男性の性は週刊誌などでも大っぴらにされていますが、女性の性についてはごくたまに、一部の女性向け雑誌が特集を組む程度。しかし、人間という種を維持するために必要な本能の中にある、食欲・睡眠欲とともに存在する“性欲”に対しては、女性が大っぴらにすることはタブーとされる風潮が今も根強くあります。それはいつから始まり、どうしてそうなったのか……。今回、その歴史を紐解くトークイベントが開催されたので取材してきました。

 

 今回取材したのは、セクシャル・ウェルネス事業を展開する株式会社TENGAが展開する、女性向けのセルフケアアイテム「iroha」チームが5月24日に開催したトークイベント「女性の性をめぐる物語~揺れ動いてきたセルフプレジャーの歴史」というイベント。成人女性を対象に、30名以上が一般参加しました。

 このイベントは、大阪の「大丸梅田店」での3回目のポップアップストアオープンを記念して開催されたもの。男女・年齢問わず、根源的な欲求であり、食欲など同等に語られてもおかしくないはずの欲求なのに、なかなかオープンに出来ない「女性の性欲」について、なぜ「はしたない」「恥ずかしい」という意識を植え付けられ「そういうものだから」で済まされてしまうのか……。男性の性については広く語られているのに、女性はなぜ同等にならないのか。第1部ではクイズ形式も交えながら、西洋の女性の性の歴史と、日本の性の歴史についてのトークが、TENGA広報チームの西野さんと本井さんにより繰り広げられました。

<第1部~西洋の性の歴史と日本の性の歴史~>

■ 西洋での「性欲」についての考え方と「治療」

 西洋における女性の性についての考え方は、紀元前4世紀にまでさかのぼるといいます。この頃から既に、女性のヒステリーは子宮が体内で暴れて悪さをする病気と信じられており、それを解消させるためには内科医などが女性に対し性器へのマッサージを行い、オーガズムを得られるようにすることを治療としていたという背景があったそうです。


 時代が進んでも、性的な欲求はキリスト教の影響もあってタブー視され続けており、女性のヒステリーに対する「治療器具」として、1880年代には性欲の解消用治療器具としての電動マッサージャーが開発され始めたそうです。この頃のヒステリーは、現在の医学的に定義されているものとは違うものであります。

 女性自身の手でオーガズムを得ること自体がタブー視されているのは、この中世西洋のキリスト教における考え方が元となっているようで、性欲に対するタブー視が強いことから、その後の性欲に対する考え方にも強い影響を残しているそうです。

■ 古代~江戸の日本の「性」と「信仰」

 一方、日本では古来から山岳信仰や自然崇拝などと並んで、性器信仰があります。日本の各地に男性器を模した神輿を担ぐ祭りや、ご神体が男性器や女性器をかたどっているものもある神社(愛知県小牧市の田県神社や愛知県犬山市の大縣神社など)があり、夫婦和合の他にも、五穀豊穣や豊かさを祈願する神聖なものとして、性器は扱われてきました。

 中世から江戸時代には、瓦版や春画などの印刷技術により、性に対する情報が男女ともに手に入りやすくなり、男性器を模した「張り型」も多種多様なものが誕生。薬屋などでも扱っていた歴史があるといいます。お屋敷の女中が張り型についての講義を他の女性に講義している春画や、張り型の使い方を描いた春画などが紹介されました。こうした春画は現在のような規制はなく、お金で買えば誰でも手に入れることができたそうです。

 これだけおおらかな性に対する日本の時代背景があったにも関わらず、こういった春画から歴史を紐解くということは、現代では一部のジェンダー関連学や歴史を学んでいる人や、独学で学んでいる人が行う程度となったといいます。大学でジェンダー論についても学んできた本井さんも、こうした講義の中で初めて春画について触れ、現代はどうして女性の性は隠されたものになったのかという疑問をずっと持ち続けていたそうです。


■ 西洋文明の流入と日本の性に関する意識の変遷

 次に紹介されたのが、鎖国時代を経て、明治維新を迎えた日本は、西洋の文明や思考が一気に流入した時代。江戸時代にはおおらかで信仰の対象でもあった「性」における考え方が変わったのも、明治維新による文明や思考がもたらしたものだといいます。キリスト教の影響も強く、現在の女性の性における「はしたないことである」「性を語ることが恥ずかしい」というタブー視は、この時代からの流れが未だに続いているからではと本井さん。

 明治時代が始まってから約150年経っていますが、未だに女性の性に対する考え方はその時代にとどまったままという人も少なくないのが現状。生命の根源としての「性欲」に対するタブー視が、未だに性教育の遅れや偏見に繋がっているのです。

■ 新しい性の考え方と意識

 約150年ほどの間に男性の性についての研究は多くなされていますが、女性の性欲や性そのものに対する研究は、こうした歴史的なタブー視が続いていたこともあり、かなり遅れているといえます。日本の性教育の遅れも、この辺りにあるといえましょう。生命の根源である性についての「はしたない」「恥ずかしい」「人前で大っぴらにすべきでない」という考え方は、約150年前から現在まで変わっておらず、その意識が正しい知識を身に付ける機会を奪っているのです。海外ではその考え方からやっと脱出しそうな方向となっており、自身での性欲処理(セルフプレジャー)に対するイメージは、自身の心身の健康に対するセルフケアの一つという概念になりつつあるそうです。

