グリコの濃厚おつまみスナック「クラッツ」の夏季限定商品「クラッツ<焼きもろこし>」発売を記念して、おうちで楽しめる「クラッツ大人のオンライン花火大会」が2020年8月14日に開催されました。花火大会が軒並み中止になり意気消沈していた、花火で卒論を書いたほどの花火好きライターが喜んで鑑賞してみました。

 今回の「クラッツ大人のオンライン花火大会」は、キリン一番搾りの醸造家が一番搾りに合うよう監修した、という夏季限定商品「クラッツ<焼きもろこし>」の発売を記念して開催されたもの。大抜卓人さん司会のもと、花火師の小幡知明さん(有限会社菊屋小幡花火店・代表取締役)、一般社団法人日本のはなび振興協会理事の石井孝子さんをゲストに迎え、近年実施された全国の花火大会からピックアップされた映像を鑑賞します。


 実は筆者、大学の卒論で花火(を使った民俗行事)をテーマにし、手筒花火の火の粉を被りながら実地調査をして書き上げた論文が優秀論文に選ばれた、という花火好き。内閣総理大臣賞が授与される日本2大競技花火大会の1つ、茨城県の土浦全国花火競技大会にも30年ほど通っています。

 ゲストの小幡さんは、群馬県高崎市にある菊屋小幡花火店の5代目。先代の小幡清英さんは1994年、初めて四重芯の菊物花火を成功させた人物として知られ、現代の名工にも選ばれた花火師でした。先代の急逝により31歳の若さで5代目となった小幡さん自身も2018年、大曲の花火(全国花火競技大会)で最優秀賞の内閣総理大臣賞を受賞し、史上初の親子2代で内閣総理大臣賞者という気鋭の花火師さんです。

 オンライン花火大会で紹介される花火映像は、小幡さんと石井さん、そして一般社団法人日本のはなび振興協会代表理事の齊木克司さん(株式会社齊木花火本店・代表取締役)の3名が、花火師目線での技術的な素晴らしさと、マニア目線での大会の素晴らしさの両方の基準で選んだものだといいます。まずは花火の鑑賞前に、ビールで乾杯。


 最初に紹介されたのは、2019年に開催された静岡県袋井市の「ふくろい遠州花火」。遠州地方は、徳川家康の鉄砲方たちにより古くから花火の伝統がある地域。1995年にそれまでの花火大会を衣替えして始まったこの大会は、原野谷川親水公園を会場に開催されており「全国花火名人選抜大会」のサブタイトルがつけられています。昼間の準備の様子から見られるのは貴重です。

 主な大会プログラムは、まずコンクールとして5号玉(直径15cm)4発で競われる「創作逸品花火」、8号玉(直径24cm)2発と2分以内のスターマイン(速射連発)で競われる「8号玉2発とスターマイン」。菊屋小幡花火店の創作逸品花火「桜花爛漫」と、齊木花火本店の創作逸品花火「レインボーローズ」が紹介されました。


 続いて磯谷煙火店(愛知県岡崎市)の磯谷尚孝さんと三州火工(愛知県幸田町)による、日本最大級のメロディースターマイン。そしてイケブン(静岡県藤枝市)と三州火工による全長200mという大規模な「空中ナイアガラ大富士瀑布」。これは単純に仕掛けを長くすればできるというものではなく、接続されたランスと呼ばれる小さい筒花火が切れ目なく着火し燃焼する高い加工技術が必要となる作品です。最後は、小幡さんの師匠にあたる紅屋青木煙火店(長野県長野市)の青木昭夫さんとイケブンによる、原野谷川の流れに沿った全幅300mのワイドスターマイン。



 次に紹介されたのは、2019年に開催された山梨県市川三郷町の「ふるさと夏祭り神明の花火」。江戸時代に3大花火大会に数えられた「神明の花火」の流れを組む、伝統の花火大会です。山梨の花火は、甲斐武田氏の「のろし」が源流にあるといいます。ここでは観覧席までの安全距離が十分取れるため、俗に「2尺玉」と呼ばれる20号玉(直径60cm)が上がることでも有名。


