フランスの各軍が使用している小型ヘリコプターを更新し、機種を統一する「統合軽ヘリコプター(HIL)」計画。2017年にエアバス・ヘリコプターのH160がベース機種として選定されましたが、このたびその名称が「ゲパール(チーター)」となることが2019年5月27日(現地時間)、フランスのフロランス・パルリ軍事大臣から発表されました。同時に、各軍仕様の計画図も公表されています。

 現在フランス軍で使用している小型/中型ヘリコプターは、陸軍のSA342ガゼル、海軍のSA365ドーファン/SA319アルエットIII、空軍のAS550フェニック/AS555フェニック2と、同じメーカー(シュド/アエロスパシアル)で同程度の機体規模ながら、採用時期(1960年~1980年代)などの関係でそれぞれバラバラの機種となっています。大型ヘリコプターではほぼ同じ機種を採用しているのに対し、あまりに種類が多すぎて部品など運用維持のコストを考えれば、予算面でのムダが生じていました。

 統合軽ヘリコプター(HIL)計画は、これらバラバラになっている小型ヘリコプターの機種を一本化し、補修用部品の調達など運用面のコストをスリム化することを目的のひとつとしています。アメリカ軍や日本の自衛隊が、汎用ヘリコプターをシコルスキーのH-60シリーズで統一しているのと似ているかもしれません。

 この計画でベースとなる機種として2017年に発表されたのは、エアバス・ヘリコプターの新型双発ヘリコプターH160。AS365ドーファン、EC155パンテルの後継機として2015年6月に初飛行し、現在開発作業が続けられています。エアバス社内ではこの軍用モデルに、H160Mというモデル名をつけました。


 陸海空の3軍が共通して運用するため、機体の構成部品はモジュール化され、その組み合わせにより幅広い任務に対応するように設計されます。フランス軍事省では各軍仕様の完成予想図を公開し、同時に想定される任務についても明らかにしています。

 陸軍仕様は地面に近い低高度を飛行するため、目立たないよう陸地を想定したブラック・グリーン・ブラウンの3色迷彩となります。これは陸軍の装甲戦闘車両などに使用されているのとほぼ同じもの。現在のところ武装偵察(威力偵察含む)、ロケット弾やミサイル、ドアガンを使用した上空からの火力支援、ヘリボーン作戦、捜索救難などの任務に投入する計画です。

 海軍仕様は洋上から視認されにくい、空の色に似たブルーグレー。対潜水艦作戦(ASW)や洋上哨戒のほか、洋上捜索救難任務を想定しています。

 空軍仕様も空の色を意識した機体色ですが、ブルーの成分はほとんどなく、戦闘機と同じライトグレーとなります。空軍では空域での哨戒や捜索救難、また索敵・情報収集任務などに従事することとしています。

 フランス軍事省の装備局(DGA)では、現在エアバス・ヘリコプターとH160の軍用モデルについて、要求性能とそれを満たすための設計作業を行なっています。同時に搭載するレーダーや火器管制システムなどの電子機器についての研究も行っており、軍事省では軍事的な航空電子工学(アビオニクス)における進歩をもたらすだろうとしています。

 エアバス・ヘリコプターのブルーノ・エヴァンCEOは、このH160Mを用いたフランス軍の統合軽ヘリコプター(HIL)計画について「この計画に参加できることを誇りに思うと同時に、フランス政府に感謝します。装備局(DGA)や軍のスタッフと緊密な連携をし、現在の軍事予算の枠内で作業を進めています。この協力関係により、旧世代のヘリコプターを置き換えるスケジュールが加速し、フランスにおけるヘリコプター戦力整備と維持に弾みがつくものと考えています」とコメントしています。

 またこの計画では、2022年予算で実機の発注が開始されることとなっています。その初号機引き渡しについて、エアバス・ヘリコプターのエヴァンCEOは「我々はフランス軍の要求に応じ、2026年には引き渡しを始められるものと考えています。同時にH160Mは、世界の軍用中型ヘリコプター市場においても新たなベンチマークを示す存在となることでしょう」としています。

<出典・引用>
フランス軍事省プレスリリース
エアバス プレスリリース
Image:フランス軍事省/Airbus Helicopters

(咲村珠樹)