欧州宇宙機関(ESA)は2020年3月3日(現地時間)、3Dプリンタで作ったロケットエンジンノズル(スラストチャンバー)が初の燃焼試験に成功したと発表しました。より手軽に製造が可能になり、製造・打ち上げのコスト削減につながると注目されます。

 いまや様々な分野で3Dプリンタが用いられ、大きなものでは仮設の建物、航空宇宙の分野でも部品の製造に使用されています。特に多く必要とされない、いわゆる「ワンオフ」のものを手軽に製造できる特長は大きな魅力です。

 ロケットというものは数多く量産するものではなく、打ち上げのたびに作るという受注生産品。そういった意味では、3Dプリンタの特長によく合致したものといえます。

 しかし、ロケットの心臓部ともいえるロケットエンジンに関しては、高温高圧の燃焼ガスに耐える必要があるため、これまでは精度を出しにくい3Dプリンタの進出は難しいと考えられてきました。

 今回、ESAが実験を行ったのは、中型ロケット「ベガ(Vega)」シリーズの2段目用として将来採用する予定であるM10エンジンのスラストチャンバー。メタンガスを燃料とする、推力10トンクラスのロケットエンジンです。

 製造を担当したのは、イタリアのアヴィオ(Avio)。積層成型法(Additive Layer-by-layer Manufacturing=ALM)方式で作られた合金製のパーツ2つで構成されており、試験はアメリカのNASAマーシャル宇宙センターで実施されました。

 この試験では延べ19回、計450秒にわたって燃焼を実施。心配された燃焼ガスの漏れもなく、十二分にロケットエンジンの高温高圧のガスに耐えられることが証明されました。

 ESAでベガとスペースライダー開発計画のマネージャを務めるジョルジォ・ツミノ氏は「今回の結果は、我々を勇気づけてくれました。ベガの改良に使われる新しい技術開発が、正しい道のりを歩んでいるということを示してくれました」とコメントしています。

 高温高圧にさらされ、製造に高い技術が必要なロケットエンジンのスラストチャンバーが3Dプリンタで製造できるようになれば、より製造コストを低減でき、それは打ち上げ費用を安くすることにもつながります。3Dプリンタでスラストチャンバーを成型したM10エンジンを2段目に採用した改良型ベガロケットは、2025年以降のフライトを目指して開発が続けられます。

<出典・引用>
欧州宇宙機関(ESA) ニュースリリース
Image:ESA

(咲村珠樹)