イギリス空軍は2019年6月11日、6月10日にバルト海でエストニア領空へ接近するロシア軍の航空機に対し、2回にわたって緊急発進(スクランブル)を実施したと発表しました。対象となったのはいずれもロシア軍の輸送機で、これによる領空侵犯はなかったとのことです。

 大相撲の元大関把瑠都(カイド・ホーヴェルソン)さんが国会議員を務めていることでも知られるNATO加盟国エストニアは、1991年にソ連から独立を回復した歴史からも分かるように、ロシアと国境を接する国。また、ロシアの船や飛行機がバルト海を通って南下しようとすると、フィンランドとリトアニアの間にある狭い公海の部分を通過しなければいけないため、しばしば両国の領空や領海に近づいてしまうことがあります。エストニアは小さい国のため、軍は陸上戦力が中心で戦闘機を保有していません。このため領空の警備に関しては、ほかのNATO加盟国からの協力を仰ぎ、エストニアの飛行場を提供する形で実施している状況です。

 加盟国の中で最もロシアに近い国のひとつであるエストニアは、NATOにとっても重要な国。そこでエストニアに加盟国の空軍が持ち回りで駐留し、領空警備と同時にロシアの動きを直接察知する任務を担当しています。イギリス空軍は2019年5月3日から、前任のドイツ空軍からエストニアの領空警備任務(QRA)を引き継ぎました。派遣されているのは、普段コニングスビー基地に所在する第XI(F)飛行隊のユーロファイター・タイフーンFGR.4です。

 6月10日のスクランブルは、5月3日に任務を引き継いで以来6回目。この日最初のスクランブルで接触したのはAn-24輸送機でした。10分後に実施したスクランブルではAn-26輸送機。先にスクランブル対象となったAn-24輸送機とほぼ同じルートを飛行してきたといいます。公海上空は狭い範囲なので、おそらく風の影響で流され、思ったよりエストニア領空に近づきすぎてしまったのでしょう。



 イギリス空軍によると、どちらの場合もいつも通り紳士的に対応し、先方に空域から退去してもらったとのこと。このほかにも5月14日にはIl-22空中コマンドポストとSu-27戦闘機、翌15日にはIl-20電子情報支援機とSu-27が、それぞれロシアに向けてバルト海を通過中にエストニア領空に接近し、イギリス空軍のスクランブルを受けています。

 逆にロシア軍機がNATO加盟国の軍用機に対してスクランブルする事例も起きており、バルト海というところは狭い空域ですから、こういったことは比較的発生しやすいといえます。どちらもお互い様、といった部分もあるでしょうが、だからといって油断することはありません。常に万が一のことを頭に入れ、場合によっては戦争に発展するかもしれない、という緊張感を維持しながら、領空警備任務は行われています。

<出典・引用>
イギリス空軍 プレスリリース
Image:Crown Copyright 2019

(咲村珠樹)