2020年5月17日に起きた墜落事故は、新型コロナウイルスと最前線で戦う医療従事者を励ますため、カナダ全土を回るツアー中に発生しました。この日の朝、ブリティッシュコロンビア州カムループスの飛行場を離陸した「スノーバーズ」でしたが、そのうちの2番機(114161号機)が離陸直後に墜落。乗っていた2名は脱出に成功しましたが、パイロットは助かったものの、同乗していた広報官のジェニファー・ケイシー大尉が死亡しました。


 カナダ空軍はこの事故を受け、スノーバーズのツアーを中止。使用しているCT-114全機の飛行を停止しました。

 スノーバーズが使用しているCT-114練習機は1960年に初飛行し、1966年で製造が終了。カナダ空軍では1999年に練習機としての運用を終え、スノーバーズのみが継続して運用しています。

 スノーバーズのCT-114は2019年10月13日にも墜落事故を起こしており、半年あまりで2機が墜落したことをカナダ空軍は問題視。飛行安全局(DFS)の検証が終了するまでは、整備項目を増やし、飛行課目に制限を課して可能な限りのリスク低減を実施するとしています。

 2019年10月13日の墜落事故では、通常の手順通り背面飛行をして状態をチェックし、姿勢を元に戻したところエンジン推力が落ちて、飛行を維持できなくなったもの。パイロットは無事脱出したのですが、パラシュートに異常が発生して完全に開かず、軽傷を負っています。

 飛行安全局の最終報告によると、事故原因として有力なのはエンジン内の燃料供給システムの不具合(燃料漏れ)とのこと。また、パラシュートが完全に開かなかった原因としては、射出座席(マーティン=ベイカーMk.10)が作動する前にパラシュートを保持する部品が外れ、正常な動作を妨げた事が指摘されており、事故後に全機の点検が実施されています。

 カムループスで2020年5月17日に発生した事故について、カナダ空軍飛行安全局の中間報告では、事故前後の映像解析で鳥のような物体が右エンジンの空気取り入れ口に映っており、エンジンが鳥を吸い込んだ(バードストライク)ことが有力な事故原因であることが示唆されています。また、ケイシー大尉が死亡した原因である脱出システムの不具合についても、さらに詳しい分析を加えるとしています。

 スノーバーズの上級部隊、第2カナダ航空師団司令官のデニス・オライリー准将は「耐空性審査当局とその専門家チームは、徹底的なリスク分析を実施しました。私は彼らの判断と、提示された飛行再開に関する条件に全幅の信頼を置いています。この緩和策に沿って、CT-114の飛行を再開させます」との談話を発表しています。

 飛行再開決定により、事故以来カムループス飛行場に留め置かれたままとなっていたスノーバーズのCT-114は、本拠地のサスカチュワン州ムースジョー基地にようやく戻れることになりました。カナダ空軍によれば、今後2週間のうちにムースジョー基地へ帰還する見込みとのことです。

 スノーバーズ(第431飛行展示飛行隊)飛行隊長のデニス・バンデト中佐は、飛行停止解除を受け「私たちは今でも、ジェニファー・ケイシー大尉の死を悼んでいます。彼女の名誉のためにも、安全かつ慎重に運用を再開しなければなりません。2020年シーズンの飛行がすべてキャンセルされ、医療従事者を励ます『インスピレーション作戦』を完遂できなかったのは残念ですが、来年のエアショウシーズンに備え、訓練を再開するのを楽しみにしています」とのコメントを発表しました。

 現在カナダ空軍に残るCT-114は23機。うち18機は第431飛行展示飛行隊「スノーバーズ」にあり、残る5機はアルバータ州コールドレイク基地の航空宇宙工学研究施設で保管状態にあります。

<出典・引用>
カナダ空軍 ニュースリリース
カナダ空軍 2020年5月17日発生の墜落事故に関する中間報告
カナダ空軍 2019年10月13日発生の墜落事故に関する最終報告
Image:RCAF

(咲村珠樹)