様々なものが収蔵されている博物館。しかし、その全てが展示公開されている訳ではありません。イギリスの博物館の呼びかけで、世界中で外出自粛に協力して休館中の博物館がレアな収蔵品をTwitterで公開する「キュレーターバトル(#CURATORBATTLE)」が始まり話題となっています。

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、各国で不要不急の外出が制限され、それにともない博物館や美術館も休館しています。せっかく企画されていた様々な特別展や企画展示もできなくなっており、企画の実現に奔走していたキュレーターは残念に思っていることでしょう。

 しかし休館中でも、自宅で収蔵品を鑑賞できるオンライン展示会を実施する取り組みも広がっています。イギリスのヨークにある博物館「ヨークシャーミュージアム」が、Twitterを通じて各国の博物館・美術館に対し、レアな収蔵品の画像を見せ合いましょう!という「キュレーターバトル(#CURATORBATTLE)」を提案するツイートを2020年4月17日に投稿しました。

 設定されたテーマは「#Creeoiestobject(一番ゾッとするようなもの)」。手始めにヨークシャーミュージアム(@YorkshireMuseum)が出してきたのは、3~4世紀のローマ時代に埋葬された女性についていたウィッグ。留めるためのピンまで残っています。

 これにまず反応したのは、イギリス各地にある博物館や美術館の公式アカウント。リーズにある医学史をテーマとするサックレー医学博物館(@thackraymuseum)は、かつて助産師や医学生が分娩実習に使用したという人形(ぬいぐるみ)を投稿。通常分娩の際は、出てくる赤ちゃんの頭をうまく回し、肩の部分をスムーズに通過させる必要があるので、ちょうど首の部分が経年変化で損傷し、すごくダメな外見になってしまっています。

 ヨーク城博物館(@YorkCastle)は、カニの脚と爪で作られた人形を投稿。この種の人形はビクトリア朝(ビクトリア女王が在位した1837年~1901年)に典型的な工芸品なんだそうですよ。

 ロンドン郊外にある町エガムのエガム博物館(@EghamMuseum)は、とある中学校の校庭から出土したという、1920年代の粉々になった陶器人形の頭。誰かが壊してしまい、証拠隠滅で校庭に埋めたんでしょうか……。しかも丁寧に包まれてあって、これを何の気なしに開けたらビックリしますよね。

 スコットランド自然史博物館(@NatSciNMS)は、魚の剥製などで作られた「人魚のミイラ」を2種類投稿。やけにチャチな姿が笑いを誘います。

 スコットランド自然史博物館は「たぶん、多くの博物館が収蔵してる人魚のミイラは、こんな奴だと思うんだけど……」と、日本にもいくつか例のある典型的な人魚のミイラも投稿。こちらのミイラは下半身は太平洋に生息するベラの仲間、上半身は完全な作り物で、口の部分に歯のある魚の口を埋め込んであるとのことです。

 王立戦争博物館(@I_W_M)は「ティルピッツ」という名の豚の剥製の画像を投稿。第一次世界大戦中の1915年、イギリス巡洋艦グラスゴーらの攻撃を受けて沈んだドイツ巡洋艦ドレスデンから救い出された豚で、当時ドイツの海軍大臣を務めていたアルフレート・フォン・ティルピッツ提督から命名されました。巡洋艦グラスゴーで1年間マスコットとして過ごしたのち、イギリスのホエールアイランド砲術学校で余生を過ごしていたのですが、1919年にイギリス赤十字のチャリティーオークションで食肉にされてしまったのです……。

 また、王立甲冑博物館(@Royal_Armouries)は、ロンドン塔に展示されているという、処刑人が着用した鉄仮面を投稿。嘲笑するように歪んだ笑みを浮かべた口の作りから、魔女裁判での処刑に使われたものではないか、と考えられているようです。

 イングランド、ヨークにある1740年代築の商館を博物館にしたフェアファックス・ハウス(@fairfax_house)は、スコットランドのセントアンドリュース大学博物館(@MuseumsUniStA)から展示のために借用したことがある、というイギリス王ジョージ4世(在位:1820年~1830年)愛用の「嗅ぎタバコ入れ」の画像をツイート。なんでもこれは嗅ぎタバコではなく、中には愛人の体毛が入っていたそうで、その匂いを楽しむものなんだそうです。「イングランド一のジェントルマン」と称されたジョージ4世ですが、キャロライン王妃とは不仲で、互いに多数の愛人がいたそうです。

 この「ゾッとするようなもの選手権」、海外の博物館からも参戦があります。 アメリカ国立公文書館(@USNatArchives)は、ヨークシャー・ミュージアムが髪に関する収蔵品を出したのに対抗し、ジョン・F・ケネディ図書館(@FDRLibrary)に対し「みんなが大好きな髪でできた花束を見せる番だよ!」とツイート。

 ご指名を受けたジョン・F・ケネディ図書館は、1941年にフランクリン・D・ルーズベルト大統領へ贈られたという、ルーズベルト家の先祖の髪で作られた花束の画像を投稿しました。これはルーズベルト家に受け継がれていたものなんだとか。

 ベルリンにあるドイツ歴史博物館(@DHMBerlin)は、1650年代~1750年代にたびたび発生したペストの大流行において、治療する医師が着用した防護マスクを投稿。17世紀フランスの医師ハルム・ド・ロルムが考案したというマスクのクチバシは、この中に香料を入れておき、ペスト患者から漂う悪い空気(瘴気)から身を守るもの。

 今回のテーマは「ゾッとするようなもの」でしたが、このキュレーターバトルは毎週金曜日(現地時間)にテーマがヨークシャーミュージアム公式アカウント(@YorkshireMuseum)から告知されることになっており、過去には「一番美しいもの」や、イースターにちなんだ「最高の卵を探そう」といったテーマも設定されています。時差の関係で、日本では土曜日に各地の博物館から投稿されたものが見られることになるので、週末の楽しみにするといいかもしれません。

<出典・引用>
ヨークシャーミュージアム公式Twitter(@YorkshireMuseum)
サックレー医学博物館公式Twitter(@thackraymuseum)
ヨーク城博物館公式Twitter(@YorkCastle)
エガム博物館公式Twitter(@EghamMuseum)
スコットランド自然史博物館公式Twitter(@NatSciNMS)
王立戦争博物館公式Twitter(@I_W_M)
王立甲冑博物館公式Twitter(@Royal_Armouries)
フェアファックス・ハウス公式Twitter(@fairfax_house)
アメリカ国立公文書館公式Twitter(@USNatArchives)
ジョン・F・ケネディ図書館公式Twitter(@FDRLibrary)
ドイツ歴史博物館公式Twitter(@DHMBerlin)
※見出し画像はヨークシャーミュージアム公式Twitter(@YorkshireMuseum)のスクリーンショットです。

(咲村珠樹)