私事で恐縮ですが、実は私、趣味が旅行なんです。旅の醍醐味のひとつと考えているのが、旅先で見かける様々な地方の名産品に直接手を触れられるということ。

その地方特有の地域背景や、産業構造によってもたらされたそれらの銘品たちは、正に日本が世界に誇る文化のひとつ。ただそういった銘品たちは、一部は高い知名度を誇るものの、その大半はさほど知れ渡っていないのが現状。私もこういったものがもっと日の目を浴びる機会があれば……と行く先々で感じてしまいます。

そうした現状を打破しようと立ち上がったのが、大阪府にあるデザインプロデュース会社「CEMENT PRODUCE DESIGN(セメントプロデュースデザイン)」(以下セメント社)を経営している金谷勉さん(以下金谷さん)。

金谷さん率いるセメント社では、“日本の中小企業の再生と向上を促進する”をテーマに、日本各地の地方の中小企業とタッグを組み、企画・デザインから製造や営業販売までを一気通貫で執り行っており、そこで生み出された個性豊かな商品が、近年様々なメディア媒体にも取り上げられた注目の企業です。

その中で、金谷さんはセメント社の経営はもちろんのこと、“社内インフルエンサー”としてご自身のTwitterにて実際にプロデュースした商品を日々紹介。先日も、福井県あわら市にあるリボン製造加工販売会社「矢地繊維工業株式会社」(以下矢地社)と共同で開発したとある商品の紹介ツイートが話題となりました。

「日本のリボンの90%の生産地は福井県あわら市。普段はほどけば捨てられてしまう脇役な素材ですがレーザー加工機を活かして主役になれる存在へ生まれ変わりました。しおりとして使って頂くだけじゃなく夏アイテムにも色々アレンジして頂ければと」

そうつぶやきながら紹介した商品は、ラッピングなどで使用するリボンを栞(しおり)の形状でデザインした“シオリボン”。本の栞だけでなく、帽子やカバンのコーデ品としてや、インテリアグッズとしても活用できる従来イメージと覆す印象を持たせるリボンです。

金谷さんのツイートにもあるように、実は福井県あわら市は、日本のリボン生産の中で実に9割を製造しており街の一大産業。ただリボンというのは、普段の生活の中でも手に取る機会は比較的多いものの、どちらかというと副資材に分類されるものであまりスポットライトを浴びません。

実は私も数年前に偶然あわら市に宿泊したことがあったのですが、あわら市は日本百景にも選ばれている名湯「芦原温泉」があり、日本屈指の温泉街として大変に有名なのですが、お恥ずかしながらリボン産業のことは存じ上げませんでした。

今回製造を担当した矢地社とセメント社は、数年前に東京ギフトショーにて開催されたビジネスマッチングで知り合ったのがきっかけだったそう。そこで担当者から相談を受ける中で、矢地社の持つ1000万円以上もするレーザー加工機を用いた製造技術に注目し、それをあわら市の基幹産業であるリボンに生かして何か商品化しようと企画されたそうです。

実際に金谷さんから直接お話を聞いていく中で、地方メーカーと共同でプロジェクトを動かしていくためにはひとつ大きな課題があると仰いました。

「地方の製造業は作るまでは良いんですが、その後どうするかということを悩まれている方が多い。一方デザイン会社側も、実際に企画デザインした商品をどうやって商流に乗せてどう流通展開するかまでは示せていないんです。日本各地で製造業とデザイン業の共同プロジェクトがなかなか上手くいっていないのは、そこがマッチングできていないことが原因のひとつかなと考えています」

そう語る金谷さん率いるセメント社ですが、先述した通り実際にメーカー側とタッグを組む際には、企画・デザインから販売までをプロデュースしているのですが、その工程数は数十工程に渡って実施しているとのこと。

この工程を10年近くかけて体現化していったことで、「我々って初対面では怪しまれるんですよ(笑)」と冗談めかして仰るセメント社のデザインプロデュース事業の信頼性を勝ち得てきたそうで、1999年の会社設立からこれまで500社以上の商品づくりに携わったとのことです。

 実は取材の後に、金谷さんが出演したというとある経済番組を紹介いただき、内容を拝見したのですが、金谷さんがクライアントになるメーカーに直接足を運びながら、各メーカーの持つ強みを分析した上で、デザイン性を重視しつつも「いかに売れる商品を作るか」ということに焦点を当てて様々な商品を提案する様子が紹介されていました。

 そんな金谷さんですが、折しものコロナ禍では大きな影響を受け、東京都墨田区にあるセメント社のセレクトショップ「コトモノミチ at TOKYO」も休業せざるを得なくなり、とある新しい試みを始めたとのこと。(現在は営業再開)

 「自分のSNSで積極的に情報発信していくことにしたんです。メーカーさんも売る機会がどんどん減っていく中で、何とか売る機会を提供できればということで、EC(通販)サイトを強化していこうという方針になりました。試験的にやっている面もあるんですが、今後相談を受けた際にアドバイスができるだろうなとも思いまして」

 「歯磨き前に流すのが毎日のルーティーンです(笑)」と語られる金谷さんですが、積極運用に切り替えてからは実際にフォロワー数も3000人近く増加したそう。

 また売上にも好影響を与えているとのことで、今回のシオリボンに関しても発売開始から数年以上経過しており、取り立てて人気商品でもなかったそうなんですが、先日のツイートで新たに購入された方が多数いらっしゃったそうです。実際に先日の金谷さんが発せられたツイートには、1万を超えるいいねがあったと同時に、実際に購入された方が様々な用途で使用されている投稿もされており、従来とは違う購買層を獲得できていると体感されているとのこと。シオリボン以外にも“SNS効果”で売上に好影響を受けた商品があるそうです。

 今回の反響に関しては、「シオリボン」という商品の持つポテンシャルが発揮されたことも要因ではありますが、同時にこれを販売展開しているセメント社の代表である金谷さんご自身が紹介したことによる言葉の力も大きかったように感じます。

 このコロナ禍に関しても、逆にオンラインだからこそのイベントを考えているという金谷さん。

 「親方が一番頑張らないとアカンですからね」と仰る金谷さん率いるセメントプロデュースデザイン社のこれからの取り組みにも注目していきたいですね。

<記事化協力>
金谷勉さん(@cementblue)
CEMENT PRODUCE DESIGNさん(Twitter:@cement__design/HP:cementdesign.com

(向山純平)