2018年の終わり、フランスのミサイルメーカーMBDAの対空ミサイル「ミストラル」を使用した水上目標の対処試験が行われ、無人で航行する小型高速艇に見事命中。撃破に成功し、ミストラルが空中だけでなく、高速で移動する水上の目標にも対処できることが証明されました。2019年1月9日(ヨーロッパ中央時間)、MBDAが公表しました。

 ミストラルはMBDAが開発した、汎用近距離対空ミサイル。赤外線追尾式で、目標を設定したら自律的に飛んでいく「撃ちっぱなし(Fire and Forget)」式です。ミサイルランチャーも全長2mほど(ミサイル本体は全長1.86m、直径90mm)とコンパクトなため、小型の偵察車両やトラックの荷台などにも設置が可能。

 今回の試験は、艦船に搭載する遠隔操作式の無人ミサイルランチャー「SIMBAD-RC」を使って行われました。本来このランチャーシステムは、近くまで接近した巡航ミサイルなどの空中目標を撃破する、近接防空ミサイルとして作られたもの。艦の射撃管制レーダーや光学照準用カメラと連動するほか、ランチャー単体でも赤外線/可視光線カメラを装備しているため、オペレーターはその画像を見ながら目標を識別して、ほかの火器管制システムを使わず単独で発射することもできます。ランチャーは左右方向にそれぞれ160度、上に最大55度、下に最大30度可動します。

 試験では、海岸に設置されたSIMBAD-RCを離れた場所にあるコントロール室で操作しました。オペレーターは赤外線カメラの画像で、ゲリラ・コマンド作戦における上陸用ボート(高速上陸艇=FIACs)を想定した沖合の無人航行ボートを確認。ロックオンして発射すると、飛翔したミストラルは見事にボートに命中し、ボートは炎上、撃破に成功しました。

 ミストラルが高速で移動する水上目標に対して有効に機能するということが確認されたのは、非常に大きな意味があります。現在、大規模な上陸部隊が押し寄せ、一斉に攻撃してくるという状況は現実的でなく、むしろ少人数の部隊が素早く上陸、潜入するというコマンド作戦が主体になると考えられています。もちろん、これには工作員やテロリストも含まれます。こうした事態に対し、夜間でも赤外線カメラで目標を識別し、的確に撃破できるミサイルは非常に便利な存在であり、海からの脅威を水際で阻止する防衛手段として重要なのです。

 もちろん、海岸線全てをカバーするのは現実的ではありませんが、将来的に重要拠点では海からの脅威に対する防衛手段として、ミストラルのような近距離ミサイルが活用されていくのかもしれません。

Image:MBDA

(咲村珠樹)