NASAは2019年9月24日(現地時間)、次世代有人宇宙船オリオンの長期における製造発注契約をロッキード・マーティンと締結したことを発表しました。この契約では、2030年9月30日までに宇宙船を6~12機製造することになっており、2024年に予定されている、女性が加わった初の月面有人探査に使用する宇宙船も含まれています。

 従来、宇宙船は打ち上げ計画ごとに発注する「受注生産」が主体でした。この場合、メーカー側はいつ発注されるか分からない宇宙船の生産ラインを維持する必要があり、そのコストが上乗せされてしまうため、宇宙船の価格も高くなりがちです。

 今回NASAがメーカーのロッキード・マーティンと締結した「オリオン製造運用契約(Orion Production and Operations Contract=OPOC)」は、オリオン宇宙船を長期にわたって利用することを前提とし、メーカーに安定した生産ラインを維持できるよう、期間と製造数を明確にしたもの。

 NASAのブライデンスタイン長官は「この契約はオリオンの生産が2020年代を通して行われることを確約するものであり、NASAが月に持続的な滞在を行い、新たな知見を持ち帰るとともに、宇宙飛行士を火星へと送り出す準備を行うことを示すものです」と、今回の長期製造契約についてコメントしています。

 製造されるオリオン宇宙船の価格は、納入時期に応じて2種類の設定となっています。確定発注となる6機については、まずアルテミスIII~Vミッションに使用される3機の宇宙船が総額27億ドル(約2900億円)。そしてアルテミスVI~VIIIに使用される3機の価格は総額19億ドル(約2043億円)。前半3機より後半3機の価格が低くなっているのは、サプライチェーンなどを含めた量産効果が発揮されて、製造コストが安くなるだろうという試算に基づくものです。

 さらにコスト低減の試みはほかにも。現在スペースXの国際宇宙ステーション補給船ドラゴンは、打ち上げロケットファルコン9の1段目と、ドラゴンの再突入カプセルを再利用し、複数回のミッションに使用しています。オリオン宇宙船でも同様のことを行おうというのです。

 計画の第1段階は、初の有人ミッションとなるアルテミスIIから。これに使用されたフライトコンピュータやコクピットのスイッチパネルといった電装品、宇宙飛行士のシートなどの内装を回収し、整備の上アルテミスVミッションに使用することとしています。同じく、アルテミスIIIミッションで使用した宇宙船の部品は、アルテミスVIミッションで再使用する予定です。

 今回の製造契約で使われた手法は、月周回軌道上に設けられる「ゲートウェイ」宇宙ステーションや、今後の宇宙機生産でも使われる予定。湯水のように予算と資源を費やした昔の宇宙開発から、これからはコストやリサイクルの面を考えた形に変化していくモデルケースとしても、オリオンの製造契約は注目されます。

<出典・引用>
NASA プレスリリース
ロッキード・マーティン プレスリリース
Image:NASA/Lockheed Martin

(咲村珠樹)