かつて、帆船は船の主流を占めていました。大きな帆を掲げて風の力で進むその姿は、まさに「海の女王」の風格があります。しかし風によって速度が左右されること、そして操船に高い技術と人手がいることなどから、現代ではエンジンを用いる船(汽船・動力船)が主流となり、帆船は操船を学ぶ練習用や、ヨットなどの小規模なものに限定されるようになっています。でも地球環境、気候変動の問題が注目を集める中、変わった形で風を利用する船の構想が持ち上がっています。

 航空機メーカー、エアバスが2018年8月4日(ヨーロッパ中央時間)に明らかにした、グループにおける二酸化炭素(CO2)の排出削減に向けた取り組みで、大型貨物船に搭載する「シーウイング(SeaWing)」というパラグライダー型の凧(たこ)の構想が披露されました。これはエアバスグループ内にある、エアシーズ(AirSeas)というスタートアップによって開発されたものです。

 シーウィングは普段、大型船の船首部分に折りたたんだ形で搭載されています。船橋(ブリッジ)からのスイッチ操作で、追い風を受けていると判断されると自動的に前方(風下)へと展開されます。形はパラグライダーやパラセーリングで用いられている「パラフォイル」と呼ばれる一種の翼型をもったもの。空気をせき止めるだけの単純なパラシュート型と違い、中に風を通すことで飛行機の翼のような形になり、揚力が発生します。これにより、単に風をはらむだけの従来の帆よりも効率よく風の力を利用できるのです。

 方向の制御も、パラグライダーと同じく、繋がっているロープを操作することで可能。現代の大型船には風向きやその強さ、海流などのデータがリアルタイムで計測されており、そのデータを用いて自動的に効率の良い方向へシーウイングを動かすことができます。風が弱まったり、風向きがよくない状態になった時は、また自動的に回収されて折り畳まれ、次の機会に備えることに。

 エアバスでは、このシーウィングを展開して風の力を利用することで、現在ヨーロッパとアメリカの工場を行き来している部品運搬船の燃料を20%削減することを目標に掲げています。これは二酸化炭素排出量に換算すると、年間で8000トンにもなるとのこと。

 地球環境、特に気候変動の問題で二酸化炭素排出削減への努力が叫ばれる中、こんな形で帆船のようなアイデアが復活するというのは、なかなか興味深いものがあります。しかも、航空機メーカーらしく、航空力学を応用しているのも面白いですね。エアバスの取り組みがどのように実を結ぶのか、注目です。

Image:Airbus

(咲村珠樹)