2019年もクリスマスが近づいてきました。今年もNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)では64回目のサンタ追跡任務「NORAD tracks Santa」を遂行しますが、カナダ空軍ではそのサンタをエスコートするパイロットを12月17日(現地時間)に発表しました。

 前身のCONAD(中央防衛航空軍)時代からの伝統を誇る、NORADのサンタ追跡任務。きっかけは1955年、クリスマス商戦でコロラド州のデパート「シアーズ・ローバック」が、サンタクロースとお話ができるというテレホンサービスの番号を広告に掲載したことでした。

 ところがなんの間違いか、広告に掲載された電話番号はテレホンサービスのものではなく、あろうことか国防総省の防衛空軍司令官とCONAD司令官を結ぶホットラインのものだったのです。これは要するに、アメリカに向けてミサイルなり核爆弾を搭載した爆撃機なりが飛んでくる時に使われるもの。

 定時連絡以外では使われるはずのないCONAD司令官のホットライン電話が、突然鳴り響きました。国防総省から緊急連絡が!と緊張した面持ちで電話をとった当時のCONAD司令官、シャウプ大佐の耳に飛び込んできたのは「……もしもし、サンタさん?」というかわいらしい子供の声。

 のちにシャウプ大佐は、この時を振り返って「こりゃ一体なんてこった!と思ったよ。国防総省のパートリッジ大将からの緊急連絡だと思ったら、聞こえてきたのは『ほんとにサンタさん?』という小さな子供の声なんだから。あまりにも非現実的なので、部下からのイタズラかと思って周りを見たが、どうもそうではない。電話口で、もう一度言ってくれないか、と話すと、また『ねぇ、ほんとにサンタさんなの?』と子供の声が聞こえてくるじゃないか」という証言を残しています。

 事情は飲み込めないものの、どうやら子供がサンタさんだと思って間違い電話をかけたのだろうと察したシャウプ大佐は、自分はサンタではないけれど、サンタさんがみんなのお家にプレゼントを無事届けられるよう、見守る仕事をしている、と告げました。そして部下にサンタの住んでいる北極から、何か飛行物体(サンタのソリ)が飛んできていないかを調べさせ、その結果を電話口の子供に伝えました。もちろん、これ以後かかってきた多くの電話にも、シャウプ大佐は同じように対応したといいます。

 本来なら最高機密であるホットラインの番号が広告に掲載されたら、厳重に抗議するであろう話ですが、この偶然を面白いことと感じたCONADでは、翌年から「サンタ追跡」のテレホンサービスを始めました。これはCONADが、カナダを加えたNORADへと改変されてからも続き、現在ではテレホンサービスのほか、公式サイト「NORAD Tracks Santa」やYouTube、TwitterにFacebookで、12月24日の夜から12月25日の朝まで、サンタクロースの現在位置を知らせるようになり、世界中からアクセスされる有名なイベントとなっています。1964年には、記念のレコードアルバムまでリリースされました。



 アメリカとともにNORADを形成するカナダ空軍では、毎年超高速で地球一周飛行し、良い子たちにプレゼントを届けるサンタのソリをエスコートする、専任のCF-188(F/A-18)戦闘機パイロットと整備員を任命しています。

 サンタのエスコート任務は、東海岸ケベック州の第3航空団と、西海岸アルバータ州の第4航空団が連携して担当。カナダを横断して良い子たちにプレゼントを届けるサンタの安全を守ります。

 2019年に第3航空団から任命されたエスコートパイロットは、マニトバ州ウィニペグ出身のミカエル・ラシャンス大尉(コールサイン:メトロ)と、ケベック州ラ・ポカティエール出身のフェリックス・セントジーン大尉(コールサイン:ラングラー)。2人の愛機を整備するのは、アメリー・トレンブレー=ゴーティエ兵長と、ケビン・サヴォイエ兵長です。

 西海岸でのエスコートを担当する第4航空団からは、フロリダ州クリアウォーター出身のカイル・ウィルソン大尉(コールサイン:ベティ)と、サスカチュワン州レジャイナ出身のブレット・ボボウスキー大尉(コールサイン:ヴィレイン)。ウィルソン大尉は、アメリカ海兵隊からの交換将校プログラムでカナダ空軍に出向しているパイロットです。担当整備員はヴィンセント・クロウティエ兵長と、アビエーターのジェシー・トラッチさん。

 これとともに、サンタとエスコートパイロットの航空管制を務めるのが、第22航空団第21航空警戒管制中隊。ブラッド・ティッキー大尉指揮のもと、フランシス・ドイヨン軍曹とアメリカ空軍のシエラ・ラスバン三等軍曹が、カナダ領空での航空管制と誘導を担当します。

 カナダ空軍ではこのほかにも、兵士たちがサンタや妖精に扮して小児科病院を訪れ、病と闘う子供たちと交流する「オペレーションHO-HO-HO(サンタの笑い声)」という活動を行っています。


 サンタたちはカナダ空軍のヘリコプター、CH-146グリフォンに搭乗して、トロント子ども病院やオンタリオ州のキングストン総合病院、アルバータ州のストレリー子ども病院を訪問。入院中の患児たちと交流しました。


 子供たちが楽しみにしているサンタ。今年もプレゼントを携え、良い子たちのもとに向かうサンタをカナダ空軍とNORADは見守ります。

<出典・引用>
カナダ空軍 ニュースリリース
Image:RCAF/USAF

(咲村珠樹)