平成仮面ライダーシリーズ全タイトルのクロスオーバー作品である「ジオウ」が始まりはや数か月、ライダーファンの皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

 歴代のライダーたちに想いを馳せ、「やっぱりあのライダーが一番好きだなぁ……」「おもちゃもいっぱい買ったなぁ……」などなど、思い出に浸っていることと思います。

 ところで。皆さんの中に、一番好き・一番思い出深いライダーとして、「仮面ライダー鎧武/ガイム」を挙げる方はいらっしゃるでしょうか。

 「仮面ライダー鎧武/ガイム」は、2013年の10月に放送開始した異色のライダーで、“フルーツ”という変身ヒーローらしからぬモチーフや、ニトロプラスの虚淵玄氏がメインライターを担当するなど、そのチャレンジ過ぎる作風に衝撃を受けた方も多かったのではないでしょうか。

 また、つい先日「舞台『仮面ライダー斬月』-鎧武外伝-」が発表され、平成ライダーシリーズ初の演劇作品という、これまた挑戦的な試みでファンを驚かせてくれました。

 かくいう筆者もそうした挑戦的姿勢に魅せられ、小型アイテム「ロックシード」の玩具を買い漁ることとなりました。特にガシャポン版は一体いくつ買ったのやら。……人生で最も両替機のお世話になったのは、もしかするとあの頃かもしれません。

 ただ、ガシャポンといえばランダム封入ゆえの“ダブり”を気にしてしまうかと思われます。

 しかし当時のことを顧みるに、こと鎧武のロックシードにおいては“劇中設定”のおかげで、ダブリを気にせず買うことができたように思うのです。

 「その劇中設定とは?」というのを説明させていただきますと、ライダーたちの変身アイテムであるロックシードは、鎧武劇中世界において“1種類につき1個だけでなく、大量に無数に存在する”と設定されているのです。

 鎧武の変身ベルト「戦極ドライバー」には、異世界の果物・ヘルヘイム果実をロックシードへと変換する機能が備わっており、素材となるその果実さえ用意できれば、それこそ無尽蔵にロックシードが手に入るのです。

 第4話「誕生!3人目のぶどうライダー!」での、2号ライダー・バロンが発した、無数に生い茂るヘルヘイム果実を見渡しての一言「……よりどりみどりか」は、この特異な世界観を実に端的に表しているように思います。当時このセリフに、強い共感を覚えたファンの方も多いのではないでしょうか。

 また、第11話「クリスマスゲームの真実」では、アタッシュケースいっぱいに詰められたロックシードや、ダンボール箱にロックシードを山盛りにして運ぶ、といった場面があり、鎧武劇中では“大量のロックシード”という描写がいくつも存在しました。

 この“1種につき1個じゃない”劇中設定のおかげで、ガシャポンを回してダブったとしても「まあいっか、だって劇中で複数個あるんだし」と思えたのです。……むしろ私筆者の場合、気に入ったロックシードは意図的に複数個買っていました。特にイチゴロックシードなんて、内1個は壊してしまいましたが一時トータルで6個くらい持っていましたとも。……買い過ぎかな(笑)。

 “特殊な劇中設定”と“劇中再現したい欲”のベストマッチ、とでも言えそうなロックシードですが、振り返ってみれば、こういった劇中設定による思いがけない作用は、他のライダーでもあったように思います。

 2009年に放送を開始した「仮面ライダーW(ダブル)」。いわゆる“平成2期”の先駆けとなった作品ですが、ダブルはその名の通り、2人が1人のライダーに変身するというヒーローで、ゆえに変身シーンでは、画面の中にベルトを巻いた2人が並ぶわけです。

 するとどうでしょう、当時のファンの中には、1個でも十分遊べる変身ベルト「ダブルドライバー」の玩具を、「だって劇中では2個なんだぜ!」と言って2個買うという猛者がいたようです。

 こうして考えてみると、新アイテムでパワーアップしたヒーローをカッコよく活躍させるという、ヒーロー番組の基本形にとどまらず、“複数個買う意義”をつくっていた鎧武やWの劇中設定が、なかなかに侮れない物なのではないか、と私筆者は思うのです。

 ……まあ実際のところ、ガシャポン展開におけるロックシードは、劇中設定によるフォローが効かないロックシード(劇中でも1個しか存在しなかったり、そもそも劇中には登場しなかったり)が大量にラインナップされてしまったせいで、結局ダブりに苦しむことになったんですけれどね(笑)。

(田中広明)