子猫を拾った翌日の朝。会社に行く前、動物病院にたちより、子猫の健康状態をチェックしたところ、子猫と思い込んでいたその子は実は……「ガリガリにやせた成猫だった」というところまでが前回のお話。

 今回はその続きです。

前回:【エッセイ:猫と編集部】子猫を助けてしまった件

■ 社長激怒の初対面 「すぐ里子に出して!もう猫なんかいらない!!」

 過去にも会社で猫を飼っていた(先代猫こと猫社員1号)ということもあり「まぁ、なんとかなるだろう」、そんな軽い気持ちで、病院からそのまま会社に車を走らせました。後部座席には、先代猫の遺品の一つである猫用キャリーケース。なかでは、昨晩ひろった子猫あらため、猫がニャーニャーしつこく言い続けていました。どうやら、病院に連れて行ったことが気に入らなかったようす。そりゃそうだ、いきなりお尻に体温計入れられたりしたんだもの。

 編集部に到着すると、先に編集部のLINEグループで猫を拾ったことを共有していたことから、社内みんなが新顔猫に興味津々。自分で飼うことも考えたけれども、留守も多いので可能ならば猫社員2号にしたいことを説明。ただ、一つ気がかりだったのは……社長。みんなにはLINEで説明していたけれども、LINEグループに入っていない社長だけには話していなかったのです。このため、突然の猫にどんな反応を示すのやら……。とりあえず、始業前に軽く猫の居場所をつくり、社長の到着を待ったのでした。

 それから5分後……

社長「おはようござ(一度見)………!!(二度見)なんで子猫がいるの!!(社長も勘違いした)」

 大激怒されてしまったのです。社長はサーフィンにフルマラソンと、スポーツを趣味にしている色黒アスリートなルックス。普段無口ということも相まって、大声こそ出さないものの怒ったときは迫力があり、この様子に社内はしん……と静まりかえりました。

 とはいえ社長、実は大の猫好き。社会人になってからは飼う機会はなかったそうですが、実家は絶えず猫を飼っているとかで、先代猫の世話は誰より率先して買って出るなど大変な溺愛ぶりをみせていたのです。

 そんな先代猫こと猫社員1号が虹の橋を渡ったのは、今年の2月。年齢や体調面からして、あるていどの覚悟期間があった上での「死」という別れでした。しかし、社内で誰よりも溺愛していたがゆえに、社長の落ち込みようはすさまじく、猫社員1号の写真をプリントしてはフォトスタンドに入れて、自分のデスクや社内を見渡せる窓際などに、少しずつ数を増やしていき……。この時期の社長は完全にペットロス状態だったと思います。

 そんなペットロスを引きずった、社長の口から次に出た言葉は……

社長「ダルさん(社長が猫社員1号を呼ぶ時の呼び方)がいなくなったばかりなのに酷いでしょ。ダルさんが可愛そう。ほんと酷い。薄情。とにかく、すぐ里子に出して!もう猫なんかいらない!!」

 というものだったのです。確かに社長が言うとおり、まだ早いような、旅立った猫社員1号に悪いような……。そこで「体の調子が戻り、次のもらい手がみつかるまでの間だけ」という約束で、社内に置かせて貰うことにしたのでした。その後、社長は猫に触れることも、話しかけることもないまま、一瞥くれただけですぐに外出してしまったのでした。

■ 社長の隠しても隠しきれない猫愛

 その日の午後のこと。外出先からもどった社長の両手には、猫ベッド2個。両腕から下がった袋の中には、猫砂、猫缶、カリカリ、ちゅ~るがパンパンに詰められ、さらに猫のおもちゃの棒がはみ出ていました。

 この様子には一同唖然。でも社長のしていることなので、誰も突っ込めはしません。話しかけることもできません。真顔でPCに向かい業務をづづけるのみです。

 一方、社内で使用している業務用チャットの会話は盛り上がります。社内に響くキーボードの音。カタカタカタカタカタ……。この会話には、名古屋にいる名古屋支部の梓川も加わります。

私「今、社長が外出先からもどってきたんだけど、両手に猫ベッド抱えてる」
梓川「さっき、怒ってなかったっけ?え?」
咲村(副編集長)「まぁ、猫好きですからね。もとが。様子をみましょう」

