2020年から始まる世界初の電動飛行機によるエアレース「エアレースE」。そのレース機が2019年11月17日(現地時間)にUAEで開幕したドバイ・エアショウで、初めて一般公開されました。フォーミュラ1(F1)クラスに使用されるエアレース機をベースにしています。

 エアバスの支援を受け、世界で初めて開催される電動飛行機によるエアレース。それが「エアレースE」です。フォーミュラ1クラスの飛行機を使ったエアレース、文字通りの「空のF1」レースを母体に誕生しただけに、多くの部分がF1クラスを基準にしています。

 エアレースの世界でいう「フォーミュラ1」とは、国際航空連盟(FAI)のフォーミュラ1規定に準じて作られた小型の飛行機を指します。多くは自作機や組み立てキット(キットプレーン)で、手軽に飛行機を楽しむ人向けのもの。陸上のモータースポーツでは、レーシングカートやミニバイクのレースに近いといえるかもしれません。

 しかし、小さいとはいえ平均スピードは時速450km以上。滑走路上のスターティングラインに並んだ複数のレース機が、スタートの合図とともに一斉に離陸し、周回コースを回りながら順位を競うレースは迫力があります。単独のレース機が複雑なコースを飛び、飛行タイムとパイロットの操縦テクニックを競うレッドブル・エアレースとは、また違った面白さ。

 エアレースEでは、固定式のパイロンで設定された1周5kmの周回コースを使い、最大8機が同時に飛んで抜きつ抜かれつのレースを繰り広げます。レッドブル・エアレースが個別に飛んでタイムを競う形式なのに対し、エアレースEは同時に飛んだ中での順位を競うので、初めて見る人でも単純明快に勝敗が分かるシステムです。

 今回、ドバイ・エアショウで初披露されたエアレースEのレース機は、イギリスから参戦するチーム「コンドル(Condor)」のもの。F1レース機のカサット(Cassutt)111Mをベースに大幅な改良を加えた「ホワイト・ライトニング」という飛行機です。

 このホワイト・ライトニングは1979年に作られ、1980年代から1990年代にかけて、ヨーロッパ各地で開催されたF1クラスのエアレースに出場。アンドリュー・パトリック氏の操縦で複数回の表彰台を獲得しています。これをマーティン・ワイズマン氏率いるチーム・コンドルが、電動飛行機化しました。

 動力源はエンジンではなく電気モーターなので、機首はぐっと絞り込まれ、合計出力150kWのモーター2基で、イギリス・ハーキュリーズ製の2翅二重反転プロペラを駆動。レースは離陸から着陸まで概ね5分程度で終わるので、予備の飛行時間10分を含めた15分の電力は、胴体に搭載された100kgのリチウムイオン電池から供給します。

 操縦席のキャノピーも極限まで小さくなり、ヘルメットをかぶったパイロットの頭部くらいの大きさしかありません。主翼にはチーム・コンドルのナンバー66が記されています。

 エアレースEの創設者、ジェフ・ザルトマンCEOは「これはエアレースEだけでなく、航空業界全体にとっても極めて重要な瞬間です。エアレースEのシリーズは、電動飛行機による商業旅行の開発を促進するテストベッドとなることでしょう。来年、このドバイ・エアショウと同じように、皆さんにレーストラックで飛ぶ姿をお見せして、歴史を作っていきたいと思っています」と、レース機の初披露に際して述べています。

 今回披露されたホワイト・ライトニングのほかにも、完成間近なレース機がイギリスのノッティンガム大学航空技術研究所で製作中。これは総額1300万ポンド(約18億2000万円)の次世代推進技術研究開発計画の一環として進められています。

 エアレースEでは2019年11月19日(現地時間)にも、6月17日に発表した4チームを含む最初のレースに参加する8チームを発表するとしています。レース開催地については、まだ交渉中として明らかにされていませんが、交渉は順調に進んでいるとのことです。

<出典・引用>
エアレースE プレスリリース
Image:AIR RACE E/Airbus

(咲村珠樹)