思春期から始まり、閉経まで毎月1度は来る、つらい生理。なかにはただ出血する程度で痛みも精神的な変化もあまりない、という人もいるようですが、生理前のイライラや落ち込みなどの精神的変化や、生理中の出血によるお腹や腰回りの痛みなど、人によっては寝込むほどだったりと大きな差があるもの。そんなつらい毎月起こる症状を低用量ピルによって救われた、という人の漫画が話題になりました。

 この漫画を描いたのは、イラストレーターの佐伯サエさん。佐伯さんは高校時代から生理痛に悩まされていました。

 学生時代からずっと生理痛に悩まされ、冬場はストーブの前から動けないくらいの痛みと戦ってきたという佐伯さん。高校生の時に、一度婦人科を受診したそうです。その時は「人より子宮は小さめだが異常はない」と言われたそう。その後、20代半ばに、下腹部だけでなく胸の下あたりまでもが、まるで大きな手に内臓を握りつぶされるような激し痛みを感じるように。再び婦人科を訪れたのは高校生の時から8年後の事。そこで診察された結果、少し子宮内膜の腫れがあり、子宮内膜症気味、という診断。ここまで痛みが強いのに納得がいかなかった佐伯さんでしたが、医師から勧められたのは「ヤーズ」という低用量ピル。低用量ピルは月経困難症や子宮内膜症による痛みの改善などで保険が適用されます。

 ヤーズを処方され、早速飲んでみた佐伯さん。ヤーズ以外にも保険適応となる低用量ピルがあるのですが、ここ最近で一番新しく、血栓症の心配も他の世代より少ない第4世代と呼ばれるのがヤーズ。この錠剤には女性ホルモンが微量に処方されており、体内の女性ホルモンに働きかけて生理前の諸症状(PMS)や、生理痛に効果があります。この低用量ピルは28日間毎日飲む事が重要。ヤーズの場合は28日分のうち24日分に薬が入っており、残りの4錠は定期的な服薬を忘れないための偽薬となります。ちなみに、他の保険適応の低用量ピルは21日内服し、7日間休薬するというものもあります。

 しばらくヤーズを内服していた佐伯さん、だいぶ症状もおさまったそうですが、ヤーズに新しいものが出たという事でそちらを内服する事に。この薬は「ヤーズフレックス」というもので、2017年4月から病医院で処方ができるようになったもの。こちらは毎月の休薬期間(=生理が起こる期間)を減らす事ができ、休薬期間を設けずに最大120日の連続服用ができます。毎月の生理のつらさを年4回に減らす事ができるものです。但し、服薬管理はしっかりと行う必要があり、医師からの指示も必ずしっかりと聞かないといけません。

 佐伯さんが今まで生理前・生理中に辛かったのは、肌荒れや精神的な不調、内臓を鷲掴みにされるような痛さなどでしたが、ヤーズを飲む事によりこれらは軽減。鎮痛剤を飲んでも効かないくらいの痛みも落ち着き、最大時の痛みを10とすると今は2程度、鎮痛剤も効くようになりかなり心身ともに楽になったようです。

 ただ、ヤーズはじめ低用量ピルは、血栓ができやすいのが難点。このため、35歳以上で1日15本以上喫煙している人には処方できない、前兆(閃輝暗点,星型閃光等)を伴う片頭痛の患者には脳卒中のリスクは高まるため処方できない、心疾患や血管病変を伴う糖尿病、肝障害や脂質代謝異常、血栓性素因のある患者さんには処方できない……などなど、何か病気があると処方が難しくなる点も。また、成長期にはホルモンの影響を受けて骨の成長が止まる為、思春期でも背が伸びる可能性があるうちには処方できない事もあります。

 また、40歳以上は、一般に心筋梗塞等の心血管系の障害が発生しやすくなる年代であるため、これを助長するおそれがあり慎重に投与、とか、過去に乳がんの既往がある、子宮筋腫がある患者には再発や筋腫の膨大を招くリスクがあるので慎重に投与、肥満や高血圧がある場合は慎重投与、などなどなど、そのリスクゆえに慎重投与となっている場合も多くあります。なので、低用量ピルは、必ず医師の診察を受け、きちんと診断を受けてから処方してもらうようにしてください。ネット通販や個人輸入などで医師を通さずに服用する事は極めて危険です。やめましょう。

 佐伯さんも漫画で描いている通り、女性でもその症状を共感しにくい人もいます。また、男性によくある、「高校生が婦人科に行くのは……(ニヤニヤ)」という偏見は、本来思春期以降の全ての女性のためにあるはずの婦人科に対して失礼にも程があるし、こういった偏見のせいで女性特有の悩みを解決しにくくなる空気を作ります。

 婦人科は思春期以降の全ての女性がその悩みを解決するための診療科です。生理痛やPMSはもちろん、体調を崩してからおりものが何かおかしい、更年期の症状がつらい、試験や旅行で生理をずらしたい人も婦人科へ行くのです。日本は「生理は必ず月1回来ないといけないもの、自分の都合でずらす事なんて」という遅れた風潮が未だにありますが、健康な体を持つ人であれば、こうした低用量ピルを使う事でより快適に、自分らしく生活を保つ事ができます。

 実際、筆者も薬の種類は違えど低用量ピルの恩恵にあずかっています。生理前のイライラや精神的な不調が落ち着いたのはもちろん、生理痛も緩和され、出血も服薬前よりも半減程度になりました。ただ、血栓症だけは怖いので意識して水分を摂取しています。また生理が来る頃が前もって分かるので、予定の立てやすさも格段に上がりました。

 子どもから女性に体が成長する時、成長した後、閉経した後、全ての年代に婦人科が関わるべき疾患が隠れている場合があります。そうした隠れた疾患を見逃さないためにも、偏見を持たず、かかりつけの婦人科を持ち、生活の質を保てるよう上手に薬を使うなどしましょう。

<引用・参考>
ヤーズフレックス配合錠添付文書(PDF)
日本プライマリ・ケア連合学会女性医療・保険委員会|PCOG 明日から実践できるOC/LEP処方(PDF)

<記事化協力>
佐伯サエさん(@SAEKI_SAE)
 
(梓川みいな/正看護師)