 全員驚きを隠せませんでしたが、そんな私たちを尻目に、社長は猫の居場所づくりを開始しました。猫トイレは猫社員1号のものを既に出しておいたのですが、猫砂だけは使い残しの一袋もない量を入れていただけだったので、即座に買ってきたものを社長自ら補充。ザラザラザラー(入れた)。ザッザッ(表面をならしてる)。静かな社内に響く猫砂の音。いったい何が起きているのか……。ちなみに猫ベッドのうち1個は、私の家用(夜は連れて帰るので)ということで、後で貰うことになったのでした。

 さらにその翌日。朝会社につくと、社内には見たことのない猫のおもちゃがさらに増えていました。床に直においていたはずの猫トイレやベッドは、床に可愛いピンクのマットが敷きつめられ、その上に綺麗に置かれていたのです。そんなことをした人物が誰かは明らかに察せられたのですが、突っ込むことはできません。気づいても言わないのが、社内のお約束……この時も特に触れることなく、そのまま業務へ。

 業務中は、たまに猫が膝にのってきたりして「若い猫は積極的だねー」なんて会話がぽつぽつでてきて、社内はほのぼのした雰囲気につつまれました。社内でうろつく小さい猫。たったそれだけの事なのですが、なんだか空気が和らぐような。そんな楽しい午前をすごして、お昼の時間……ふと気づくと、猫がどこにも見当たらなくなってしまったのでした。

 どこいった。どこかに潜り込んでしまたの?不安にかられて懸命に探すも見あたりません。そこで最後の最後に、社長席の周辺を調べに行ってみると……社長席の机の下に見たこともない(前日買ってきたものとは違う)猫ベッドが置かれていたのです。その上で猫はスヤー。さらに上では社長が仏頂面してカタカタカター。……見なかったことにして、そっと立ち去ったのは言うまでもありません。

■ ネコと和解済み

 そして……夕方ごろだったでしょうか。編集部では空いた時間に「さすがに3日もたったし、猫の名前を決めようか」という話し合いを行っていました。

私 :拾う前に八海山を飲んでたから、私は「八海さん」って呼んでるのよね
咲村:八海(ヤミ)ちゃんとかどうですか?
梓川:闇属性……?
咲村:八海山の蔵元が「八海醸造」っていうので
梓川:響きが「闇」や「病み」を連想するからなぁ
佐藤:海さん
全員:うーーーん

社長:ラッキーに決まってるでしょ(猫を抱きながら後ろを通りすぎる社長) ね、箱入り娘ちゃん

私 :猫の名前が決まりました。ラッキーだそうです
梓川:社長どう考えても飼う気満々
咲村:前に梓川さんが記事にした「ネコと和解せよ」のお父さんみたいな展開になってきた
梓川:あー、あったあった 最初は「猫なんて誰が」って態度だったお父さんがデレデレになったやつ。社長は元からデレだから光の速さで和解している

 という流れをへて、晴れて弊社の猫社員2代目(猫社員2号ともいう)を襲名した、八海さん改めラッキーちゃん。あまりに展開がギャグっぽいので、ネタで盛った話でしょ?と思われるかもしれませんが、これらは本当に本当の実話だったりします。会話内容も、当時の記録やSNSへの書き込みなどから再現しており、むしろこれでも大分話しをはしょった方です。

 社長の猫愛は抑えても抑えることができなかったようで、拾った翌日から名前が決まるまでの間に購入したものだけも、私が知る限り猫ベッド3つ、爪とぎ4つ、さらに猫なべ2つ、その他ごはんやおもちゃ類。ラッキーがベッドや爪とぎをあまり気に入らない様子を少しでも見せようものなら、すぐさまホームセンターにすっとんで行って新しいものを購入……という流れで、まさに箱入り娘のお嬢様待遇を密かに(?)つづけていたのでした。といっても、全員気づいてましたけど。

 ちなみに、たまにこうして社長の猫愛っぷりを暴露していることは、今はまだ気づかれていません。普段の猫系の記事だと思わせつつ公開しています。バレるとめちゃくちゃごねるので。

次回:病院嫌いの猫あるある つれてくだけで「この人酷いニンゲン」認定
※本稿は、おたくま経済新聞に掲載している不定期連載エッセイです。

(宮崎美和子)