コロナ危機で個人経営の店舗や中小企業などは今や絶体絶命の状態。休業を余儀なくされ、補償もいつ出るのかまだはっきりしない中、日銭のない状態が続く現状で廃業に追い込まれてしまうところも出始めています。そんな中、ツイッターでの繋がりが店舗の危機を救う秘策を打ち出しています。

■ きっかけは異業種コラボ

 お気に入りのお店のノベルティグッズって、あれば欲しがる人は多いはず。そこにまず目を向けたのは、丸越アピタ名古屋南店(愛知県名古屋市)の店長(通称:メイナン店長)。お漬物の丸越の店内テナントを経営する傍ら、ツイッターを介して様々な業種・企業のアカウントとも広く交流しながら、独自イベントも打ち出しています。

 例えばメイナン店長は数年前に、シルクスクリーン印刷を自作する方法を習得。自作ノベルティグッズをプレゼントするなどしてさらにファンを獲得しています。実はこれらのノベルティグッズが誕生したのは、ほぼメイナン店長の趣味が高じてアクティブに動いた結果の産物。

 さらに車好きという趣味ももっていました。現在はアルトターボRSのオーナー。しかし、アルトのノベルティグッズというものはほぼ現存していない状態、しかもRSは皆無だったのです。

 そんなときに、熊本の道をアルトで走りまわり、地元のお店などを紹介していく熊本復興のための漫画「今日D」こと「今日どこさん行くと?」(KADOKAWA)に出会ったメイナン店長。アルトを乗り回す姿に心惹かれた事で、作者の鹿子木灯さんにツイッター上でコラボを直談判。これがきっかけとなり、鹿子木さん作画でメイナン店長がグッズを作る出来事に発展したのが2019年の出来事でした。

■ コラボから生まれた支援の輪

 2019年のコラボも無事済み、年が明けた2020年。しばらくして、世界各地で新型コロナウイルス感染症が流行しだしました。感染拡大防止のために首都封鎖をする国や、企業においては通勤から在宅ワークへと切り替えるところも。日本も同じくで、首都封鎖までは行われない物の、3月からは外出自粛や店舗の営業自粛が当たり前となっていったのです。

 この影響をもろにうけたのが個人商店。個人で経営している飲食店は特に厳しい立場におかれました。営業したくても感染の恐怖と隣り合わせ、かといってしなければ売り上げはたたない。でも営業したところで、外出自粛により客足はまばら……。

 鹿子木さんの耳にも、これまで取材で訪れた飲食店からの切実な声が届くようになりました。そこで「何とかしたい」と考えた鹿子木さん。「このお店は残って欲しい!」という鹿子木さんの強い気持ちは、メイナン店長のノウハウとクロス。

 さらに、同じくツイッターで繋がった、看板やネオンサインなどを制作している「サンコーネオンひだか」(熊本県熊本市)のわかだんさんも仲間に加わります。実はメイナン店長から自作シルクスクリーンのノウハウを伝授され、鹿子木さん作画のシルクスクリーングッズ作りに以前から参加していたのでした。

■ 近所の人から北海道のファンまでもが参加を表明

 鹿子木さん作品にゆかりのある熊本県熊本市内の飲食店、「食処 花樹」さんと「BARてれすこ」さんでは、それぞれ3月の売り上げは前年比約6割減。4月はさらに低い売り上げが予想され窮地に立たされていました。

 そこで鹿子木さんら協力により、「鹿子木さん作画のドリンククーポン・食事クーポン」を販売することになりました。購入特典は、わかだんさんが生産を担当した「鹿子木さんとメイナン店長コラボのノベルティグッズ」。つまり、飲食分を先払いすることで、お店のピンチを救おうという試み。

 購入者にとっては飲食分を先払いするだけでノベルティグッズが貰える嬉しい仕組み。作品ファンなら一層嬉しいことでしょう。そしてお店にとっては、先払いで現金を得られることで一定の収入が確保できます。

 「食処 花樹」「BARてれすこ」それぞれが、お店のツイッターを通じて試験的に30部分の購入者をDMで募集してみました。するとツイートからわずか4時間ほどで完売。慌てて増産するに至ったと言います。

 近所の方が購入したのをはじめ、店舗アカウントのフォロワーからも「お店の生存戦略のために協力させてください!」「県外からですが買います」といったエールが届き、さらには北海道在住の鹿子木さんファンからも「購入しましたー!」の声が届いたのでした。

■ 「聖地」への応援購入

 アニメ・マンガファンにはもはやお馴染みとなっている「聖地巡礼」。好きなアニメや漫画の舞台となった場所(=聖地)へ実際に足を運び、同じ景色を堪能する「聖地巡礼」は作品のファンであれば、一度は訪れたいと思わせる場所を巡る旅を指します。鹿子木さんの「今日どこさん行くと?」の中で登場したこの2店舗は、作品ファンにとっての聖地のひとつ。

 ポストカード型のドリンククーポンや食事クーポンは使用期限を無期限に設定しており、近隣の利用者はもちろん、遠方からの観光や聖地巡礼客にも対応。オリジナルのイラストの裏面にあるクーポン利用枠にスタンプを押してもらう事で、1回分の金額を消費する形。額面通りの値段にオリジナルグッズが付くという付加価値は、ファンにとっては額面以上の価値を感じる事ができます。

 このクーポン式ポストカードなら、聖地巡礼の旅の記念に取っておく事ができ、そのまま飾っておく事もできます。今回のコロナ危機が落ち着いたらこのお店には必ず行く!という意識も芽生え、遠征の足掛かりにもなります。

 また、「グッズ&クーポンを買って聖地を守りたい」というファン心理は、そのままクーポンを使わなくても募金という形でお店の売り上げに貢献します。お店側としては、できれば直接遠方から訪ねてくれる事自体が何よりも嬉しく、励みにないますが、「応援購入」であっても直接的なお店の支援に繋がるわけなので、これはこれでとても助けになるのです。

■ 聖地を守りたい漫画家とファン、そしてツイッターがつなげた縁

 グッズとクーポンを使ったお店の応援は、ファン層がはっきりしている事、確実にファン層に届く事を狙っているところが大きなポイント。商業誌での連載を持っているのであれば、権利関係さえクリアできれば自キャラと応援したいお店のタイアップ企画が実現できます。

 同人サークルをやっていた漫画家なら、グッズ制作のノウハウを持っている人も多いかもしれませんし、グッズが付く事で生まれる付加価値の高さもピンとくるかもしれません。今回はツイッターで繋がった一例をご紹介しましたが、ある程度ファンが付いている漫画家さんであれば、こうした支援策も可能であるという事を知っておいてもらえると、自分が守りたいお店を守ることができるかもしれませんよ。

<記事化協力>
丸越アピタ名古屋南店(公式清純派ヨゴレアカ)さん(@054758373)
鹿子木灯さん(@ima_tomoasa)
わかだん:サンコーネオンひだか 公式さん(@Ohisama_coffee)
花樹のHANAさん(@hanaki_k)
BARてれすこさん(@bartelesco)

(梓川みいな)