 地元の齊木花火本店と、分家筋にあたるマルゴーが手がけるスターマインは、その20号玉を惜しげもなく使う大迫力のもの。2万発以上の花火が上がる、山梨県最大の花火大会です。


 続いては、秋田県大仙市の大曲で開催されている「大曲の花火 全国花火競技大会」。2000年、土浦全国花火競技大会とともに最優秀賞に内閣総理大臣賞が授与されるようになった、日本でトップクラスの花火師が集う選抜大会です。

 選ばれたのは、小幡さんが史上初となる親子2代の総理大臣賞に輝いた2018年大会のもの。小幡さんの10号玉(尺玉)芯入り割物の部優勝作「昇曲導付四重芯変化菊」と、10号玉自由玉の部優勝作「里山の忘れ柿」が紹介されました。


 名物となっている特別プログラムのワイドスターマインですが、鑑賞に不向きな無風に近いコンディションだったため、花火の煙が流されずに滞留し、ちょっと見づらいものになってしまっていました。花火鑑賞に一番向いているのは、晴れていることはもちろんのこと、観覧席から見て左右方向に微風が吹いていると、前の花火による煙が流されて見やすく理想的です。

 若い花火大会だ、と石井孝子さんが紹介した福島県会津若松市の「会津花火」は2019年の第4回大会。ここの特徴は競技部門で、たくさんの小花が咲く小割物の一種「千輪玉」部門があることだ、と石井さん。

 この大会の8号玉自由玉部門では、小幡さんが「昇曲付八重芯錦先オレンジ銀乱」で第2位に入賞しています。またエンディング花火は、小幡さんの師匠である青木昭夫さんによるもの。


 クリスマスのイルミネーションと花火の共演、という「ISOGAI花火劇場in名古屋港」は、地元磯谷煙火店の磯谷尚孝さんによるミュージックスターマインが美しい大会。空気がクリアな冬ということもあり、花火の発色もきれいです。


 最後は小幡さんの地元、群馬県高崎市の「高崎HANABIコンクール」。若手花火師の育成を掲げた競技会で、全国の40歳以下の花火師が花火の打ち上げ技術や表現力を競います。小幡さんは40歳を過ぎてしまったので、2020年2月1日に開催された大会では全国の花火師で作る業界団体、公益社団法人 日本煙火協会青年部委員長として審査する側に回っています。

 コンクールの出品作は小幡さんによると、日本古来の黒色火薬だけによる花火「和火」を使用した作品が多かったとのこと。若手が現在の鮮やかな色彩表現から、あらためて原点回帰する取り組みを示しているように思えました。

 和火は黒色火薬に含まれる木炭による発色になるため、様々な金属の炎色反応を利用した現代の花火(洋火)に比べて明るくないのが特徴。そのせいか、とても風情のある作品揃いだったように思います。優勝は秋田県大仙市の大曲にある北日本花火興業の5代目、今野貴文さんによる「夜空に煌く生命の曼陀羅」。

 土浦全国花火競技大会の創作花火部門では、貴文さんのお父さんである当代の今野義和さんによるユニークな作品を毎年出品し「型物花火の雄」として知られる北日本花火興業ですが、しっかりとした花火づくりの技術あってこそだというのが分かります。エンディング花火は、地元菊屋小幡花火店の小幡さんによるものでした。

 全部で6つの花火大会から選りすぐられた花火、それを一気に見られるというのは贅沢なイベント。そして見ていると体に感じる花火の振動や、風に乗って流れてくる火薬の匂いを味わいたくなってしまいました。今回紹介された花火大会に行ってみたくなる意味でも、ユニークなものだったといえるでしょう。

取材協力:江崎グリコ株式会社

(取材・撮影:咲村珠樹)