華やかな色の糸で布のキャンバスに様々な絵や模様を描いていく、刺繍。その歴史は古くからありますが、刺繍=平面の生地に織りなす、という今までの概念をひっくり返すような可愛い立体作品を作っている人がいます。

 「刺繍造形作家」を名乗るあらいあさみさんは、刺繍でパーツを作り、それぞれのパーツを組み合わせて立体的な刺繍作品を作っています。つまり、あらいさんが取り組んでいるのは立体的な3Dな刺繍作品。しかも可愛い。

 現在、夏に向けて主に金魚の立体刺繍作品を作っているといいます。ハンドクラフト界隈でも注目の的となっており、「この模様が刺繍で全部できているとは」とびっくりする人が多数。あらいさんのツイッターに投稿された金魚たちは、赤い金魚や出目金、黒い金魚など、可愛らしい金魚たちがズラリ。

 手のひらにちょこんと乗るサイズの金魚たちは、うろこの模様からヒレの色合いまですべて手縫いの刺繍で描かれています。どうやったらこんな素敵な作品ができるの……?猫も思わずびっくりしそう。

 そこで、あらいさんに立体刺繍について色々とお話を伺ってみました。

 あらいさんは大学で舞台美術を専攻、舞台セットはいくつものパネルを繋げて立体に組み立てて、一つの塊にしている事を学んできていました。ワイヤーを用いて花弁や葉を平面的に縫い、それらを集めて一輪の花にする立体的な刺繍の技法である「スタンプワーク」も舞台セットの作り方と共通するところがある事から、「(この技法を)応用すれば、より『造形』と言えるレベルのものを刺繍で作れるのでは…?と思い、挑戦してみました」と、立体刺繍を作り始めるに至った経緯を教えてくださいました。

 ではどのようにして作っているかというと……。枠に張った布に型紙から形を写す→輪郭にワイヤーを沿わせて糸で固定する→ワイヤーを跨ぐように刺繍する→輪郭に沿って布を切り分けていくといった具合。こうしてできた各パーツを、ワイヤーで形を整えながら糸で繋いでいき、全体の形を整えて完成となるそう。

 一つの金魚を完成させるには全部で12個のパーツを手縫いで作り、接着剤を使わずに組み上げていきます。「製作時間は、いつも数匹並行して作るので厳密には言えませんが、パーツ作りに3日、組み立てるのに2日……といったところでしょうか。その時の自分のコンディションにだいぶ左右されてしまいます」との事。さらに、ヒレの部分などは裏表なくキレイに見せるための刺繍をしていくのでそこが一苦労なのだとか。細かい作業が中心となるので、集中力を保つのも大変なのでは、と思ってしまいます。

 現在は夏の風物詩ともいえる金魚を量産中というあらいさん。作品は神奈川県のハイカラ雑貨店ナツメヒロさんのお店に納品したり、不定期でハンドメイド販売サイトのCreemaにて販売をしているのだそう。

 暑い夏も、窓辺にこんな金魚たちがいたら、何となく涼しげな感じになるかもしれませんね。

<記事化協力>
あらいあさみ/刺繍造形作家さん(@_utura_utura_)

(梓川みいな)