古い車になると、純正の補修パーツが見つからず、やむなく代用品を使って修理することがあります。クラクション(警音器)のスイッチが壊れていることが分かり、一番安く直してもらったら、何かの発射ボタンのようになった車が話題になっています。

 クラクションの操作スイッチが、まるで秘密兵器の発射ボタンみたいになってしまったのは、Twitterユーザーのロナルド R アーメイjr(@hentaitaisan)さんの営業車。かなりの年数が経った「ポンコツ営業車」だそうです。

 車検に出したところ、クラクションが壊れていて鳴らないことが判明。このままでは、道路運送車両法の第四十一条に定められている保安基準を満たすことができず、車検に通りません。

 そこで「一番安い方法で直して下さい」とお願いしたところ、クラクションのスイッチはステアリングホイール横のダッシュボード部分に移され「PUSH ON」と書かれた、赤い押しボタンになって戻ってきました。思わず「ポチッとな」と言いながら押したくなる見た目です。

 古い車ですから、ステアリングホイールについているクラクションスイッチを新しく調達するより、おそらく安上がりな解決法がこれ、ということなんでしょうね。でもどうしてこうなった。

 自動車など、道路運送車両法に規定されている車両の保安基準については、細かい要目が「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」というもので定められています。その最新版を見ると、クラクションのスイッチは第10条で「操縦装置」として始動装置(イグニッションスイッチ)、加速装置(奥歯のスイッチ……ではなくアクセル)、変速装置や前照灯、方向指示器、窓拭き器(ワイパー)などとともに挙げられています。

 そして第12条第2項では、1958年に結ばれた「国連の車両等の型式認定相互承認協定(通称:1958年協定)」の協定規則第121号によって、その配置や表示方法の基準が規定されている、とあります。配置について、協定規則第121号の5.1.1項で「運転者が運転中に使用する操作装置は、5.6.2項の条件で運転者が操作できるような位置にあるものとする」とあります。

 協定規則第121号5.6.2項は「運転者は、メーカーの取扱説明書に従って調節された衝突保護システムで制止されるが、かかるシステムの制限内で自由に動くことができる」というもの。ここで言及されている「衝突保護システム」の代表例が、シートベルトです。

 つまりシートベルトをしている状態で、操作できる位置にあればいい、ということ。これに従えば、なにもクラクションのスイッチはステアリングホイールにある必要はないんですね。

 ただし、何を操作するスイッチであるか判別できなくてはなりません。「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」第168条第2項第一号と、附属する表1で、その表示が規定されています。クラクションのスイッチはラッパのマーク。

 リプライ欄を見るとマジックでラッパマークが描いてあったそうですが、車検後に理由を知らずいったん消してしまったとのこと。しかし、この表記がないと検問などで警察官から車を点検された時、道路運送車両法違反に問われてしまいます。他のユーザーからの指摘で、もう一度ラッパマークが描き加えられました。なお、記事見出しの写真は、描き加えられる前のものです。

 一般的な自動車の場合、ステアリングホイールについているから、そこにあるのが当たり前だと思っていたクラクションのスイッチ(ホーンボタン)。関係法令を見てみると、手の届く範囲なら大丈夫、というアバウトな規定なんですね。わざわざ配線ごと付け替える酔狂な人は少ないでしょうが、ちょっとした豆知識にもなりました。

<記事化協力>
ロナルド R アーメイjrさん(@hentaitaisan)

<参考資料>
道路運送車両法(e-GOV)
道路運送車両の保安基準(2019年5月28日現在) 国土交通省
国連の車両等の型式認定相互承認協定(1958年協定)第121号 国土交通省

(咲村珠樹)