JAXAの国際宇宙ステーション補給船「こうのとり」の最終便となる9号機(HTV-9)が、2020年5月20日深夜(21日2時31分)に打ち上げられます。日本の実験モジュール「きぼう」を番組スタジオにする関連機器のほか、搭載される機器をご紹介します。

 H-IIBロケットに搭載されて打ち上げられるHTV「こうのとり」は、現在国際宇宙ステーションに大型の実験機材を輸送できる唯一の補給船です。当初は7機の打ち上げ計画でしたが、国際宇宙ステーションの利用期間延長にともない、3機の打ち上げが追加。最後の1機は、H3ロケットを使用するより大型の次世代型補給船「HTV-X」に変更されたため、今回の9号機が「こうのとり」としては最後のフライトとなります。

 最終便となる9号機には、滞在する宇宙飛行士の生活を支える生鮮食料品や生活用品のほか、国際宇宙ステーション用の新型リチウムイオン電池(ジーエス・ユアサ テクノロジー製)が搭載されます。新型リチウムイオン電池は4回に分けて運ばれることになっており、これまでに「こうのとり」6号機〜8号機で打ち上げられ、今回で全てのバッテリが従来のニッケル水素電池から、日本製の高性能なリチウムイオン電池に更新されることになります。

 実験機器では、生命科学実験で使用されるJAXAの新しい共焦点レーザー顕微鏡(Confocal Space Microscope)が搭載されます。より高精細で鮮やかな像が得られるとともに、異なる位置にピントを合わせて撮影された複数の画像を組み合わせ、より深い被写界深度の画像が撮影可能。現在の高機能なスマホカメラにも、同じような機能が搭載されています。

 また、ドイツ航空宇宙センター(DLR)とエアバスが開発したFLUMIAS-DEAは、小型の蛍光顕微鏡。比較対象となる死んだ細胞と生体細胞、2つの異なるサンプルを同時に観察することができ、生命科学分野におけるサンプルの経過観察をより高いレベルに引き上げることが期待されています。


 スペインとアメリカに拠点を置く宇宙ベンチャー企業のサトランティス(SATLANTIS)が開発したiSIM-170(integrated Standard Imager for Microsatellites)は、地表にある1mの大きさも物体まで識別可能な高精細な地表観測用小型双眼カメラ(イメージャ)。低軌道を周回する、将来の超小型衛星ビジネスで使われることを想定しています。

 日本の宇宙メディアビジネスでは、JAXAと民間企業が連携した2つの事業に関する物資が搭載されています。1つは、株式会社バスキュールとスカパーJSAT株式会社による、日本の実験モジュール「きぼう」を番組スタジオにした双方向放送「KIBO宇宙放送局」。そしてANAグループのavetarin株式会社による、国際宇宙ステーションでのアバター利用を実証する「space avatar」です。

 KIBO宇宙放送局では、俳優の中村倫也さんと菅田将暉さんをメインクルーに、2020年夏から「きぼう」を番組スタジオにした双方向番組を配信・放送。2021年には「きぼう」外部に高精細カメラを設置した生中継や、2022年以降を目標に新たな通信システムを構築しての超高画質のライブ放送・配信を予定しています。

 ANAグループのavatarin株式会社による「space avatar」は、地球にいる一般の人が「きぼう」に設置される宇宙アバターをリアルタイムで直接動かし、宇宙や地球を眺めることを可能にする「AVATAR X」プログラムの第1弾。地上の特設会場からアバターを自由に操作し、あたかも自分が宇宙にいるような体験を提供するイベントを開催するとしています。将来的には、月面へのアバター設置も計画されているとか。

 打ち上げは5月21日(20日深夜)2時31分00秒の予定。JAXAのYouTube公式チャンネルでは、20日の深夜2時よりH-IIBロケット打ち上げライブ配信を実施するほか、NASAでも「NASA TV」で打ち上げの様子を生中継することになっています。

<出典・引用>
三菱重工 プレスリリース
NASA ニュースリリース
ドイツ航空宇宙センター「FLUMIAS」プロジェクトページ
ANAホールディングス/avatarin/JAXA プレスリリース
GSユアサ プレスリリース
SATLANTIS ニュースリリース
Image:JAXA/NASA/DLR/SATLANTIS

(咲村珠樹)