新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年3月17日から市民に対して原則自宅待機の措置を開始したフランス。国家の非常事態に、フランス軍は持てる能力をフルに活用して、新型コロナウイルス感染症との戦いに協力しています。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、フランスのマクロン大統領は3月17日より、領土全体において市民の外出を原則禁止する措置を開始しました。この状況は最低15日間とされていますが、状況に応じて延長することも示唆されています。

 このような非常事態に際し、パルリ軍事大臣は現場の医療体制を崩壊させないよう、その能力を活用して支援活動を始めるよう軍に指示しました。具体的には、収容者数が限界を迎えつつある病院や、医療体制の整っていない地域から、まだ余力のある地域の病院への患者の移送、病棟に収容しきれない患者の受け入れ、そして契約企業への経済的支援などです。

 フランス空軍では、空中給油・輸送機フェニックス(エアバスA330MRTT)のキャビンを患者搬送仕様である「MORPHEE(MOdule de Reanimation pour Patient a Haute Eelongation d’Evacuation=高伸長患者搬送用蘇生モジュール)」に変更。限界を迎えつつある地方の医療機関から、重症患者をまだ余裕のある地域へ搬送しました。


 このMORPHEEは、C-135やフェニックスのオプション仕様として、2006年にフランス空軍が導入したもので、病院と同等の高度な医療体制を維持したまま、最大10名の重症患者を乗せ、1万kmの移動を可能にするもの。2002年、パキスタンでのカラチ爆撃で負傷した兵士をドイツの医療用エアバス機で搬送した経験がきっかけとなり、2008年のコソボ紛争で初出動し、アフガニスタンでは4回の出動を記録しています。


 患者を乗せ、フランス南部の第120カゾー空軍基地に到着したフェニックスを迎えたのは、カゾー空軍基地消防救助隊のSI-CNBC(核放射線・細菌化学兵器対策)セクション。新型コロナウイルスも、細菌兵器も「未知の病原体」という意味では同じ。訓練で蓄積されたノウハウは有効で、患者移送後の機内消毒も担当しました。


 フランス海軍では、コルシカ島で発生した患者を医療体制の整ったマルセイユに移送するため、3月21日に強襲揚陸艦トネール(L9014)が出動しました。軍と民間の医療チームが乗り込み、艦内に医療用ベッドが設けられたトネールはコルシカ島へ向かいます。

 トネールは元々、このような急患搬送や災害支援にも利用できるように設計されています。2017年にはハリケーン“イルマ”の被害を受けたアンティル諸島に派遣されたほか、2019年にもサイクロン“イダイ”の被害を受けたモザンビークの人々を支援するために派遣されました。

 スイス国境に近いフランス東部の街、ミュルーズの病院には3月24日、陸軍保健局(SSA)とシャントーの陸軍医療連隊(RMED)が派遣され、駐車場に仮設の野戦病院(EMR)が構築されました。戦場で外科手術も可能な医療体制を提供できるEMRは、人工呼吸器なども備えており、新型コロナウイルス肺炎の重症患者にケアを提供することが可能です。

 ミュルーズの病院では運び込まれる患者の数が増え、元々の入院患者も合わせて収容能力は飽和状態。この状況を救うため、EMRが活用されます。軍から派遣されたおよそ100人の医療従事者は、まず第1陣として30名の患者を受け入れます。

 軍だけでなく、フランスを代表する企業の1つであるエアバスは、飛行試験用のA330neoを中国に派遣。中国政府から提供されたマスクや医療機器をトゥールーズまで空輸しました。


 フランスに到着したマスクと医療機器は、フランス陸軍の手によってフランスとスペインへ運ばれていきます。

 日本でも新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞で、中小企業を中心に経営危機が報じられています。外出禁止令が出されたフランスも状況は深刻で、やはり資金繰りに行き詰まる中小企業の増加が懸念されています。

 中小企業の中には、フランスの防衛産業を支える企業も少なくありません。フランス軍事省はこれらの取引先企業を支援するため、独自のプランを策定。2020年3月23日から特設サイトをオープンし、企業の相談にのっています。市民に奉仕し、その暮らしと生命を守るため、フランス軍も全力で新型コロナウイルスとの戦いに臨んでいます。

<出典・引用>
フランス軍事省 ニュースリリース
フランス陸軍 ニュースリリース
フランス海軍 ニュースリリース
フランス空軍 ニュースリリース
Image:フランス陸軍/フランス海軍/フランス空軍/Airbus

(咲村珠樹)