皆さんがよく使う顔文字で、敬礼を示す「(`・ω・´)ゞ」や「( ̄^ ̄)ゞ」。実はこれ、専門家からすると正確なものではないんだそうです。自衛隊と一般社会をつなぐ、愛媛県の地方協力本部公式Twitterが投稿した「正しい敬礼」の顔文字が反響を呼んでいます。

■実は逆の手だった「敬礼」の顔文字

 私たちが普段使っている敬礼の顔文字は、敬礼する手を「ゞ」という、平仮名の重ね字(踊り字)記号を使っています。たとえば「いすゞ自動車」の社名に使われているように、2文字目のひらがなが濁音で表記される場合に使われるもの。

 顔文字にした場合、この「ゞ」という記号は顔の左側にあると、ちょうど腕を曲げているように見えるため、敬礼をしているように感じます。つまり「左手で敬礼(挙手の敬礼)」している姿になるのですが、実際の敬礼は「礼式」という規則で定められていて、挙手の敬礼の場合「右手」を使うことが定められているのです。

 そのことに気づいた自衛隊愛媛地方協力本部公式Twitter。さっそく「【お詫び】これまでコメントなどで、敬礼を表現する時に、『(*`∪´*)ゞ』を使っていました これは左手による敬礼となり、正しい敬礼ではありません 自衛隊を広報する立場として、お詫びさせていただきます 真摯に反省致しまして、これからは『∠(`・ω・´)』を使用させていただきます」とお詫びのツイートをしました。

 これには、自衛隊宮崎地方協力本部公式Twitterも「私も気をつけます<(`・ω・´)」と反応。正しい挙手の敬礼を顔文字にして使っていくと表明しています。

■自衛隊での「正しい敬礼」方法

 さて、この敬礼については自衛隊の場合、自衛隊施行規則(昭和29年総理府令第40号)の第11条、第12条第2項および第13条から第15条までの規定に基づき、1964年5月8日に定められた「自衛隊の礼式に関する訓令」によって、どのように実施するかが定められています。

 実際の敬礼の動作については、第10条に7種類の敬礼に関するものが定められています。銃を持っている際に実施する「着剣捧げ銃の敬礼および捧げ銃の敬礼」と「銃礼」に関しては、銃のどの部分を持つのか、そしてどれくらい体から離すのか、細かい規定があります。

 銃を持たない場合の敬礼は、帽子やヘルメットを着用している場合の「挙手の敬礼」、そして帽子を着用している場合、着用していない場合の双方で使われる「姿勢を正す敬礼」、帽子を着用していない場合の「10度の敬礼」「45度の敬礼」、隊全体で敬礼する場合に使われる「頭右(左、中)の敬礼」における方法が定められています。10度と45度の敬礼は、いわゆる「お辞儀」の角度です。


 顔文字でも使われ、一般的に「敬礼」といった場合に思い浮かべやすい「挙手の敬礼」については、このように定められています。

 右手をあげ手のひらを左下方に向け、人さし指を帽のひさしの右斜め前部に当てて行なう。

 実はひじの張り具合や、手の角度については定められておらず、人により、また場所によってアレンジが加えられています。たとえば、幅が狭い廊下で敬礼する機会が多い海上自衛隊の護衛艦や潜水艦の場合、ひじを横に張るとぶつかってしまうので、ひじをたたんで手の角度もかなり縦になりがち。

 海上自衛隊でも艦船勤務ではない人の場合、ひじを横に張った敬礼をすることも。この傾向は海外でも同じで、狭いコクピットで敬礼するパイロットと、そうではない整備員との間で敬礼の角度が違っていたりします。

■自衛隊より細かい!警察と消防の敬礼

 自衛隊以外ではどうかというと、警察の場合は「警察礼式(昭和29年国家公安委員会規則第13号)」で方法が規定されています。警察官は室内では脱帽することが求められるので、いわゆる「挙手の敬礼」は室外で実施する敬礼です。

 警察では挙手の敬礼を「挙手注目の敬礼」と呼んでおり、その方法を定めた第21条には次のように書かれています。

挙手注目の敬礼は、受礼者に向かつて姿勢を正し、右手を上げ、指を接して伸ばし、ひとさし指と中指とを帽子の前ひさしの右端(制帽を着用している婦人警察官にあつては、つばの前部の右端)に当て、たなごころを少し外方に向け、ひじを肩の方向にほぼその高さに上げ、受礼者に注目して行う。

 自衛隊に比べると、ひじや手のひら(たなごころ)の角度や帽子に当てる指の数など、やたらと細かく規定されていることが分かります。手のひらが見えるよう、少し外側に向けるのもポイントですね。

 消防隊の場合は、消防組織法(昭和22年法律第226号)第14条の4第2項(現行=第16条第2項)および第15条の6第2項(現行=第23条第2項)の規定に基づいて定められた「消防訓練礼式の基準(昭和40年7月31日消防庁告示第1号/改正:昭和63年12月消防庁告示第5号、第6号)」に、敬礼の方法が規定されています。

 消防隊における敬礼の動作は、第143条に次のような形で書かれています。

 挙手注目の敬礼は、受礼者に向つて姿勢を正し、右手をあげ、指を接してのばし、ひとさし指と中指とを帽子の前ひさしの右端にあて、手のひらを少し外方に向け、ひじを肩の方向にほぼその高さにあげ、受礼者に注目して行なう。

 送り仮名や表現に違いはありますが、基本的に消防と警察は同じ形で挙手の敬礼(挙手注目の敬礼)をしていることが分かります。ひじの高さや手のひらを少し外に向けるなど、自衛隊に比べると細かいですね。

 挙手の敬礼は元来、武器を扱う右手に武器を持っていない(相手を傷つける意思はない)ことを示すために生まれたもの。このため右手を開いて実施するものとなっています。

 イギリスなどでは、開いた上で手のひらを相手に向け、より明確に「何も持っていない」と見せる場合も。生まれた背景を考えると、顔文字も右手の「∠」や「<」の記号を使った方がいいのかもしれませんが、特に規定に従わなくていい一般人は、これまで通り「ゞ」を使っても問題なさそうです。

<出典・引用>
自衛隊愛媛地方協力本部公式Twitter(@ehime_pco)
自衛隊宮崎地方協力本部公式Twitter(@miyazaki_pco)
ブルーエンジェルズの敬礼写真:U.S.Navy
イギリス陸軍の敬礼写真:Crown Copyright

<参考>
自衛隊の礼式に関する訓令(防衛省)
警察礼式(e-Gov)
消防訓練礼式の基準(総務省消防庁)

(咲村珠樹)