NASAジェット推進研究所は2020年8月18日、日本時間の16日午前に、車と同じくらいの大きさを持つ小惑星が、これまでで最も地球の近くを通過していったと発表しました。地表までの距離は最短で3000km以内で、従来の記録の約半分。もう少し近ければ地球に落ちていた可能性があるといいます。

 この小惑星は、カリフォルニア工科大学パロマー天文台のロボット調査カメラが発見した「2020 QG」というもの。大きさは3~6m程度と推定されています。

 地球に接近する小惑星(地球近傍小惑星)のことをNEA(Near Earth Asteroid)と呼びますが、地球にぶつかる危険がないか常に監視の対象になっています。しかし2020 QGは、標準的な小惑星のサイズからすると非常に小さく、地球のすぐ近くに来て初めて存在が確認されました。

 2020 QGは地球からわずか2950kmの地点を、秒速12.3kmという地球脱出速度(秒速約11.2km)をわずかに上回る速さで、インド洋の南上空を通過していきました。これはGPS衛星の軌道高度(2万200km)よりはるかに近く、もう少し速度が遅ければ地球の引力に引き込まれていた可能性があります。

 これまで最も地球に近い軌道で通過した小惑星は、2011年にアリゾナ大学の全天サーベイ(カタリナ・スカイサーベイ)で発見された「2011 CQ1」。2020 QGの軌道から、さらに約2500km離れた場所だったといいますから、いかに2020 QGが近くを通過したかが分かります。

 ジェット推進研究所(JPL)で、これらの小惑星のような地球に接近する物体の観測と研究をしているCNEOS(Center for Near-Earth Object Studies)のディレクタ、ポール・チョダス氏は「2020 QGの接近は非常に興味深いものでした。小惑星が地球の引力により、その軌道をドラマチックに変える様子を観測できたんです」と語っています。

 各地の天文台による観測結果からJPLが計算したところ、2020 QGは地球に接近した後、地球の引力によって軌道の向きを45度変えたといいます。JAXAの小惑星探査機はやぶさや、金星探査機あかつきが対象の天体へ向かう際、地球の引力を利用して軌道の向きを変え加速する「スイングバイ」を実施しましたが、今回の小惑星も同じくスイングバイをしたような形になりました。

 アメリカ連邦議会は2005年、NASAに対し地球近傍にある約140m以上の大きさを持つ小惑星のうち9割を発見し、その動きを観測するよう求めました。しかし今回の2020 QGのように、自動車程度の大きさとなると発見は非常に困難だといいます。

 チョダス氏は「今回のように小さい小惑星の場合、大きさと同時に動きも速いため、接近するのを見つけるのは非常に困難です。望遠鏡で観測できるほどの明るさになるのは、平均で地球最接近の前後2日くらいしか余裕がありません」と、その発見の難しさを語ります。

 では、もし地球の引力に引き込まれ、今回のような小さな小惑星が落ちてきたらどうなるのでしょうか。それについてJPLは、この程度の大きさであれば大気圏でバラバラになってしまい、年に数回「火球」として観測されているとしています。

 ちょうど2020年7月2日未明に関東や東海地方で火球として観測され、千葉県習志野市や船橋市周辺に落下した隕石は、2020 QGと同程度の小惑星と考えられます。NASAの推計では、この程度の大きさを持つ小惑星は数億あり、多くは月の軌道より離れた場所を通過しているとのことです。

<出典・引用>
NASAジェット推進研究所 ニュースリリース
カリフォルニア工科大学 ニュースリリース
Image::NASA/JPL-Caltech/ZTF/Caltech Optical Observatories/MPC

(咲村珠樹)