<第2部~セルフプレジャーの意識改革と自身を知る事~>

■ 女性の本来のあり方を「今までの性に対するイメージ」から解き放つ

 西洋文化の流入に伴い、大きく変化した女性の性に対する意識や知識。誰もが持っている欲求に対して、食欲や睡眠欲といったものと同等に語られてこられず、「女性が語ることがはしたない」と押し込まれてきた歴史を紐解いてみて、必要以上に性について萎縮する必要はないということがこれまでのお話のなかで分かってきました。

 しかし、性についての知識や自身の体の構造などについて、正しい知識を身に付けていない人も多く、女性器のトラブルや性欲についての困り事などを正しく把握できない人も多い状況です。女性器は、口の中とともに自身が鏡で見ることができる内臓の一部。しかし、実際に見てその構造を知っている人は意外に少ないのではないでしょうか?

 このような状況で、セルフプレジャーに対する前向きな意識を持つのはなかなか難しいものです。しかも、いかにも性欲解消のための器具という形はやはり抵抗感が強いものです。こうした状況を踏まえ、irohaがTENGA女性チームにより開発されました。

 第1部と第2部の間に休憩時間があり、展示されているirohaの数々を参加者が実際に手に取ってその感触などを確かめていました。参加者たちからは、「意外と柔らかい」「見た目が可愛く、部屋に置いてあっても違和感がないかも」「柔らかいのに力強い振動」「感じる部分に挟んで使っても痛くなさそう」などの感想が飛び交っていました。

 iroha自体が「和モダン」を基調としており、色合いやデザインはそれまでのいわゆる「ジョークアイテム」と称されているものよりも生々しい色や形ではないのが特徴。いわゆる「オモチャを使ったセルフプレイ」によるセルフケアに対しても、その色合いや形から心理的抵抗感が少なく手に取れる形になっています。

■「セルフプレジャー」が健康にもつながる?

 更年期以降に発生しやすい「閉経後性器尿路症候群(GMS)」にも、セルフプレジャーは効果があると考えられています。GMSとは、閉経後の性ホルモン分泌低下に関連して生じる性器・尿路の形態的変化と機能障害の総称。外陰部の乾燥や灼熱感、外陰部の痛み、いわるゆ「濡れない」ことによる性交痛など、外陰部から膣の乾燥や炎症から来る不快な症状の数々です。加齢に伴い、使わない筋肉は拘縮し使えなくなる「廃用症候群」が、特に寝たきりの人の手足の拘縮によりさらに寝たきりの状態を悪化させるという問題となっていますが、女性器も筋肉と神経で成り立っているため、使わないことで同様の状態を引き起こします。

 こうしたGMSの治療法としてのレーザー治療や内服治療などが現在は確立されていますが、予防するために、セルフプレジャーによりオーガニズムを得ることだといいます。膣を締める動きは骨盤底筋群の筋力低下の予防につながり、濡れることは外陰部や膣粘膜の潤いを取り戻し、女性器のトラブルを低減させることができます。

 irohaの購入は約8割が通販からで、20~30代が主な購入層だそうですが、実際、ポップアップストアでの購入層は中高年層も多く、最年長は80代であるとか。百貨店で実際に触って質感を確かめることができる、というのが安心材料となる様です。性欲というものは閉経に関係なく続くものであり、そうした欲求を上手に対処すること、対処することで不快な症状を遠ざけ、生活の質を保つことにつながります。

 トークの中では、西野さんと本井さんによる詳しい使い方やお勧めの使い方も。参加している人たちは、みな熱心に歴史についてやirohaの商品の説明などについてメモを取り、とても真剣に講義を受ける学生のように学び取っている様子が印象的でした。また、質疑応答のなかで、広報チームのそれぞれがどうして広報としてTENGAに入社したのかという質問も飛び、極めて真面目に性について考え、性を「はしたない・恥ずかしい・表に出すものではないものだから」とさせない意識が広報二人のそれぞれから表れていました。

■ ポップアップストアに行ってみた

 筆者も、トークイベントの前後に実際にポップアップストアに行ってみて商品を色々と触らせてもらいましたが、一見して性的なグッズに見えないこと、思った以上にシリコンの質感が柔らかく、先端もソフトであるので、初心者でも安心して使えそう、という印象を持ちました。ストアの外観もプライバシーが守られるように格子とすりガラスで仕切られており、ヤングレディースフロアの雰囲気にもマッチしていました。





 ストア内は、トークイベントの前からお客さんが何人も来ていましたが、イベント終了後は反響も大きく、たくさんの女性でにぎわっていました。このポップアップストアは6月4日まで大丸梅田店 (大阪市北区)にて出店しています。

取材協力:株式会社TENGA

(取材:梓川みいな/正看護師)